第四次安倍改造内閣の回顧(1)

……2018/10/02~2019/09/11、第四次安倍改造内閣時代の外交を振り返る文章です。

この時代の外交を語る際の代表閣僚は、安倍首相でも河野前外相でもなく、あからさまに主役とは言い難い岩屋前防衛相であったと考えています。

6/1日韓防衛閣僚非公式会談を境とした岩屋氏の評価の変化は、実は安倍首相周辺における外交勢力図の変化の現れではないか、というのが私の思いだからです。


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一連の文章の目次については、下記ページをご覧ください。
https://tenttytt.hatenablog.com/entry/2019/10/10/135429


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この第四次安倍改造内閣の発足した時期は、G20大阪サミットやTICAD7といった日本が主催する国際会議が複数控えていました。
それに伴う……かは判りませんが、「自由で開かれたインド太平洋『戦略』」から『戦略』の文字が消えました。

日本外交の仮想敵も、中国あるいは北朝鮮という具体的な国家から「基本的価値に基づく国際秩序に対抗する秩序による挑戦」という概念的なものへと変化しました。


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第四次安倍改造内閣期の外交は

  • 国際秩序への支援を前提とし、それに反する新たな秩序を作り出し挑戦する者…テロリズム・不寛容主義から海賊行為、債務の罠で相手を破綻させる者まで様々…に国際的に協力して対処する

という、G20サミット主催国に相応しい厳格さと寛容を併せ持つものでした。

これまで国際秩序を無視してきた中国や、中国を見習う新興諸国に対し、更なる圧力と協力を通して秩序側への回帰を一歩ずつ促そうとした訳です。

実際中国政府はこの流れに便乗し、隣国干渉に対する非難を無視しながら、途上国への一部債務放棄や保護貿易反対など、国際秩序への回帰をアピールする格好の機会を得ることが出来ました。

あくまでトランプ政権が対中圧力を強化した結果可能となった外交戦略であり、
かつ安倍首相とトランプ大統領の信頼関係のもと、その力が国際秩序という枠の中で制御出来る限りのものではありましたが。


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※観艦式旭日旗問題に際しての、第四次安倍改造内閣発足前後の対応の違いは、この時期の方針転換の代表例と言えるでしょう。

防衛相退任直前の小野寺氏が、国際法規上の正当性を基にあくまで掲揚参加に固執していたのに対し、交代直後の岩屋氏が即座に観艦式不参加を表明したのは、

  • 旭日旗問題が未だ「国際秩序に対抗する秩序『による挑戦』」とは見なし難いため
  • 「自由で開かれたインド太平洋」構想上、海域安全保障に形なりとも賛同する韓国海軍との対立を避けるため


ではないか、と考えられます。

恐らくは岩屋氏自身の発案というより、改造内閣に対する首相の意向を汲んだ小野寺氏の引継オプションでしょうが、どちらにせよ第四次安倍改造内閣発足による外交方針転換を振り返る一つの材料ではあります。


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さて、この時期の防衛省の対応は、特にレーダー照射問題への言及を続けながら、一方で韓国国防部との対話や海自セミナーに韓国軍人を参加させる等、他省庁と比較した岩屋氏の融和性が特徴でしたが、

実はそこには北・中・露への睨みの問題以上に、この時期特有の外交方針が関わっています。


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過去6年間韓国と接した内閣・官邸古参の本音はやはり、諸政権を通して「基本的価値に基づく国際秩序に対抗する秩序」が国民レベルまで醸成された韓国そのものへの制裁だったのでしょう。

しかし「国際秩序に対抗する秩序からの挑戦」は東アジアに留まらぬ世界的な状況であり、G20主催国として彼らへのスタンダードな対応と、アメリカを中心とする基本的価値を共有した諸国間の連携を、世界に示す必要があったのです。

それ故に、文在寅体制終了後を視野に入れた軍事面での日米韓再連携は、当時としては最も現実的なビジョンでした。

中国政府以上に国際秩序への回帰が困難な文政権に対し、他省庁が対立的交渉を行う一方、文政権と切り離すことが望ましい軍部に対して回帰へ向けた交渉を継続することは、「国際秩序に対抗する秩序からの挑戦」への一つの理想的対応です。

※もちろん現場としてはたまったものではないですが、それ故に現場での突発事故……レーダー照射がエスカレートする事態まで憂慮したのが、自衛官支援議員連盟会長であった岩屋氏の本音だったと思われます。
建前の日米韓同盟以上に重視したこの姿勢は、7/16ペルシャ湾派兵依頼に際しても繰り返されています。


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それ故に岩屋氏の対応は、「自由で開かれたインド太平洋」構想や「国際秩序に対抗する秩序からの挑戦」、更にG20での国際連携アピールという第四次安倍改造内閣の方針に則ったものであり、
米国側の防衛構想などとは別個の日本独自の原則として、脆弱な部分を担う岩屋氏が展開した融和的対応を追認するが如く、首相自ら日米韓の軍事面での連携を提唱し続けたわけです。


この状況が変わったのは、2019年5月でした。


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『第四次安倍改造内閣の回顧(2)』に続きます。
https://tenttytt.hatenablog.com/entry/2019/10/10/140411