補論:DFFTに関する協力のための 2021年G7ロードマップ(附属書2)拙訳

前回から話が飛んですみません。2021/04/28~/29、G7デジタル技術大臣会合が行われたので、今後文章作成予定のG7外相会合やサイバー司法に関わる件として少しだけ触れておこうと……本論の前の補論という形で申し訳ありません。

 

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G7デジタル・技術大臣会合がテレビ会議形式で上記期間開催され、総務省から武田大臣、経済産業省からは佐藤政務官参加しました /経済産業省HP。

www.soumu.go.jp

この会合の結果閣僚宣言および4つの附属書が採択されましたが、この附属書2において安倍前首相が提案して以降日本のデジタル外交政策の看板となったデータフリーフローウィズトラスト、いわゆるDFFTを進展させるためのロードマップが初めて提示されました。(現在日本政府が提唱しているDFFTについてはhttps://www.mofa.go.jp/mofaj/files/100167362.pdfこちらをご参照ください)

 

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データフリーフローウィズトラストに関する協力のための G7 ロードマップ


国境を越えてデータを流通させることは、経済成長とイノベーションにとって不可欠である。COVID-19 により、信頼性のある自由なデータ流通の必要性及び世界的な復興における役割が明確になった。

我々は、プライバシーやデータ保護、知的財産権、安全性に係る課題に引き続き対処しつつ、我々の経済や社会においてデータが持つ力を引き出すことの重要性を認識する。

我々は、データガバナンスに対する多様なアプローチを認識しつつ、有益なデータ駆動型技術が持つ潜在力を引き出し、経済と社会に利益をもたらすための国際協力を促進し、個人情報を適切に保護するために協力することが極めて重要だと確信する。

2019 年の G20 大阪首脳宣言及び G20 貿易・デジタル経済大臣会合閣僚声明、2020 年の G20リヤド首脳宣言を踏まえ、我々は、志を同じくする、民主主義的で開かれた外向的な国として共有する価値に基づき、信頼性のある自由なデータ流通による利益を実現する取組を支持する。

このことを実現するため、我々は、このアジェンダに関する具体的な進展をもたらし、企業や個人が技術を利用する際の信頼性を高め、経済的・社会的価値を高めるための方法を示した「データフリーフローウィズトラストに関する協力のための G7 ロードマップ」(附属書2)を承認する。本ロードマップの一環として、我々は、合意した優先分野における相互に受入可能なデータ共有プラクティスの発展を加速化していく。また、データローカライゼーションによる経済・社会的影響を立証する。さらに、OECD による「越境データ移転に対する規制アプローチの共通項マッピング」や、信頼性のある「民間セクター保有の個人情報に対するガバメントアクセス」に係る取組の進展を支持する(以上、総務省HPによる閣僚宣言邦訳)

 

平たく言えば、2021年度中に

  1. データローカライゼーション(DFFTの立場とは逆に人権・産業保護、国家安全保障の観点などの理由から個人情報や国家にとって重要なデータを国家・領域内にとどめる事https://www.meti.go.jp/policy/trade_policy/wto/3_dispute_settlement/32_wto_rules_and_compliance_report/322_past_columns/2018/2018-5.pdf)がもたらしている影響分析
  2. 国境を超えるデータ流通に対し各国に残置する規制について、共通項をもとに最適解の調整アプローチを検討する
  3. 政府による民間企業へのデータアクセスに対する合理性を検討
  4. ヘルスケアを皮切りにデータ流通開発の優先分野を検討

の4つについてG7及びOECDの枠組みを中核として協力・検討するロードマップを作製したということです。

 

……なお、附属書2の概要については閣僚宣言で邦訳されていますが、残念ながら附属書自体の邦訳は5/7現在まだ掲載されていませんでした。とりあえず下記、Googleベースで恐縮ですが拙訳を作成いたしましたので、ご興味があればご覧ください。

 

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2019年G20大阪首脳宣言、2019年G20貿易・デジタル経済大臣声明、2020年G20首脳リヤド宣言に基づき信頼をもってデータの自由な流れを促進し、人々、ビジネスや経済に利益をもたらす協力のため、G7デジタル技術大臣はオーストラリアと韓国とともに4つの分野を特定しました。。これはプライバシー、データ保護、知的財産権、およびセキュリティに関連する課題に引き続き対処しながら行います。 このアジェンダで具体的な進展をもたらすためのロードマップを設定しました

 

協力の主要分野


このロードマップは、4つの横断的分野でのG7間の共同行動の計画を示しています。


1.データ・ローカライゼーション:

国境を越えてデータを移動および保護する機能は、経済成長とイノベーションに不可欠です。 データ・ローカライゼーションは企業、特に中小企業(MSME)のデータ流通に影響を与える可能性があります。 グローバルに分散したデータエコシステム全体でのデータ・ローカライゼーション対策の経済的および社会的影響に関するさらなる証拠と堅牢な分析が必要です。

これを収集するために、データ・ローカライゼーション対策の影響とこれらのアプローチに対する代替の政策対応に基づく証拠を構築します(貿易大臣トラック- GOV.UKとの一貫性を認識します)。 これにより各国当局あるいは学界・企業グループといった外部ステークスホルダーからの証拠が、他のフォーラムからの情報とともに集積され、将来の多国間(multirateral)および特定利害を持つ複数国間の(plurilateral)協議に情報を提供するのに役立ちます。 これらにはG20デジタル経済タスクフォース、デジタル経済政策に関するOECD委員会のデジタル経済におけるデータガバナンスとプライバシーに関する作業部会、OECD貿易委員会の作業部会、およびインターネットと管轄政策ネットワークが含まれます。

 

2.調整(訳注・Regulatory 総務省訳では「規制」)協力:

各国国内でのアプローチの違いにより、国境を越えたデータ流通に影響を与え、政府・企業・個人に不確実性(法的不確実性を含む)を生み出す可能性があります。 G7デジタルおよび技術当局は越境データ移転に対する規制アプローチの共通項、国家間での優れた調整の実践および協力を特定するための作業を促進します。

「GoingDigital3-成長と幸福のためのデータガバナンスに関する水平プロジェクト」および「越境データ移転に対する規制アプローチの共通項マッピング(訳注・この文章| Wilson Centerの引用に使用されているようですが、所在と内容を確認できません)」を含むOECD分析に基づいて構築します。 ベストプラクティスのケーススタディに焦点を当て、データガバナンスとデータ保護に関する協力を強化し、違いを克服する機会を特定し、規制アプローチの共通点を探り、メンバー間の相互運用性を促進します。

私たちは、英国の情報コミッショナーオフィスが主導する、すべてのG7データ監督当局および/またはデータに関するその他の管轄当局で構成され、それらと協力して開発されたイベントを開催します。 このイベントは2021年に開催され、革新的なアプローチ、規制の施行、国境を越えたデータ流通を可能にする規制に焦点を当てた調整協力を検討します。

2021年に別の分野横断的な規制当局のイベントを開催します。このイベントでは、データ監督当局やその他のデータ担当当局、およびデジタル分野全体のその他の規制当局が集まり、ベストプラクティスを共有し、国際協力をサポートします。

 

3.データへのガバメントアクセス:

堅牢なデータ保護・プライバシー・合法的なアクセス体制と、政府が民間部門の個人データにアクセスするための有効な必要性との間には明確な関連性があります。 私たちは国内のデータ保護とプライバシー基準、合法的なアクセス体制を支える合理的な原則、および国境を越えたアクセスを容易にする法的権限と取り決めを維持することに取り組んでいます。
私たちは、信頼できる「民間セクター保有の個人情報に対するガバメントアクセス」に取り組んでいるOECDの起草グループの目的と目的を支援することを含め、これに関して志を同じくするイニシアチブとグループに関与します。

 

4.優先セクターのデータ共有:

COVID-19危機は、ヘルスケアなどの優先セクターにおけるデータ共有へのアプローチについてコンセンサスを見つけるために、志を同じくする州の価値と必要性を示しています。 G7は保健大臣トラックの一環として、健康データの相互運用性と基準について協力しています。私たちは、より幅広い優先分野の相互に受け入れ可能なデータ共有慣行の開発を有意義に加速するよう努めます。
私たちは、政策立案者間の一連の焦点を絞ったワークショップを通じて協力し、データ共有がG7加盟国に社会的利益をもたらす可能性が最も高い優先分野を特定します。これには次のものが含まれます。実質排出量ゼロへの野心;イノベーション、科学、研究;教育;と自然災害の軽減。
私たちは知識を共有し、開発された場合は、データの共有と革新を支援または妨害する可能性のある要因に関するベストプラクティスを共有します。これは、事前に証拠を共有して、専門家主導のフォーラムを介して行います。これにはデータ仲介者(訳注・The EU Wants 'Data Intermediaries' As An Alternative to Big Tech Platforms参考)、データファウンデーション(訳注・Data Foundationのこと?)、信頼の確保、プライバシー強化テクノロジー(PET:訳注・デロイト トーマツHP参考)の採用の検討へのアプローチが含まれる場合があります

 

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 ……さてこの附属書2をざっと読んで個人的に気になったのは、まず参加国のうちDFFTに懐疑的なインド・南アフリカが署名に加わっていない事です。

逆に言えばオブザーバー国の一部が署名に加わらなかったとしても、G7+オーストリア・韓国の枠組みでDFFTのロードマップが採択されたという事です。

 

これにはインド側のラビ・シャンカール情報相がG7の場で直接DFFTを否定、会合の流れをひっくり返す暴挙に出るような攻撃的な人物とは考え難かった事も、理由として挙げられるのではないでしょうか。

newsonair.gov.in

 

G20リヤドサミット等でデータ・ローカライゼーションの中心概念となるデータ主権の正当性を主張しても、

www.hindustantimes.com

 

 少なくともゴヤル商相のように会合の場で明らかにDFFTを否定することは無かったので。

www.ibef.org

 

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もう一つは今回のロードマップ以前に、既にDFFTを採択している国際協定が存在するということ。日英EPAやRCEPがそれです。

 

tenttytt.hatenablog.com

特にRCEPでは参加各国がDFFTを採用するまでの国内法調整期間を論じていたのですが、このG7ロードマップに則り採択される国際規範をベースとすれば、もう少し各国との調整もスムースだったのではないかと思います。逆にRCEPの結果がG7ロードマップに反映される……とも思えませんし、ねえ。

 

安倍政権最後の外交:京都コングレスとサイバー司法

2021/05/24訂正:最下段の一節について、IEG→国連総会決議74/247に訂正いたします。最下段の一節は同決議およびIEGの活動を引き継いだと称するサイバー犯罪アドホック委員会に関係するものです。

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はじめに

 2ヵ月以上のご無沙汰となりますが、少しずつ文章を書いていこうと思います。

ちなみにスマホは完全に壊れました。新しい環境でのブログという事、またますます悪化する文章書けない病もあり、今回の文章にひと月かかってしまいました…

 

とりあえずひと月前の話で恐縮ですが……今回は2021年3月に行われた京都コングレス、特にほかで殆ど取り上げられなかった京都宣言の内容から派生する話になります。

 

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 1. 京都宣言

1-1. 京都コングレス及び京都宣言までの背景

  2021年3月7~12日、第14回国連犯罪防止刑事司法会議(以下「京都コングレス」)が京都で開催されました。このコングレスは5年に一度開催される犯罪防止・刑事司法分野における国連最大の会議となっています。

www.moj.go.jp

 

 各メディアでは国際女性デーに関連する話題 - 大阪日日新聞あるいは保護司の国際展開のようなわかりやすい話 - 産経ニュースばかりがクローズアップされたイベントでしたが、このコングレスは専門家の議論と知見の共有、また各国が今後5年間優先して取り組むべき方策を取りまとめた「政治宣言」の採択を主な目的としています。

 

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*上記コングレスの概要については京都コングレス HPの第2・第3パラグラフからの流用ですが、個人的観点のもと表現を変更しています。

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もともと2020年4月に開催予定だった当会合ですが、コロナの影響を受け約1年の延期を余儀なくされました。つまり京都コングレスは2019年6月のG20サミット・8月のTICADアフリカ開発会議)7に続く、本来であれば安倍政権下での最後の国際会合として準備されていたものだったわけです。

 

今回は、この京都コングレスを安倍外交の締めくくりという観点から(実際には自分の力不足により当コングレスがどれだけ安倍政権の性格を受け継いだものかは図りかねるのですが)捉え、またその観点から本来は当コングレスでもう少し深く掘り下げられるものだったであろうサイバー犯罪に関する司法外交についてを文章化してみようと思います。

 

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※京都コングレスの主題について、主催者側より”SDGs”と”法の支配”をクローズアップする | SDGs CONNECT HP旨のアナウンスがありましたが、前者についてはもともと前回2015年のドーハコングレスの際に(当時はSDGsではなく”ポスト2015年開発アジェンダ”として)言及されたものであり、今回はその再確認を行った形だといえるのではないかと。サイドイベントの議題としてはともかく、京都宣言の核心的な特徴とは言い難いでしょう。

 

また京都コングレスを中核イベントとする安倍政権下での司法外交の展開案については、2017年6月に自民党司法制度調査会が提言した5方針8戦略がありましたが

www.jimin.jp

……こういう政治家目線の夢見がちな司法外交戦略とは全く異なる次元に、コングレスの核心は存在すると思います。

 

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さて上述した通り、京都コングレスを含む国連犯罪防止刑事司法会議の中心トピックは参加国全会一致による「政治宣言」の採択とされています。

その後の犯罪防止・刑事司法方針の国際指標となるこの「政治宣言」は性質上、前回の政治宣言を踏襲・発展させた形のものとされ、また宣言採用に関する参加国間の意見調整はコングレス開会までに終了しているのが慣例となっています。

www.moj.go.jp

和訳http://www.moj.go.jp/KYOTOCONGRESS2020/programme/download/meeting02.pdf

原文http://www.moj.go.jp/KYOTOCONGRESS2020/programme/download/meeting01.pdf

 

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この京都宣言採用までの流れ、言い換えれば宣言の文言に関する参加国間の論争について、Global Initiative against Transnational Organaized Crime(以下”GI-TOC”。組織犯罪に関する法執行機関や専門家等が参加するジュネーブ市民社会組織)が記事にまとめています。

globalinitiative.net

 

 

こちらの”Areas of disagreement”の章で

"However, it is striking that there remain more numerous areas of disagreement in the draft text. Although it is not unusual to find dissonance in negotiations of this kind, it is unusual that there are fundamental issues on which there is not yet consensus."

>しかし草稿には意見の相違に関する、より多くの領域が残っているのは明らかです。この種の交渉で不協和音を見つけることは珍しいことではありませんが、まだコンセンサスの得られていない根本的な問題があることは珍しいことです。

と記している通り、また上記京都コングレスHP上は3/7(開会時点)とされる京都宣言のHP公開が実際には3/12(最終日)であった事からも想定される通り、参加国間の意見の隔たりは大きいものであったと思われます。

 

なお GI-TOC記事では16に及ぶ具体的な論点を抜き出していますが 、各国の実際の意見書が殆どネット上で確認できない事もあり内容については深くは触れません。争点となる文言が京都宣言で採用されたかについては、興味のある方は宣言英訳からサーチしてみてはいかがでしょうか。

 

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1-2. 従来の宣言と比較する、京都宣言の特徴について

各国の論点と京都宣言への反映について触れなかったのは、各国の生の意見を調べることが困難だったからだけではありません。

この点にクローズアップすれば、犯罪・司法の各論点に関する日本の立場を確認することは可能でしょう。以前大阪トラックではこの方法で掘り下げを謀りましたし、後日掲載予定の第2章でもこの方法を使う予定です。

しかし私が考えたいのはあくまで犯罪・司法を通じて日本が展開した「外交」の性質を垣間見ることです。コングレスで扱う論点は国際司法上の論点は膨大かつ日本の立場に一貫性を見出し難く、大阪トラックのような一点突破を謀ることが難しいのです。

 

そこで前回2015年のドーハ宣言との差異、特に「世界各国が何を中心軸に自らの司法論理を考えていくべきか」についての京都宣言の特徴を拾っていこうと思います。この部分には司法などの専門的論争を越えて主催国日本の外交の性質、理想とする国際観が浮き出てくると考えられるからです。

 

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2015年ドーハ宣言和訳(法務省HP)http://www.moj.go.jp/content/001292336.pdf

同原文(国連HP)https://www.un.org/ga/search/view_doc.asp?symbol=A/CONF.222/L.6 

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このような考え方から京都宣言の特徴を列挙すると、下記のような所でしょうか。

 

①現状に関する深い憂慮(deep concern: 第1章及び第2章)

②犯罪防止戦略と政策策定の主要な役割と責任は国家政府に帰属(第9章)

③多面的(multidimensional: 第4章 及びmultidisciplinary: 第10章)単語使用

④必要・適切(as appropriate:  第10・41・46・74・81・88章)の広範かつ慎重な使用

⑤犯罪防止刑事司法委員会(CCPCJ|国連広報センターHP: 第11章)の中心的役割

⑥多国間(multilateral: 第15及び17章)の無制限使用

⑦国家の主権平等・領土保全原則に加え、他国の内政不干渉原則尊重(第19章)

⑧国連被拘禁者処遇最低基準規則等(第35・36・45章)の各国実務への反映と手続確立

⑨北京ルールズ適用に際し、少年(juvenile: 第45章)という単語の採用

⑩国際的義務(international obligation: 第67・76・82章。例外第20章)の控えめな表現

⑪サイバー犯罪への対処の具体性排除(第93~95章)

 

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このうち①については、多様性・国際性といった新しい性格の犯罪への憂慮を宣言冒頭部に盛り込まないドーハ宣言の方が特殊であったと思われます。特に国政刑事司法上の課題をSDGsへ統合させようとする2015年の風潮では、国連主導での解決の可能性を楽観的に考えていたのかも知れません。

 

※ちなみに前々回2010年のブラジル・サルバドール宣言では宣言序文に「大いに憂慮」と記しています。

和訳https://www.unafei.or.jp/activities/pdf/other/Salvador%20Declaration.pdf

原文https://www.unodc.org/documents/crime-congress/12th-Crime-Congress/Documents/Salvador_Declaration/Salvador_Declaration_E.pdf

 

 また⑨Juvenile表現の採用についても、この用語を用いた"少年司法運営に関する国連最低基準規則(北京ルールズ)"についてドーハ宣言がはっきり言及していない(2010サルバドール宣言では原文26章の備考にて言及あり)ことが原因と思われます。

北京ルールズではこのJuvenile

>各国の法制度の下で犯罪のゆえに成人とは異なる仕方で扱われることのある児童(child)もしくは青少年(young person)

http://www.kodomo-hou21.net/_action/giffiles/Beijing_Rules.pdf

と定義しております。

 

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③の多面的、multidimentional/multidisciplinaryに対応する文節は、主にドーハ宣言でのinclusive(包摂・包括的)という言葉から置き換えられたようです(第3・4章)。逆にドーハ宣言で多用されたinclusiveという表現は、京都宣言では表題を含む、ドーハ宣言での採択事項を踏襲する数文節に限られています。

 

 このinclusiveという言葉、近年使われてる用例から意味をざっくり言えば

  • exclusiveの対義語として「排他的でない」こと
  • diversity(多様性)との違いを強調し「多様な個人の思い・特性を尊重し活かす」こと

といった所でしょうか。京都宣言での変更は極論すれば、多様な国家の思いを取り入れることを大前提としたドーハ宣言とは異なり、それら思惑をただ意見・視点の一つとして受け入れるに留める、という意識の表れだったのではないかと思われます。

2015年当時の包摂性重視の姿勢が広範な国際的不理解を生んだことを鑑み、各国対立の収束点を見つけるための「多面的」アプローチへと移行したのでしょう。

 

各国対立の収束点を見つける、という意味で顕著なものに⑦内政不干渉がありますが、これは人間の安全保障 : 内閣府HPなど法の支配の国際的発展を取り上げる際に幾度となく各国の対立を招き続けたものであり、京都宣言に際しても上記GI-TOCの4番目の対立点として言及されている通りです。

ドーハ宣言では第5章で個人の平等論に留まり、人間の安全保障と内政不干渉を棲み分ける伝統的手法を採ったこの問題に、京都宣言があえて踏み込んだ理由について次の章で触れようと思います。

 

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1-3. 京都宣言の外交性と、国連フォーラムとの立ち位置

残りの論点について、ドーハ宣言における

 

②犯罪防止戦略と政策策定の役割帰属を、広範囲な「我々」と定義(第10章)

④洗浄資金追及など、犯罪防止への国際協力を中心としたas appropriateの使用

⑤コングレス等で検討した事項の要請相手としてのCCPCJの扱い(第2・6・8・9章)

⑥多国間(multilateral)の「④適当な場合には(as appropriate)」という限定使用

⑧国連最低基準規則などに各国が「従う」前提の改善制度要請(第5章)

⑩京都宣言でも踏襲された国際法上の義務(obligation under international law)のみ

 

 これらの態度から比較すると、京都宣言の重要な特徴は

  • 国家の最高責任、またCCPCJなど国連機関や国際規則の地位を改めて定義
  • 国連会合を包摂の場ではなく、橋頭保となる規則の設定の場と定義
  • 国内法を尊重した上で、国連規則との具体的すり合わせ方法の提示

…これまでの政治宣言は、コングレスに集結した国家や専門家が一方的に主張し、自らの見解に国連機関や各国への実施を要請するだけのものだったのに対し、京都宣言では国家及び国内法と国連機関及び国際規則の双方を尊重、両者の隔たりの存在自体を肯定した上で「どの地点まですり合わせを図るべきか」を提示していることだと言えるでしょう。

 

被拘禁者処遇基準規則に関する各種ルールについてそれぞれ収束点を変え、慎重にas appropriateを使うなど細かな調整を行った結果、既存の政治宣言及び国際規則と各国国内法の間合いの再確認を試みたのが京都宣言の特徴と考えられるわけです。

 

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京都コングレスが表向き掲げた全体テーマ、SDGs目標16 (SDGsジャーナルHP)達成に向けた犯罪防止・刑事司法及び法の支配の推進を盛り込み、ただ参加国の反対をすり抜けて政治宣言を採択させたいのであれば、このようなギリギリの論点を各国に突き付けたりはしないでしょう。

ドーハ宣言やサルバドール宣言、あるいはそれ以前の政治宣言のように刑事司法の専門性や人権の平等性、更には事務総長が主導した国連行動計画の無謬性に逃げ込み、あとは国連機関などに自らの意見を放り投げれば済むことです。

専門家会合というコングレスの伝統的一面から考えれば、また包摂的に各国の意向を飲み込むドーハ宣言からの流れを考えれば、従来のこの流れは当然の帰結ではあります。そして宣言で取り上げたビジョンが包摂的なものであるほど、また国連機関でも扱いきれない位広大であるほど、専門家たちは喜んだのではないでしょうか。

 

しかし京都宣言では目新しいビジョンを提示する代わりに、法的拘束力を持たない国連規則・準則や国際的義務と国内法の向き合い方を「最高決定機関である各当事国に」提示しました。議題一つ一つに当事国の実情と向き合い、従来の政治宣言にわずかでも実効性を持たせるための多面的アプローチを粘り強く行った結果と言えるでしょう。

 

この収束点の攻防の結果報告書と言える京都宣言は、その意味で国際司法というより最高決定機関である参加国すべての政府と日本政府の外交宣言と見做し得る訳です。

 

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同時に、非合意的な国連規則が当事国全てに波及する国際規範たりえる理由は当事国の国政レベルでのすり合わせによるものであって、国連フォーラムの場などで新たな国際規範を検討することそれ自体ではない……という日本側の見解も含んでいると考えられます。

たとえば国連のフォーラムにより見かけ上インクルーシブな意思決定を行ったと公言しても、それ自体は当事国の実情を反映したものではないのです。

 

特に国政に携わらない専門家、あるいは国政事情を反映させようとする特定国家代表の手による、以前の規範をもとに築いた国政上の収束点を突き崩す新たなルール作りへの日本側の懸念の表れなのではないか……と思われるのです。

 

そしてその特徴は、⑪京都宣言がサイバー犯罪排除に関しては具体的な内容をほとんど記載しなかった(第93・95章)ところにも表れています。

 

 

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1-4.第2章のプロローグとしてのG77+中国の意見書

さてこの疑問に関連する話なのですが、先ほど「殆ど見つけられなかった」と記した京都宣言に対する各国の生の意見について、唯一発見できたのが下記のG77(G77ホームページ)+Chinaによる意見書です。 

 https://www.unodc.org/documents/congress/01_Statements_HLS/7Mar/G77_and_China.pdf(UNODCホームページより) 

 

GI-TOCの記事と異なり京都宣言に対するネガティブな記載が殆ど存在しないことから、恐らくは意見の調整に目途のついた終盤での中国+発展途上国連合の意見書だと思われますが、その第13章のみ京都宣言で全く触れなかった問題について記されています。

”13. The Group recognizes the complex nature of cybercrime and will continue to actively participate in the implementation of UN GA Resolution 74/247 on elaboration of a comprehensive international convention on countering the use of information and communication technologies for criminal purposes within the framework of the United Nations, taking into full consideration existing national, regional and international instruments and efforts at the national, regional and international levels on combating the use of information and communication technologies for criminal purposes, in particular the work and outcomes of the Open Ended Intergovernmental Expert Group to conduct a comprehensive study on cybercrime.
We support the elaboration of a convention that takes into account, inter alia, the concerns and interests of all Member States, in particular developing countries.”

 

>13.当グループは、サイバー犯罪の複雑な性質を認識しており、犯罪目的での情報通信技術の使用に対抗するための包括的な国際条約の作成に関する国連総会決議74/247の実施に、国連の枠組みの中で引き続き積極的に参加します。その際には国内、地域、および国際レベルそれぞれに対応した、犯罪目的での情報通信技術の使用に対する既存の手段と取り組み、また特にサイバー犯罪に関する包括的な研究を実施するためのオープンエンドの政府間専門家グループの作業と成果を極力考慮いたします。
我々はすべての加盟国、特に発展途上国の懸念と利益を考慮に入れた条約の作成を支援します。

 

 こちらで言及された「国連総会決議74/247」、また「サイバー犯罪に関する包括的な研究を実施するためのオープンエンドの政府間専門グループ(通称IEG)」とも、ドーハ・サルバドール両宣言におけるサイバー犯罪に関する国際的取り組みについてのものです。

ドーハ宣言では第9章(b)、サルバドール宣言では第41・42章で記載されている、これら現在進行中のサイバー犯罪に関する国際的取り組みの記述が、京都宣言では見当たらないのです。

最初の方に記した通り、政治宣言は前回宣言の内容を原則的に踏襲することを慣例としている……特に京都宣言は従来宣言の再確認の色彩を強く帯びているにもかかわらず、です。

 

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次回第2章では、既存の国際的取り組みと各国国内法との収束を論じてきたはずの京都宣言がこのサイバー司法関係についてのみ言及を避けた理由、また上記IEG国連総会決議74/247(2021/05/24訂正)を含むサイバー司法上の国際的対立と日本の立ち位置などの推論を通じて、日本の……おそらくは安倍首相のレガシーとしての司法外交の性格を確認していこうと思います。

 

恐らく忘れたころに、いつのまにか更新されていると思います。

 

茂木外相の『包容力と力強さを兼ね備えた外交』とアフリカのFOIP:及び更新休止のお話

安倍前首相が主導した『地球儀を俯瞰する外交』を継承発展させたという、茂木外相の外交方針『包容力と力強さを兼ね備えた外交』。

 

実のところ今まで「包容力は言ってみますと,多様性を尊重し,調整力を発揮する。そして力強さは,リーダーシップをとって行動力を発揮する|外務省」といった抽象的な表現に留まり、その内容が示された事は無かったのですが、2021年2月に発行された外交専門誌『外交』Vol.65の巻頭対談において、茂木外相が初めて具体的な考え方を示しました。

www.mofa.go.jp

https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/100143442.pdf

(巻頭対談・2021年の日本外交『ポスト・コロナを見据えた国際ルール作りを主導する』:期間限定公開の可能性があります)

〉さまざまな開発についても、こちらから押し付けるのではなく、アフリカ自身の発展を日本が後押ししていく、という姿勢が評価されています。そのような「包容力」の部分と、一方で「法の支配」が貫徹されていないような状況については、毅然とした態度をとる

本人曰く就任当初から提唱していたとの事ですが、当初は上述したような抽象的な表現しか無かったことや、アフリカを念頭に置いた外交方針などつい最近まで提唱した形跡は無い事からも、この『包容力と力強さを兼ね備えた外交』は2020年12月|外務省2021年1月|外務省のアフリカ外遊を振り返って提唱したもの、と考えて良いでしょう。

 

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インタビュー内容の最終確認が行われたのと同じ2021/01/18、第204回国会における茂木外務大臣の外交演説|外務省では「自由で開かれたインド太平洋(以下FOIP)」についても

〉考え方を共有する米国、豪州、インド、ASEAN、更には欧州、中東、アフリカの国々とも連携・協力

〉法の支配に基づく自由で開かれた秩序を構築することにより、地域全体、ひいては世界の平和と繁栄を確保していくというビジョン

と、海域秩序に関する日米同盟を中心軸とした豪州・インド・ASEAN・欧州の先・中進国抱え込みを示唆する昨年の外交演説|外務省から、インド太平洋にも相手国の国際影響力にも囚われない普遍的な秩序再構築のビジョンへと言い換えを試みています。このFOIPは以前作成した アフリカのFOIP(自己ブログより)の文脈に近いものと考えられます。

 

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 さて『アフリカのFOIP』では簡単に済ませてしまったのですが……発展途上国に民主的・自立的な発展を遂げるよう支援する事は、「国際秩序に挑戦する国内思想を抑制すること」「自国を支援する特定国家に忖度せず、国際秩序に挑戦する行為を糾弾出来る独立性を構築させること」2つの面で国際秩序維持に資するものです。

 

テロ勢力の拡大やクーデター、或いは彼等に対する過度の弾圧は各国政権の国際秩序からの離脱を促します。特定国家による政治的意図を持つ経済支援は、特定国家が展開する国際秩序への挑戦の弁護を各国政権に促します。

 

そしてこれらは健全な国際投資の撤退、不公正・不安定な経済維持を引き起こし、国際秩序からの離脱と挑戦者への依存を繰り返し各国政権に促すのです。

 

先進国・発展途上国を問わず世界各国が民主的な独立性を維持し、国益と切り離して秩序に則った発言が正当性を保つよう国際社会の修正を図らなければ、QUADのような海洋秩序の為の多国間連携も秩序の挑戦者や彼らに依存する者たちの声に押しつぶされ、国際的な正当性を失ってしまいます。

 

………………………………………

FOIP=QUADと論じる方々の思想的ベースと思われる、いわゆる「セキュリティダイヤモンド構想」を論じた安倍首相の談話にも、その要諦は記されています。

www.livemint.com

“for, at the end of the day, Japan’s diplomacy must always be rooted in democracy, the rule of law, and respect for human rights”

〉なぜなら結局のところ、日本の外交は常に民主主義・法の支配・そして人権の尊重に根ざしていなければならないからです

 

……長々と中国との対立図形とQUADに相当する多国間連携の話ばかりが論じられた結果、「FOIPにおける民主主義・法の支配・人権尊重への挑戦者=中国」「中国に対抗するための価値観共有国家間の連携」的な例えに使われてしまう事が多い一節です。

 

しかし重要なのは実際の国際社会……例えば途上国の“Like-Minded‐Group” が人権問題で中国擁護を展開する現状を顧みた時、セキュリティダイヤモンドを構築するための前提として

  1. 日本は例え一国のみとなっても民主主義・法の支配・人権尊重に根ざす外交を覆さない事
  2. 日本の行動が国際社会から民主主義・法の支配・人権尊重に反すると指差される場合は早急に是正を図る事
  3. 日本がアクションを起こす時に『国際秩序の挑戦者』の側から2. の様な逆捩じを喰らわないため、国際社会を構成する各国政府が忖度を行わないで済むよう彼らに国際秩序に基づく国家的自立・発展を促す事

まで、この一節が意味を含んでいるという事です。

 

それ故に価値観を共有する国家との排他的な連携以上に、現在共有しない国家との共通点探しと共有部分拡張のための外交を重視する。まさにこの一節は、セキュリティダイヤモンドが国際社会で単なる米中対立の方便と見倣されないためにどのような前提が必要かを記したもの、と考えるべきでしょう。

 

実際国際秩序の挑戦者達は、国連創設直後の国家関係絶対視と内政不干渉原則を盾に国際秩序そのものに対抗する中進・発展途上国連合を呼び掛け(自己ブログ) ているのです。

 

インド太平洋というサンプルのもと国際秩序の正当性獲得合戦を展開する事がFOIP、2016年インド太平洋の西端で初めて展開された『アフリカのFOIP』であるのなら……インド太平洋にも国力にも拘らず相手国の自立を促す“包容力”と、“法の支配”に則る統治や国際的発言を求める『包容力と力強さを兼ね備えた外交』は『アフリカのFOIP』の正統発展と言えるのではないでしょうか。

 

もっとも実のところ、茂木外相が本気でこのような考え方にシフトしているのかは判りません。 この考え方は寧ろ茂木外相以前のいわゆる「地球儀を俯瞰する外交」で展開されていたものですし、少なくとも今までの茂木外相は国際秩序の構築・対中包囲網・排他的経済連携と複数のFOIP解釈を駆使し、特定国家やメディアの指摘を逃れながら国益重視の外交を行って来たのですから。

 

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 最後に、現状で『包容力と力強さとを兼ね備えた外交』『アフリカのFOIP』を展開することの問題点について。

 

コロナ禍による草の根外交の遮断は、相手国に対して「包容力」と「力強さ」の印象乖離をもたらします。平たく言えば、

  • 軍事的支援を行えない日本の包容力は、相手国の治安が急速に悪化した際の回復即効性を持ち合わせていない

そう“思われて”しまうのです。特にコロナ禍においては、この問題が顕著となります。例えばモザンビークの武装勢力:BBCニュースしかり、ミャンマーのクーデター: BBCニュースしかり……

 

このモザンビーク武装勢力についてはコロナと台風禍のもと勢力が拡大、他地域への波及の兆候も見られており、EUが高い懸念を示しております。

 

日本の外相が初めて参加しFOIPの意義を欧州各国に改めて提唱した、とされる2021/01/25のEU外務理事会:外務省ですが、実はEU上級代表Borrell氏はこの会合に先駆けてポルトガル外相Augusto Santos Silvaモザンビークに派遣、現地軍事訓練を含む支援を申し出ています。

 

同国へはこの5日前に茂木外相が訪問、FOIPに資する当該地区(Cabo Delgado)の治安経費を含む無償資金協力:外務省支援を行ったのですが、モザンビーク側は武力支援を支援内容に含むEUに対して、改めて支援要請をし直しました。

 

つまり……日本が太平洋からアフリカ東岸まで含むFOIPを提唱したEU外相理事会で、当のアフリカ諸国がFOIPを当てにしていない事が露呈した訳です。

 

武装勢力であれ、特定国家からの政治的色彩を含めた経済進出であれ……国際秩序への挑戦を企てる者達に対し、特にアフリカ型のFOIPは即効性に欠けることは否めません。それ故に不断の支援で国力増進を促し、時の政権に国際秩序に則った独立性を構築させる事が不可欠なのですが、コロナ禍はその流れを断ち切ってしまったのです。

 

 

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 ……まとまりきらない文章で申し訳ありません。

実は今まで使用していたスマホが故障、借り物の端末を使って作成中の文章をとりあえず形にいたしました。

 

スマホが回復するまでいったん更新休止……といったところなのですが、健康上の理由もありしばらくネット全般から離脱する予定です。

 

 

 

小ネタ:ミャンマー軍の国家権限掌握

前回のブログで、ジェノサイド認定絡みでミャンマーロヒンギャの話に触れた早々、当のミャンマーで事実上のクーデターが発生しているとのこと。

www.cnn.co.jp

 

民主化のプロセスに逆行する行為への抗議と関係者の解放を求める日:外務省米:US.Department of Stateに対して拘束した国軍側を非難せず安定化訴える中国:時事ドットコムと、対象的な反応を示しているようです。

 

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今回の背景として、

  • 昨年11月の選挙でアウン・サン・スー・チーが属する与党・国民民主連盟(NLD)がミャンマー軍(以下Tatmadaw)系の諸政党などに、前回の圧勝を更に上回る勝利を記録したこと
  • この結果に対してTatmadaw側が不正選挙の疑いを示して抗議していたものの、ここ数日は収束傾向にあった中での出来事であったこと

などについては以下の記事 

toyokeizai.net

 

またその原点となるミャンマー政府とTatmadawの力関係、特にミャンマー政府の責に帰されるTatmadaw少数民族対策の流れや、彼らの発言力削減のため必要な憲法改正に関する問題については

toyokeizai.net

こちらの記事がよくまとまっているのではないかと。特に後者は前回のブログで

ロヒンギャを含む多くの少数民族(のうち軍事的色彩を持つもの)との和解をミャンマー政府の複雑な状況の中で導き出す

 とあっさり書き記した問題を、分かりやすく示していると思います。

 

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なおTatmadaw側が疑惑を呈していた今回の選挙について、日本から選挙監視団が派遣されていたこと|外務省を付記いたします。

 

 

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……Tatmadawの出方や各国の対応など、今後の報道で少しずつ判明することと思いますし、自分もあまりミャンマーの事情に詳しい訳でもありません。

 

また自分が調べても、Tatmadawがこのような事を起こした背景については11月の選挙結果以外に浮かび上がりませんでした。


とりあえずこの件はここまでと致します。

 

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最後に、恐らく報道やネットでも採り上げられないであろう、前回の話題に触れる報道記事をひとつだけ。

 

courrier.jp

……国際的な評判の悪化が先進諸国からの投資を遠ざけ、益々特定国家からの持続不可能な事業投資に依存していく。これはG20大阪サミット等で日本が再三採り上げた「債務の罠」の人権問題版です。

 

この様な事態を、当事国以外で後押ししているのは何者でしょうか。

 

毎日記事「外務省のウイグル『ジェノサイド』認定拒否」報道について

2021/01/26、ウイグル弾圧について外務省出席者が「日本として『ジェノサイド』とは認めていない」と発言した旨、毎日新聞が報道しました。

 

当該記事に対して捏造と断じたり、日本政府がウイグル弾圧に対して主なアクションを起こしていないと落胆したり、短絡的な反応が散見されます……が、このジェノサイド認定については、毎日新聞記事からだけでは解りにくい問題があるようです。

 

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1. 毎日新聞の「ウイグルジェノサイド否定」報道と外務省の伝統見解

mainichi.jp

〉米国務省が中国による新疆ウイグル自治区での行動を「ジェノサイド(大量虐殺)」と認定したことを巡り、外務省の担当者は26日の自民党外交部会で「日本として『ジェノサイド』とは認めていない」との認識を示した

 

……なかなかセンセーショナルな話が出て来ました。

 

もっとも多くの報道は以下の共同通信記事をベースとしており、このような発言が外務省側からあったという話は毎日新聞のみが伝えています。 

this.kiji.is

 

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ネット界隈では「外務省の発言であって政府のものではない」「毎日新聞しか報道していない」と、事実関係から否定する向きが多いですが、出席した自民党の佐藤外交部会長が自らTwitterに毎日記事を添付しており、少なくとも佐藤氏はこの記事の見解を否定していないのではないでしょうか。

 

そもそもジェノサイド認定について、外務省及び日本政府が消極的という問題があります。

www.mofa.go.jp

 昨年1月のロヒンギャ迫害に関する国際司法裁判所の仮保全措置に対してすら、外務省の立場はミャンマー政府の対応を前向きに評価する前提のものでした。

 

利権や中国の浸透に対応する意図もあるのでしょうが、日本政府の方針はロヒンギャを含む多くの少数民族(のうち軍事的色彩を持つもの)との和解|外務省ミャンマー政府の複雑な状況の中で導き出すことであり、押し付けではなく、その国に寄り添った民主化支援を目指す(第198回国会外相演説・外務省)方針に準拠したものとも言えます。認定と制裁行動が一体となるジェノサイド認定とは真逆の対応なのです。

 

なお逆に日本政府がジェノサイド認定裁判に積極的に協力したものとして、クメールルージュ(KR)に対するカンボジア特別法廷が挙げられます。

www.kh.emb-japan.go.jp

日本国政府は、次の3点からKR裁判を重視しています。 第一に、KR裁判は、1980年代末以来、我が国が積極的に協力したカンボジア和平プロセスの総仕上げで、 同国に平和を定着させるために極めて重要であること。第二に、本件裁判は、犠牲者への正義の達成に資すること。 第三に、クメール・ルージュ裁判は、カンボジアにおける法の支配の確立に資すること

 

このクメールルージュ裁判に際しカンボジア司法と国連司法の軋轢緩和に努めたのが日本政府だったのですが、クメールルージュ糾弾のためではなく、カンボジアが自らの手で国際秩序に向かう通過儀礼への支援であった事を念頭に置くべきでしょう。

 

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2. ジェノサイド認定の有効性

ところでこの議論のきっかけとなるアメリカ新旧国務長官によるジェノサイド認定ですが、

www.nikkei.com

〉「ジェノサイド」という文言の使用は、正式な法的判断を示すものではない。イスラム教徒が多数を占めるウイグル族への中国の弾圧に対して、制裁を発動するためのさらなる行動をバイデン氏が義務付けられるわけではない

 

実際のところ、当事国が提訴した国際司法裁判所の判断をもって初めてジェノサイドと認められるものなのです。例えば国連等の調査で「ジェノサイドが行われた証拠が発見された」と公表しても、そこから自動的にジェノサイドと認められるものではありません。

jsil.jp

 

そもそも日本はジェノサイド条約を批准していないため、当事国として国際司法裁判所に提訴することが出来ません。であればウイグル問題に関する外務省のアクションとしては人道的懸念という言及に止め、ジェノサイド認定自体は国際司法裁判任せ、と判断したのではないでしょうか。

 

 ※「国際司法裁判所への提訴では現実の迫害防止まで時間が掛かり過ぎる」という意味合いで捉えるのは残念ながら筋違いでしょう。ジェノサイド認定自体には年単位の時間がかかりますが、上述した仮保全措置のように短期間で現実のジェノサイド行為を中断する手段はあります。

 

 ただしこの場合、提訴当事国とならないのなら「ウイグル迫害は中国によるジェノサイドである」と認定する必要は薄く、ただ「ジェノサイドと思わしき事態が発生している」の修辞的表現として「人道的懸念」を表明すれば十分な効果があるのではないでしょうか。

 

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……なおこのような外務省の弱腰を責めるだけでなく、件の毎日新聞のように

〉バイデン政権が強硬姿勢をとれば日米の足並みが乱れかねない

 と批判する向きも出て来るのかも知れません。

 

しかし当のアメリカでは同じマスコミの側が 

www.cnn.com

 "A statement that a genocide is occurring in a foreign country is a political act, not a legal finding, and its impact therefore depends entirely on the reputation and credibility of the speaker"

〉ジェノサイドが外国で起こっているという声明は、法的な発見ではなく政治的行為であり、したがってその影響は話者の評判と信頼性に完全に依存します

"Pompeo announced the determination at perhaps the worst moment imaginable (with the US) at the absolute nadir of its standing in the international community"

〉ポンペオは、国際社会での絶対的な最下層で、おそらく(米国で)想像できる最悪の瞬間に決定を発表しました

 前国務長官の認定を引き継いだブリンケン氏の翻意を促そうと必死なのです。

 

なお、ブリンケン国務長官は1/27の記者会見で

“But I – my judgment remains that genocide was committed against – against the Uyghurs and that – that hasn’t changed”

〉しかし私は…ジェノサイドがウイグル人に対して犯された、という私の判断は変わりません(ロイターHumeyra Pamukの質問に対して)

 と、一見して中国によるジェノサイド認定を引き継ぐと思われる発言をしています。しかし前述した通り、中国という主語を述べないジェノサイド発言はジェノサイド条約に基づく提訴の要件としては不足なのです。

www.state.gov

 

未だ腹蔵の見えないバイデン政権のアクション、それも梯子を外される可能性が少なくないジェノサイド認定に外務省が容易に同調しないのも理由があると考えられます。

 

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3. 外務省・外交部会の見解相違に付け込むもの

 一方で、 外務省の姿勢を問う佐藤外交部会長の発言にも、それなりの説得力があります。 

mobile.twitter.com

 日本の基本的な外交方針である「価値観外交」(基本的人権・自由・民主主義・法の支配)を損なうことが無い様に、進めてなければならない

 

佐藤氏との考えとは恐らく異なりますが……国際秩序に挑戦する活動を特定国家が行った際、各国が忖度に屈せず、自立した精神をもって国際秩序に基づく抗議を行えるよう支援するのが日本外交の要諦であった、と私は考えます。価値観外交或いはFOIPを推し進めた日本の言動にブレがあれば、価値観を共有する後続国家群の相互不信を誘う事になります。

 

ブリンケン国務長官の発言が不透明なものであるほど、日本が後退らないことの重要性は増している、という考えなのです。

 

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外務省のジェノサイド認定忌避も、国際秩序を根底とする各国の自主的な民主化支援から成り立つものです。

 

佐藤氏以下自民党外交部会の思いも、やはり国際秩序を根底とする価値観外交の視点からのものです。

 

そして外交部会会合では、双方が「中国によるウイグル迫害」という事象に対して対応の必要性は認めた上で、「米国の不透明性」「価値観外交への一般的不信」「制裁の効果」「相手側政権の国際秩序復帰への支援」etc…と双方手持ちの現実側面からジェノサイド認定について異なる見解を下しただけに過ぎない。私はそう考えています。

 

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ところで、この様な側面が報道により切り取って伝えられ、また情報を受け取る側が極論を展開することで安易な結論に埋没していく。最近はそんな状況が続いている気がします。

 

これは昨年来のコロナ或いはアメリカ大統領選挙における仮定に満ちた議論、あやふやな証拠に疲れた結果なのかも知れませんが、とにかく背景や実情を調べ直す流れが少なくなってしまいました。 

 

そしてこのような不安定な世論に、政治表明も反映されます。その象徴とも言えるのが、ここ数年でもっとも端切れの悪い外相演説でしょう。

www.mofa.go.ip

 

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ブログを始めてそろそろ2年になりますが、昨年を振り返るとつくづく国際秩序に関する論陣の分断が目立つ一年だったと思います。この状況こそまさに

〉「人間の安全保障」への挑戦

だったのではないでしょうか。

 

 

外相の今年の漢字「隔」とアフリカのFOIP(12/15記者会見より)

〉数えてみますと109回、電話会談、テレビ会談を行っております。16か国を訪問した、その前にも6か国訪問していますから、今年で22か国ということになるのですが、また109回のリモートでの会談を行うことができたと。言ってみると、離れている「隔」の中でも、各国と密に連携できた1年ではなかったかと、そんなふうに思っております。

www.mofa.go.jp

 

2020/12/15の記者会見で、茂木外相は自らにとっての今年の漢字を「隔」だったと発言したそうです。

 

今年の漢字「密」を明らかに意識した選択ですが、実際引用の通り「隔」のリモート外交と日英EPAからリスタートさせた「密」の対面外交を織り交ぜた一年であったと思われます。

 

例えばG7サミットでは香港等への懸念について加盟国全ての賛同を導き出すのに、立ち話も出来ないリモート外交で苦慮した話もありますし、日英EPAもリモート外交で摺り合わせ切れない最後の詰めの為に直接交渉に及んでいます。

 

今回の「隔」発言は密と隔を巧みに織り交ぜた外相、また前外相時代と比べても表の活動の機会を増した副大臣政務官、また裏面で調整に努めた官僚含めて、外務省一丸となった今年一年の活動を表現するのに相応しい言葉だったと思われます。

 

 

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一方、当日の記者会見では首を傾げざるを得ない発言も在りまして……アフリカ訪問に関する「自由で開かれたインド太平洋(以下FOIP)」についての発言がそれです。

 

まず12/15の発言は「一昨日、会見で言ったことと全く一緒」と語った通り、2020/12/13の発言内容とほぼ同じなので、そちらを抜き出します。

【記者】「自由で開かれたインド太平洋」についてお伺いいたします。各国とFOIPについて協議をされたということですけれども、FOIPはですね、ASEANなどと比べて距離的な問題もあってですね、関心がアフリカでは一段落ちるのではないかという指摘もありますけれども、今回の訪問でFOIPへの各国の反応、或いは手応えなどがあれば、お願いいたします。

【大臣】実はですね、この「自由で開かれたインド太平洋」、FOIP、これは、日本が2016年にアフリカで開催されましたTICAD6において、提唱したものでありまして、今まさにその実現に向けて様々な協力であったりとか、協議を進めているところでありますが、このビジョン、米国であったり豪州、インド、さらにはご指摘のようにですね、ASEAN諸国とも共有されておりまして、また夏には私(大臣)、欧州も訪問してきましたが、欧州の主要国、さらにはアフリカの国々からも支持をされ、様々な協議や協力が進んでいるところであります。

www.mofa.go.jp

 

安倍前首相がFOIPを初めて提唱したのが2016年のTICADアフリカ開発会議)6だった事くらい記者側が本当に知らなかったのか……理解に苦しむ所ですが、そこは一旦置いておきましょう。

 

寧ろ取り上げたいのは、茂木外相が「TICAD6で提唱されたから」という件以外、アフリカ諸国との会談でFOIPを取り上げた理由を説明出来てない点です。というより「何故TICAD6で最初に提唱されたのか」外相自身が言い澱んでいるのです。

 

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FOIPは ①航行の自由を含む法の支配の確立 ②経済的繁栄の追求 ③平和と安定へ のコミットメントという3つの柱から成りますが、インド・ASEANエリアを前提に考えてしまうと自然と対中包囲網、或いは価値観共有を提唱する国家群による排他的連携のイメージが強くなります。

 

実際現在の茂木外交は後者を意識し、FOIPを経済面での関係強化に利用している節があります。

 

 しかしFOIPの故郷アフリカ、「もうあのすぐにうなずいてくれて」と外相が驚くアフリカにおいては、別の概念が定着しています。 

 

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※外務省によるFOIP資料の1ページ目をご覧頂けば察し得ると思いますが、アジアとアフリカではFOIPのアプローチが全く異なります。発展型ですらありません。

https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000430631.pdf

 

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南アフリカ外相会談|外務省では茂木外相自らブルーエコノミーや経済的繁栄の観点からFOIPに言及したとの事ですが、そもそもFOIPはアフリカにおいて

  • 島嶼国の環境脆弱性の緩和
  • 開放性、透明性、経済効率、債務の持続可能性などの国際基準に準拠した、質の高いインフラ投資の促進
  • 海洋資源の持続可能な利用の確保
  • 自由で開かれた海洋秩序の確保

の4つの取組で体現されています。 

https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000512255.pdf

 

 ①の海洋における法の支配とは主に海賊や国内外の密漁に関わるものですし、②の経済的繁栄は排他的共同体の経済関係強化ではありません。あくまでそれらはアフリカ諸国の独立性、また国際秩序へのアクセスの為のものであり、アフリカ諸国の健全な発展のみに資するものです。

 

 例えば2019年TICAD7の横浜行動計画ではブルーエコノミーその他アフリカ諸国主導の、健全な成長政策の中にFOIPの概念が仕込まれています。或いは債務持続性の構築についても、特殊な債権者(ぶっちゃけ中国)を敵視するのではなく、あくまでアフリカ諸国の努力とその為の教育支援に注力しています。

https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/ticad/ticad7/pdf/yokohama_action_plan_ja.pdf

 

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記者が疑問をぶつけ、外相も首を傾げながら好感触を喜ぶ遠隔地アフリカのFOIP。それは現在の茂木外交……ASEANやQUADで展開されるような、対立を利用した経済連携強化とは異なる形で存在出来るものだった訳です。

 

そしてそれこそ茂木外相が言い澱んだ話……アフリカで初めてFOIPの概念を公表した理由であり、また後に茂木外相、というより日本が自らの利益確定のため方針を転換させたFOIPとの違いではないか、と思われるのです。

 

 

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この件については後日、モンゴルとのFOIP外交を含めて文章にする予定です。

 

 

南ドイツ新聞の菅首相評価と、環境思想の先鋭・教条化(3)

『南ドイツ新聞の菅首相評価と、環境思想の先鋭・教条化(2) の続きとなります。

 

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3. 地球・世界の持続可能性のための、持続不可能な政策

3.1 持続可能な世界の為、目標に向け邁進する国連

 

さて、思い出して下さい。

 

コロナ禍の最中に菅首相が掲げた2050年温室効果ガス排出ゼロ政策を賞嘆した時事通信の記事を。パンデミックへの対応に比べて拉致問題(及び言下にある領域防衛思想)を低優先扱いする一方、気候変動にパンデミック並みの優先順位を与えている南ドイツ新聞の記事を。

 

コロナ復興基金すら加盟国への環境政策促進に利用するEUの考え方は、まさにコロナと温室効果ガス削減問題を等価〜緊急性においてすら同等と見做す南ドイツ新聞の考え方、また前向きな環境政策には無条件で喜ばずにいられない時事通信の考え方そのものです。

 

 そして、彼等の考え方の背後には間違いなく国連がいます。

www.g20.utoronto.ca

 

 各国の温室効果ガス削減目標に、更なる徹底を要請したのは国連でした。目標13に「気候変動に対する具体的な取り組み」を盛り込むSDGsの達成を加盟国の最優先目標とし、また本来参加各国の自主目標設定の取組であった筈のパリ協定を先鋭化させていったのも国連でした。

 

現在COPや気候変動サミット等、国連紐付きの環境関係の会合は全て温室効果ガス削減ありきとなっています。CO2削減に反する主張は認められません。

 

気候変動サミットでのセクシー発言以降大いに株を下げた小泉環境相ですが、例え彼以外の人物(例えば環境政策の実質トップである梶山経産相)でもあの場ではCO2削減に反する“Addiction to Coal(石炭中毒)”などと糾弾されるだけだったでしょう。

 

※この“Addiction to Coal(石炭中毒)”という言葉は、COP25の場で実際にアントニオ・グテーレス国連事務総長により、明らかに日本を揶揄する前提で使われたものです。このような侮辱をいやしくも国連トップが一国の閣僚にぶつけ、かつ侮辱を受けた小泉環境相の側が相手に追従しなければ居られない、そんな場所に国連紐付きの環境会合は成り下がっているのです。

 

なおAddictionとはWHOの定義では「強迫的欲求」「耐性」「身体依存(離脱症状)」「個人及び社会への有害な影響」という悪質な意味であり、現在は薬物全体に関してはAddictionをやめDependenceを使うよう指示している、そんなレベルの言葉です。

www.un.org

 

一方、再生可能エネルギー施設の廃棄コストの検討など、削減目標の設定に後ろ向きな議題は 国際エネルギー機関(IEA)外務省HP国際再生可能エネルギー機関(IRENA)外務省HPといった、国連と一定の距離を置く機関でしか話題にされません。

www.mofa.go.jp

 

寧ろこのようなIEA・IRENA議案は国連を経由せず国政レベルで取り上げられ、日米中或いはEUですら昨年フランスにリサイクル用大型プラントを建設するなど、各国対処に前向きに扱っています。が、一方の国連は廃棄ソーラーパネルを「電子廃棄物」と言い張り、またパネルリサイクルに挑戦した業者が相次いで撤退する程のコスト問題を無視し、廃棄国側の咎に来そうとしている状況なのです。

www.forbes.com

As the United Nation Environment Program notes, “loopholes in the current Waste Electrical and Electronic Equipment (WEEE) Directives allow the export of e-waste from developed to developing countries (70% of the collected WEEE ends up in unreported and largely unknown destinations).”

 

 〉UNEP(国連環境計画)が指摘しているように、現在のWEEE指令(注・EUによる電子電器廃棄物処理指令)の抜け穴により先進国から発展途上国への電子廃棄物の輸出が可能な状況になっています(収集されたWEEEの70%は報告されておらず、ほとんど未知の目的地に行き着きます) 。

 

 ※なお、このIEA及びIRENAは「エネルギー転換の見通し:低炭素エネルギーシステムへ向けた投資ニーズ」と題するレポートを2017年に公開しました。後に国連が温室効果ガス削減目標の設定を更に先鋭化させるバックボーンとなった資料ですが、ここでもCCS(温室効果ガス貯留)技術が大きな可能性を示唆している旨、国連関係その他の環境会合では黙殺されています。

  

 

……………………………………

 3-2. 暴走する国連と、政策の持続可能性を求めた安倍政権

 

さて、最後に環境政策の話から逸脱しますが……このような国連の暴走が生まれた理由は何でしょうか。

 

確かに地球・世界規模の問題のため、各国が足並み揃えて各種政策を整備する必要がありました。そのための国連からの発信の重要性は改めて高まっています。

 

また国際情勢として、例えば中韓インドといった発展途上国が自国の主張のため、また先進国を中心に勢力を増す国内ポピュリストに対抗するため、国連主導の強力なムーブメントを求めた事情もあります。

 

しかし何といっても決定的だったのは国連事務総長と、SDGs策定に際して集められた専門家たちだと考えています。

 

今回話題にした温室効果ガス削減目標やパリ協定、或いはプライマリ・ヘルスケアも、国連での取り扱いを通じて先鋭化・教条主義化しました。これらを統括する国連の総合目標、SDGsも同様です。

 

何よりこのSDGsを特徴づける“Sustainability(持続可能性)” という言葉自体、SDGs策定に集った専門家たちは「地球・世界環境の持続可能性」のみに使っています。SDGs達成のために必要な「国政の持続可能性」国家の疲弊や独立性の危険……現在の国際情勢への影響という点を無視しているのです。

 

…………………………………

一方で、日本は「地球・世界規模の持続可能性」と「国政の持続可能性」の融和を謀っていました。専門家のごとく前者のみを追求する国連の主張自体には賛同しながら、国政を司る立場として、国連の主張を自国及び各国で投げ出さずに続けさせる方策を探りました。

 

そして、それはいわゆる価値観外交とリンクしています。

 

二国間・多国間会合を通じて 環境面のみでない質の高いインフラ | 外務省生活インフラと財政を柱とするユニバーサル・ヘルス・カバレッジ|外務省を支援する事も、対話を通じて各国との価値観の共通事項をひとつひとつ認める事も、2つの持続可能性を共に向上させる為のものです。「『誰ひとり』また『どの国家も』取り残さない」事はSDGsの面だけでなく、国際秩序を塗り替えようとする新たな秩序の誕生を防止するという、価値観外交の面でも重要な課題だったのです。

 

しかし現在の菅政権の行動、菅内閣主要閣僚の発言を調べる限り、このような特徴は見当たりません。2050年温室効果ガスゼロ発言は勿論、2020/12/04の菅首相による記者会見でも脱炭素社会の鍵として水素エネルギーを提示していましたが、ブルー水素やCCEに関する言及は無くなっているのです。

www.sankei.com

 

 これはCCE、ひいては急進的な温室効果ガス削減思想に水を刺した日本の行動が実は安倍政権時代のレガシーに過ぎず、菅政権ではその全てを引き継ぐものでは無い事の現れだと思われます。平たく言えば、第2章に記したような削減主義者への抵抗を示したのは、菅首相ではなく安倍政権時代からの職務を全うした省庁だったのです。

 

 

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おわりに. 

 

はい。梶山経産相の電話会談辺りで薄々勘付いた方もいると思いますが……今回の第2章以降、そしてこれから作成予定の一連の文章は、実は菅政権ではなく安倍政権末期(第四次安倍再改造内閣)或いはその残滓を背景とするものです。

 

安倍政権末期の国際情勢は米中対立が決定的なものとなり、また中国によるコロナ外交の失敗もあり、それまで親和的であった欧州でさえ反中に傾く国家が出て来ました。それでも中国が抵抗、いや国内外で国際秩序を塗り替える行為を続け得たのは、国連やWHOなど国際機関が原則的な立場を貫く形で中国を擁護した結果であることは間違い無いでしょう。

 

この国際機関による中国への肩入れは、一般的には中国による国際機関への人員送り込みによるものと言われています。しかし、それは副次的なものでは無いでしょうか。

 

寧ろ招聘した専門家を通じて国連などに持ち込まれた思想的なもの、これこそが〜彼らが自国への我田引水を狙った領域を越えて〜国際秩序を塗り替える国家に対して自らNoを叩き突ける事が出来ず、国連の後楯を求めて右往左往する状態へと世界各国を導いた元凶ではないか、と考えられるのです。

 

※今年に至り、この状態が僅かながら好転する兆候がありました。ウイグルや香港に対する中国の行動に対して、中国への抗議声明に署名する国家が増えたことや中国側に付く国家が減った事は、安倍政権が長い間訴えた国際秩序に関する価値観共有の結果でしょう。そして同時に、各国に国連の不透明なジャッジへの見切りを付けさせた瞬間とも言えます。

tenttytt.hatenablog.com

 

 

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一方、国際機関への思想持込みに対して、安倍政権は敗北を重ねました。

 

前述した政策持続性まで含めたSDGs、プライマリ・ヘルスケア療法に偏り過ぎないユニバーサル・ヘルス・カバレッジ政策、パリ協定のボトムアップ性など、元々日本が長年検討しそれぞれ国連やWHOなどの取組に組み込もうとした考え方でしたが、これらは全て国連に集った専門家達に塗り潰されました。

 

その理由は既に国際機関に食い込んでいた諸国家による妨害というより、送り込まれた専門家自身の資質によるものが大きかったようです。

 

これらの考え方が国連の中に残せなかった事もあり、安倍内閣は自国の外交を通じて直接相手国に伝える方法を選んだのではないかと思われます。

 

 そして遂に、安倍政権も今年終了しました。

 

後を受けた菅政権では安倍政権のレガシーを受け継ぐ旨を公言していますが、安倍政権による国連との暗闘については受け継ぐ気はなく、閣僚達の発言を含めて国連の思想に全面的に従う態度を示しております。

 

安倍政権時代にレールを敷かれた国際協力の一部に、その残滓が残るばかりとなっています。

 

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これから作成予定の一連の文章は、菅内閣への移行に際し引き継がれなかった安倍内閣のレガシー(対国連の話とは限りません)を主題とする予定です。そしてその論点を明らかにするため、国連のSDGsで採用されたいくつかの言葉がキーワードとなります。

 

そしていくつかのレガシー廃棄は、第四次安倍再改造内閣時代の既定路線だったのではないか。SDGsのキーワードはその点も浮かび上がらせるのではないか、と考えています。

 

それは対米・対中外交を読み解くだけでは見えない、安倍政権の敗北の過程です。

                                (了)

 

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……なんというか、長い間手こずっている第四次安倍再改造内閣の回想について、やっとプロローグを書き上げる事が出来ました。「作成予定の一連の文章」とは数カ月の間、書いては没、書いては没を繰り返している文章の寄せ集めです。

 

安倍政権の締め括りについて文章を纏めなければいけない、そう思ってはいたのですが、その為にはSDGsを始めとする国連の方針にも軽めに触れねばならず、また現政権の話題にも……と色々逡巡した挙げ句、放り出す日々が続いておりました。とりあえずプロローグだけでも作成出来たいま、少し安堵しています。

 

これからが長丁場ですが、一旦は心置きなくイベント出撃文章に取り掛かれそうです。