第四次安倍改造内閣の回顧(5)

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『第四次安倍改造内閣の回顧(4)』
https://tenttytt.hatenablog.com/entry/2019/10/10/150104
の続きとなります。


なお一連の文章の目次については、下記ページまで
https://tenttytt.hatenablog.com/entry/2019/10/10/135429


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2019年5月~6月に懸案された韓国向け3品目輸出管理厳正化、これを防衛省を交えずほぼ経産省主導で行ったことは、『韓国』全体を制裁する政策へと日本をシフトさせるために重要な行動でした。

そして、もう一つ。


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この時期の外交を象徴するもう一つの出来事、6/1の日韓防衛閣僚非公式会談ですが、経緯をざっと揚げると以下の流れとなっています。


5/9 日米韓防衛実務者協議
5/9 日韓防衛会談の準備について防衛省発表
5/18 岩屋氏、別府にて会談予定について講演
5/20 徴用工問題に関する仲裁委員会開催要請
   (この頃に輸出管理厳正化の方針決定か)
5/27 日韓防衛会談を「時期尚早」として中止
5/29 韓国国会議員団、渡邊美樹氏と会談
5/29 日露2+2会談
6/1 日韓防衛閣僚非公式会談
6/1 『2019年インド太平洋戦略報告書』発表
6/2 日米韓防衛閣僚会談
6/5 安全保障調査会で非公式会談が議題に
6/6 宇都隆史氏、官邸の会談制止意向を発表
6/7 非公式会談に対し、河野氏「資する」
6/10 小野寺氏「丁寧な無視」2月に続き発言
6/18 外交防衛委員会にて岩屋氏独断の旨発言
6/28~/30 G20大阪サミット
7/1 輸出管理厳正化・ホワイト除外関連発表


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……こうして時系列で見ると、5月の後半月で対韓政策の方針変更が浮き彫りになります。
特に5/9日米韓防衛実務者会談の時点では前向きに進んでいた日韓防衛閣僚会談が、5月末のギリギリの日程で中止されています。


またこの閣僚会談を中止させたのも、7月からの輸出管理政策と時期を並行させ、韓国国防部の屈服もしくは拒絶を促す強気の対談を行って欲しいという意向が閣内で醸成されていた事も見えてきます。


ただし、河野氏の「外交に資する」発言や小野寺氏の「丁寧な無視」発言に見られるように、対処する相手を文政権に留めるか、韓国そのものまで拡大させるかについては、この時点では未だ流動的であったようです。

※「丁寧な無視」の6月発言は他の時期のものと異なり、文政権崩壊後に対韓関係を回復させる旨はっきり言及しています。小野寺氏がこの時期にわざわざ自身の対文政権・対韓論を展開した…それ以外の時期は敢えて表現を抑制していることは着目に値します。


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さて、6/1の日韓防衛閣僚非公式会談の内容そのものについて、今回は詮索を行いません。防衛省からの発表やマスコミ記事、数多くのネット記事などをご覧頂ければ幸いです。

寧ろこの会談の評価、更に岩屋氏の発言力低下を決定付けた宇都隆史氏の視点の方が興味深いです。


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岩屋氏に対する抗議の前線に立ったのが、元自衛官外交防衛委員会の宇都隆史参議院議員であったのは一つの象徴でした。

岩屋氏のアドバンテージ「隊員への殺傷行為への懸念」について、現場上がりの宇都氏には殺傷の危険範囲を変更する事など容易でしたが、

  • 「(外務省による徴用工問題等への外交努力に際し)防衛省だけが『一歩前に、未来志向で』なんて有り得ない」
  • 「守らなくてはならないのは国益だ。ましてや今の岩屋氏の立場であれば守るべきは隊員だ」


という一連の言葉には、むしろ海外を飛び回った副大臣政務官自衛官上がりの外務政務官による、表側の外交運営者と防衛省の対外姿勢を直接リンクさせようとする思いが浮かび上がっています。

第四次安倍改造内閣の裏で、自分達の命を預け難い上司の下で危険に晒されたり、労苦の割に国益に直結しない外交補助に駆り出されるのではなく、表立って国益を守る立場に移行したい……そういう思いが。


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……実際のところ、宇都氏の背後で官邸サイドや防衛省・OBがどの程度後押ししたか確証はありません。しかし宇都氏のインタビューその他この時期に噴出した岩屋氏排斥論により、

  • 彼らの言う「官邸サイドの反対意見」があたかも官邸の主流のように、
  • それも対韓外交を無視・反論・遮断に統一し、外務省の活動と防衛省その他省庁が連動すべきだと官邸が判断したかのように、


自民党内外の世論を誘導したのは確かでしょう。


そしてこのインタビューを皮切りに、岩屋氏の発言権、更には韓国との交渉を継続・再開しようとする勢力、攻撃対象を文在寅政権に留めようとする勢力の発言力までが急速に低下し、
逆に「韓国」そのものへの制裁を主張する勢力、外務省と同じように自らの省庁も「韓国」に対抗しようとする勢力の発言力が強化されたのは、言うまでもありません。

この活動を狼煙として、5/28.29韓国議員団の来日時のように、自民党内部で韓国と繋がりを持つ「とされる」議員らの発言や行動まで抑制する事に成功しました。
更に言えば、文政権側と「韓国」を切り離して政権崩壊後の日韓関係を前向きに論じる事すら、「韓国」と繋がりがあると見做され、自民党議員また元防衛大臣でも命取りとなりかねない状況となったのです。

……あるいは首相さえG20サミット終了まで、或いは文政権が自爆するまでの建前として「韓国」を軍事連携の枠内と認める事すら、岩屋氏を矢面に立たせなくては出来なくなったのです。


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こうして、

G20大阪サミットの主催国として国際秩序の強化を目指した第四次安倍改造内閣は、5月以降のトランプ外交強硬化を受け、アメリカを中心とする国際情勢の変化に即応出来る態勢に変化しました。

一方で、対韓外交は文政権に対する国際秩序に則る無力化政策から、韓国自体に対する統一した無視・反論・断絶による報復政策へと拡大し、かつ日韓関係についてはアメリカによる干渉すら受け付けない強硬姿勢を隠さなくなっています。

この体制移行への皮切りが5月末の韓国議員団来日と6/1日韓防衛閣僚非公式会談に対する自民党議員の反応であり、仕上げが7/1の輸出管理厳格化アナウンスだった訳です。


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『第四次安倍改造内閣の回顧(6)』に続きます。
https://tenttytt.hatenablog.com/entry/2019/10/10/152921