第四次安倍改造内閣の回顧(6:完結)

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『第四次安倍改造内閣の回顧(5)』
https://tenttytt.hatenablog.com/entry/2019/10/10/151259
の続きとなります。今回で完結となります。


なお一連の文章の目次については、下記ページまで
https://tenttytt.hatenablog.com/entry/2019/10/10/135429


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発足当初は自由貿易の旗手として、またG20大阪サミットの主催国として国際秩序の強化を目指した第四次安倍改造内閣は、
2019年5月以降のトランプ外交強硬化を受け、アメリカを中心とする国際情勢の変化に即応出来る態勢に変化しました。

一方で、対韓外交は韓国自体に対する統一した無視・反論・断絶による報復政策へと拡大し、かつ日韓関係についてはアメリカによる干渉すら受け付けない強硬姿勢を隠さなくなっています。


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……そして2019/9/11新たに発足した第四次安倍再改造内閣は、この新しい外交方針を確定させるものとなりました。

この再改造内閣について、現状では判断は付けられません……が、特に8月の韓国GSOMIA離脱という防衛上の危機に際しても、防衛省トップに軍事的素養を持つ人物ではなく外交に明るい河野氏が就任した事、更に外相に元経産相の茂木氏、経産相には茂木経産相時代の副大臣菅原氏を起用した事は注目に値するでしょう。


「自由で開かれたインド太平洋」のもと同エリアの外交を一部河野氏が分担、茂木氏には対米経済交渉に注力させた上で、交渉結果を菅原氏を通じて国内システムに反映・対応させる……という判りやすい設定はともかく、
GSOMIA破綻に象徴される韓国の混迷に際してすら、一時的な軍事衝突への対応より防衛外交・日米交渉・対韓経済外交を重視している、という意味ですから。

平たく言えば、中鮮韓による軍事的緊張などよりも韓国の文在寅体制崩壊を視野に入れ、それに伴う米韓からの韓国新政権支援依頼に抵抗し、如何に国益に叶う交渉を行うかに特化した内閣という事です。


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終わりに: 首相所信表明に見る新たな日本外交


……さて、このような外交的視点から、改めて先日発表された第200回国会における首相所信表明を、今年1月の第198回施政方針演説と比較してみましょう。


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中国政策からは米中対立の激化に伴い、二国間の親和政策は維持するものの、国際秩序への回帰を示す「国際スタンダードの下で競争から協調へ」「互いに脅威とはならない」「自由で公正な貿易体制を共に発展させていく」3原則が除外されました。

日本国内の政策から第四次産業革命の項目がごっそり抜けたのも、AIやIoT更にSociety5.0の基盤となる5G技術の民間早期普及が暗礁に乗り上げたからですが、この件も対中国政策がすべからく米中関係を前提とする状況に陥った事を示しています。


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ロシア政策からは「次の世代に先送りすることなく、必ずや終止符を打つ」決意と、その基盤となるプーチン大統領との信頼関係についての記述が除外されました。
解決困難な交渉は「着実に前進」という言葉で先送りにし、二国間関係をフラットな状況…米露関係に応じ何時でも変化出来る状態に戻した訳です。


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北朝鮮政策からは「過去の清算と国交正常化」を除外し、「条件を付けずに向き合う」という5月以降の発言をそのまま採択しました。

これは中露などと異なり、例えトランプ=金正恩交渉が悪化してもダイレクトに日鮮関係に反映させず、別窓口による再交渉の余地を与えた意味もありますが、
一方で金正恩体制が過去の清算や国交正常化を俎上に上げても、今後は交渉の材料と見做さない事も指しています。

また交渉成功の代償として北朝鮮から要求されうる経済協力は、全てその後の日米交渉を経て検討され、アメリカからの協力要請には茂木・河野体制でタフに応じるという意味でもあるのです。


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イラン政策、というより外交政策自体から中東及びアフリカ政策が除外されました。

これは単に、対イラン外交に明確な方針を出さず、明確なイニシアティブをEUアメリカの交渉結果に委ねながら、イランとの辞令的友好関係を維持しているという事だけでなく、
安倍首相が長年主張して来た「地球儀を俯瞰する外交」がいよいよ欧米とアジアまでしか手を伸ばさなくなったという意味でもあります。


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韓国を北朝鮮政策~唯一残った戦略パートナーの居場所から除外しました。
文政権に国際法の遵守を求める、そのための圧力を軍という例外を認めず「韓国」の官・民・軍全てに掛けることを公言した訳です。

そして官・民・軍が圧力に負け、文在寅政権の無力化に成功した上で、米韓から関係復旧の要請があったとしても、北朝鮮同様茂木・河野ペアが迎え撃つという事です。

……8月の韓国GSOMIA離脱という文在寅政権の自爆行為が、日本外交が心置きなく方針を変更する後押しとなったのは言うまでも無いでしょう。

※なおこのGSOMIA離脱により、文在寅政権による明確な意図を持った軍事活動の可能性は幾分高まった可能性はありますが、
離脱に伴う米軍からの冷ややかな視線は、現場での突発的な事故……日本と自衛隊を愚弄した末の暴発行為発生確率を大幅に下げたと思われます。

岩屋氏がもっとも懸念したと思われる、レーダー照射をエスカレートさせる事態は、皮肉にも輸出管理厳正化を発端とする韓国GSOMIA離脱により回避された訳です。


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そして何より、

〉日米同盟を基軸としながら、我が国は、英国、フランス、豪州、インドなど基本的な価値を共有する国々と手を携え

……安倍首相によるトランプ政権への信頼は失われ、とうとう基本的価値を共有する国家からアメリカは除外されました。


第四次安倍再改造内閣が、基本的価値についての信用が置けないアメリカとの同盟関係……利益のみを求め合う関係を了承し、マイナス分は日米同盟を後ろ盾とした第三国との二国間交渉で補うことに奔走する「国益重視の外交」を採択した事が、今回の所信表明で改めて公表された訳です。

               (了)



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