TICADとAUと(その5)

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TICADAUと(4)』の続きとなります。
https://tenttytt.hatenablog.com/entry/2019/03/12/200928
一連の目次は下記URLまでお願い致します
https://tenttytt.hatenablog.com/entry/2019/03/28/203214

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アフリカへの民間投資


話が本来の趣旨である河野外相演説から外れるのですが……TICADの現状を論じる場合、アフリカ投資の進捗には触れなければならないと思います。
https://www.asahi.com/sp/articles/ASLDM5KB3LDMUTFK018.html?iref=sp_extlink
首相の約束、実現まだ半額 アフリカ投資、見通しに甘さ朝日新聞 2018/12/20(有料記事)

……TICAD6において『民間企業の投資を合わせると,総額は300億ドルにのぼる』アフリカ投資を3年間で行う、と安倍首相が表明しましたが、昨年9月までの時点で未だ160億ドルしか達成していない旨を朝日新聞が報じました。

この記事内容自体については、政府側がこの件を公にしたのは前述したとおり2018年10月のTICAD6閣僚会合時であり、
https://www.mofa.go.jp/mofaj/af/af1/page4_004398.html
なぜ12月になるまで記事を寝かせていたのか、と疑問に思います。また閣僚会合の発言内容を読めば判るように
いくつかの被供与国において債務持続性の問題が発生
した事に一因があり、その辺りにも言及せず公言を守れなかったと論じる朝日新聞の言説は、はっきり言って公正さを欠くものではないでしょうか。

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この件について、『補項3:SGR…ナイロビ高速鉄道』に別途文章を作成致しました。
https://tenttytt.hatenablog.com/entry/2019/04/09/232614
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とはいえ、TICAD5以来の中心政策である民間企業の投資が思わしくない、特に援助よりも民間企業の投資を訴えるアフリカ中進国に対して日本の経済的影響力が低下している、という問題は確かに存在します。

民間企業による直近のアフリカ投資額の資料が見当たらないのですが、2011年のデータで4.6億ドル。2012年には1.2億ドルに減少したとのこと。
https://r.nikkei.com/article/DGXNASFS0100M_S3A500C1EE8000
流石に近年ではユニクロエチオピア進出を始め、各企業のアフリカ進出は進んでいます(が、恐らく大企業でも一社数億ドルに留まると思いますので…)。

一方で中国企業の対アフリカ投資はほぼコンスタントに30億ドルを維持。FOCAC(中国=アフリカ協力フォーラム)で習主席が表明した600億ドルの投資のうち「(3年間で)100億ドルの民間投資奨励」はある程度目星のつく位、規模が膨れ上がっています。

アフリカ進出企業数の調査結果は各種存在しますが、その内JETROが『アフリカ進出日系企業実態調査』でアンケート対象とした企業数で見ても、
2007年227社→2012年332社→2018年392社とかなりのピッチで増加してはいます。
但し中国では既に、三千ないし一万社の企業がアフリカに進出しているのです。
https://www.google.com/url?sa=t&source=web&rct=j&url=https://forbesjapan.com/amp/23502&ved=2ahUKEwjV_qi2xY7hAhUIE6YKHYLkDpYQFjAAegQIBhAB&usg=AOvVaw2740FeOgZwOm_jsQ0rYA9L&cf=1

あるいは貿易推移から見ても、アフリカ輸出総額からの日本の比率は、2001年の3%→2016年の1.6%に半減。輸入の比率4.2%→2.2%に半減しており、国際協力の面はともかく、経済面ではアフリカでの日本の影響力は僅かなものになってしまっています。
https://www.meti.go.jp/report/tsuhaku2018/2018honbun/i1260000.html


これらの経済的影響力の薄さ、また日本企業進出数の少なさは、何よりも日本に肩入れするアフリカ諸政治家の発言力低下に直結します。

いくら日本が高品質なインフラや保健システムの話をしても、今アフリカ諸国が海外にもっとも求めている企業投資の面で改善が図れなければ、日本寄りの政治家たちの肩身は益々狭くなり、遂には日本の主張がアフリカ諸国の政策に全く効力を及ぼさなくなるでしょう。

そして、AU(アフリカ連合)内部ではそれ以上の事態を導くことになります

何故なら自国との貿易利潤をある程度度外視して、AUの内向き志向を肯定しえる支援国は、現状日本くらいしか無いからです。
その日本の発言力が低下すれば、貿易相手国の方しか向かない分離発展勢力の跋扈、ひいてはAfCFTAを始めとするアフリカ統合システムの換骨奪胎を招きかねないわけです。

日本寄りのアフリカ政治家にとっては
「とりあえず自国向けに言い繕うけど、もう少し日本は頑張って民間投資増やして欲しい」というのが本音ではないかと。


実は先月、TICAD7に関してちょっとしたセミナーがあったのですが、その席上、アフリカ側の発表者(TICAD担当の偉い人)がセミナー受講者数の少なさを嘆いておりました。

このセミナー室の数十人程度の座席が一杯になる程度には、アフリカに興味を持つ中小企業の担当者が来るものと思っていた
、と。
(当該セミナーの様子は後日主催者のHPで公開されましたが、この辺りの下りには触れていません)

予定していたアフリカ投資額が達成困難であれば、せめて「民間企業の投資意欲は充実していた」位の手土産は自国に持ち帰りたかったのだろうと思いますが、発表者にとって残念な結果だったようです。
※種明かしをすると、TICAD7開催時の会場ボランティア募集が主目的のセミナーだったので、企業からの参加者が少ないのは当然なのですが。

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日本の場合、CABC
(中国アフリカビジネス会議。https://www.ide.go.jp/Japanese/Data/Africa_file/Manualreport/cia04.htmlの4.2参照。ちなみによく耳にするCADF:中国アフリカ開発基金https://www.ide.go.jp/Japanese/Data/Africa_file/Manualreport/cia04.html参照:も、CABCがアフリカに進出する中国企業に案内する、幾つかのファンドの一つです)
のような強力なイニシアティブは執りにくく
、アフリカ進出を現状検討するような民間企業はそう多くはないでしょう。

それでも、日本はそれなりに対応しています。

2018年5月には、日本企業100社・アフリカ企業400社と日アフリカ両閣僚による「日本アフリカ官民経済フォーラム」が開催されました。
https://www.google.com/url?sa=t&source=web&rct=j&url=https://www.meti.go.jp/press/2018/05/20180507005/20180507005-8.pdf&ved=2ahUKEwj9rIPO15DhAhVIWrwKHbLfDoIQFjAAegQIBRAB&usg=AOvVaw0cBFJnSHELxxyG43d_jwgU
流石に資本面ほかの強力なサポート、という訳ではありませんが、

  • 汚職対策、投資家保護、公平な紛争処理、治安の改善を含むより良い行政、透明性の確保をアフリカ政府に求める

など、2018年9月調査のJETROアンケート『アフリカ進出日系企業実態調査』の結果に先駆けた、現地企業の要望に寄り添う政治活動を行っています。
※このアンケートによると、日本政府への各企業の支援要望トップは資金面ではなく、現地政府に対する制度構築の働きかけでした。
https://www.jetro.go.jp/world/reports/2019/01/9ea2e8c6ad98870e.html

また、現地企業も結果的にではありますが

  • 進出企業の注力を現地国内の民需へシフト
  • 現地職員の雇用増、法人職員は現状維持の傾向

という、アフリカ諸国またAUの方針に適合した成長過程にあります。


むしろ問題なのは、状況を憂慮し提言したとかいう経済同友会の考え方辺りでしょうか。

彼らのいうTICAD7の戦略的方向性、 
https://www.ide.go.jp/Japanese/Data/Africa_file/Manualreport/cia04.html
1.イノベーション推進による包摂的成長の実現(Society 5.0 for SDGs)
2.自由で開放的な国際経済秩序の維持・強化と地域経済統合の推進
3.官民連携による戦略的パートナーシップの形成
4.パートナー国の重点化

これら4つには
在留政府の方策に翻弄されながらニーズを読み、現地国内市場に食込もうとする邦人企業への理解も、
アフリカ統合を最終目標とするAUへの理解も全く見られません。
一体、何を見据えた上での提言なのでしょうか?
そして残念ながらその組織自体の発言力ゆえに、日本政府としてはこの程度の提言も自らの政策に反映させねばならないのです…
(まあ…提言の中にはNEXI再保険の様に、邦人企業の訴えの一部を具体化したものもあることはあります)


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……話が逸れ過ぎました。
元々、TICADというツールを使って河野外相演説のポイントと問題点を探るのが趣旨でしたので、
アフリカ進出の問題点への深入りは、元々の論題からは逸脱するものです。

次回、TICADAUから省みる、外相外交演説
https://tenttytt.hatenablog.com/entry/2019/03/28/203643
で最終回とします。すみません。