TICADとAUと(5)で触れた、TICAD6の投資進捗悪化に関しての補項になります。
本論ではあえてTICAD6の投資進捗について触れましたが、その報道内容についての問題点まで細かく採り上げるのはあまりにも論旨から逸脱しているため、別文章とさせて頂きました。
本編の目次は下記URLまでお願い致します
https://tenttytt.hatenablog.com/entry/2019/03/28/203214
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『日本が整備のケニア港、中国の担保に? 現地で懸念の声』 朝日新聞 2019/02/05(有料記事)
https://www.asahi.com/sp/articles/ASM1S01D4M1RUHBI03L.html
〉日本政府の途上国援助(ODA)で拡張工事が進むアフリカ・ケニア南東部のモンバサ港について、複数の地元紙が「中国からの債務の担保とされている可能性がある」と報じた。日本政府も情報収集に乗り出した。現地では中国による融資の拡大や不透明な債務状況に懸念の声が上がっている。
今年2月、中国による『債務者の罠』がしばしば伝えられる時期に、朝日新聞に上記の記事が掲載されました。
本論で取り上げた『日本のアフリカ投資、停滞 300億ドル「約束」、140億ドル未達 首相表明も民間投資低調』(朝日新聞2018/12/20 有料記事)からひと月半後の事です。
ケニアのDailyNation紙が特集を組んで以来、
https://www.nation.co.ke/news/Chinese-may-take-Mombasa-Port--Ouko/1056-4902162-xfphu7z/index.html
“China may take Mombasa port over Sh227bn SGR debt: Ouko”
DailyNation 2018/12/20
当時既にナイロビ-モンバサ間の高速鉄道(SGR)の債務についてはいくつかのメディアで話題にあがっておりましたが、
- SGRの債務が滞った場合、モンバサ港の運営権を含む国内インフラを担保にするという趣旨の契約を結んでいた事
- そのモンバサ港では日本のODAで大規模改修が進んでいる事
この二つを結び付け、記事の冒頭で報じたのは朝日新聞くらいだったと思います。
このように関連付けされた記事を読めば
- 『ODAで創られたインフラが中国に盗られる』
- 『今後日本のODA選考は慎重になるべき』
自然とこう考えてしまうのではないでしょうか。
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では、TICAD6閣僚会合での外相発言を思い出して下さい。
〉いくつかの被供与国において債務持続性の問題が発生しなければ,より多くの円借款案件を実施しえた。
そして、12/20の朝日新聞記事をもう一度。
〉首相が2年前に約束したアフリカへの300億ドル規模(約3・4兆円)の投資実現に黄信号がともっている。想定した民間投資が伸びず、今年9月で達成できたのは160億ドル。現地の日本企業からは見通しの甘さを指摘(筆者注:TICAD6で首相は民間投資の比率など公言していません)
これらを継ぎ合せると、朝日記事の言いたい事は
・中国に盗られるから、日本はODA見直せ。
→アフリカを高率債務漬けにして、
日本からのODAを更に締め出せ。
→安倍政権が国際公約を果たせなかった。
こういうことになりませんか?
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さて、朝日新聞の提案するように、仮に日本が開発から手を引いたら
- 将来の市場を滅びるままに放置する日本。
- 利益を生まないインフラと負債を抱えるケニア。
- そして借金のカタに「白い象」を得る中国。
どこも得をしません。
もしモンバサ港の利用量が上昇しなかったら、
SGR(ナイロビ高速鉄道)貨物利用者のパイは大きくならず、継続可能な利益を見込むことは困難になります。
逆に現状のように運賃値上げを図ったり、
https://www.google.com/amp/s/www.businessdailyafrica.com/economy/SGR-cargo-fees-up-79pc-on-China-pay/3946234-4864552-view-asAMP-8dxor2/index.html
“SGR cargo fees up 79pc on China pay”
DailyBusinessAfrica 掲載日不明
結局パイを小さくする策しか出て来ず、
https://kenyan-digest.com/why-higher-sgr-tariffs-could-hit-chinese-loan-repayments/
“Why higher SGR tariffs could hit Chinese loan repayments”
KenyanDigest 2019/01/24
最終的にはどこかの資本家に叩き売り、金融商品にでも組み込むしかありません。
https://www.nation.co.ke/news/world/China-plans-to-sell-off-its-African-infrastructure-debt/1068-4837516-g5f4j3/index.html
“China may take Mombasa port over Sh227bn SGR debt: Ouko”
DailyNation 2018/12/20
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中国側に条件融和の圧力をかけ
(Business Daily Africa紙によると、負債総額48億ドル以上、年利12.5%かつ中国企業紐付き。因みに日本のモンバサ港開発借款は年利1.21%かつ競争入札です)
https://www.businessdailyafrica.com/analysis/columnists/Why-Chinese-loans-are-painful/4259356-4904282-jhugyl/index.html
一方でモンバサ港の開発継続による利便性向上を通じ、港の利用量を上げた上で、ケニア国内の貨物利用者そのものを増大させる。
この日本政府の対応は、ケニア・中国・日本共に利益をもたらし得る、落としどころだと思います。
勿論、SGRに対して不急の投資(国際コンテナデポの拡張など)抑制や、運賃値上げに頼らない利益率改善提案など、国際社会からの監視を併用することが望ましいですが。
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※最初から採算性の悪いSGRなんて後回しにすれば良かった、といえばそれまでです。
貨物輸送に36時間かかりましたが、SGRに並行する狭軌鉄道は存在したのですから、当面はそちらを改修する方が効率的だった訳です。
河野外相の「債権国・債務国の両者が,債務が返済可能で,透明性があり,財政健全性を悪化させないことを確保することが重要」という言葉は、その辺についてケニアの計画、更には持続性より自らのロードマップやイデオロギーを重視しかねないAU(アフリカ連合)に釘を刺す意図もあったのではないか、と思います。
もう少し言えば、アフリカ諸国のみならずAUそのものの開発計画であるアジェンダ2063に対してすら、
「何か開発計画が偏ってませんかね?」
「まさか植民地時代の鉄道地図を塗り替えたいってだけの理由で、無理な計画を打ち出してませんか?」
位の皮肉は言いたかったのかも知れません。
※この辺は『補項:アジェンダ2063とTICAD6の乖離』でも触れています。
https://tenttytt.hatenablog.com/entry/2019/04/08/212649