まとめ: TICADとAUから省みる、外相外交演説

※※※※※※※※※※

TICADAUと(5)』
の続きとなります。
https://tenttytt.hatenablog.com/entry/2019/03/28/203339
『長めのサポートコメント例:外相外交演説』
https://tenttytt.hatenablog.com/entry/2019/01/30/013822
から始めた一連の話の最終回となります。

※※※※※※※※※※

まとめ:TICADAU、そして外相外交演説

さて、話を戻します。


TICADAUと』
(2)https://tenttytt.hatenablog.com/entry/2019/03/03/004405、(3)https://tenttytt.hatenablog.com/entry/2019/03/03/125302において、
2016年のTICAD(アフリカ開発会議)6と、2018年10月のTICAD6閣僚会合における演説内容の差違に触れました。

前者はアフリカ開発についての3つの柱とそれらに対するシステムアプローチを通じた、アフリカ諸国及びAU(アフリカ連合)に対するプレゼンテーションの色彩が強く、商売敵への対抗をアピールしているだけでなく、アフリカ側のロードマップであるアジェンダ2063すらも微妙に無視したものでした。

しかし後者では商売敵への対抗的色彩は薄れ、アフリカ諸国に対してオーナーシップと国際社会への協調を求めるものに、更にはAUへの同調を暗に訴えるパートナーシップへと変化しております。

…………………………

そして『TICADAUと』(4)https://tenttytt.hatenablog.com/entry/2019/03/12/200928において、
上記2者の変化の理由を、AUによるアフリカ統合の具体的萌芽に求めました。

TICADAUと』(4)及び『補項:各国の対アフリカ対策とフォーラムhttps://tenttytt.hatenablog.com/entry/2019/03/03/004216に記した様に、内向きの統合を希求するAUの志向と日本の立場は相性が良く、
それ故に統合が形骸化し格差が拡大したり、大陸内の軋轢の末に国際秩序を逸脱する地域が発生するのをAU自身に防止させる事こそ、TICADの重要な役割となります。

中進国・途上国など、それぞれの実情に合致する融資・開発オプションを(他国によるプランの許容を含め)より多く提示する理由がそれであり、
一方でハイリスクなプランを提示する国家に見直しを要請したり、あるいは中進国への逆優遇や非紐付き融資の徹底を訴求するOECDに対して以前より強い反対姿勢を見せ始めたのも、
アフリカ諸国のオーナーシップに則った正常な統合過程へのパートナーシップのため、と考えられるのです。

………………………

これらの方向性は、『長めのサポートコメント例:外相外交演説https://tenttytt.hatenablog.com/entry/2019/01/30/013822に記した外相外交演説の特徴と一致しています。
すなわち、

『基本的価値に基づいた国際秩序を様々な方面からの挑戦から守り続ける』
事を課題とし、

『最近の国際的な経済の発展に比べ民主化の遅れ』

に際してあくまで

『押付けではなくその国に寄り添った民主化支援』

を行いながら

『基本的価値に基づく国際秩序に対抗する秩序を創り上げようとする動きとは断固、戦』
う姿勢
です。

……特定の国家、或いはその非民主性ゆえの国際秩序に反する行為自体は敵対すべき対象ですらなく、
むしろそれ自体は協調のもと、民主化を通じて国際秩序への回帰」を図るべき対象とこの演説では見做していることが、見えてくるのではないでしょうか。
(なおこの考え方は、国際秩序に反する行為やそれを行う国家・地域・組織に対して、国際秩序に則り然るべくペナルティを与えたり、民主化に伴う軍事的ステップを支援する事とは相反しません)
断固戦うべき相手は、国際秩序に反する行為の末、国際秩序に反する秩序を特定地域の中で生み出そうとするシステムであり、生み出されてしまった国民レベルでの反秩序の構成体、だということです。

そして統合アフリカの萌芽への対応は、上記の方針のうち「国際秩序に反する秩序を特定地域で生み出さない」マニュアルに沿う、極めてステレオタイプのものだった訳です。

…………………………

これは、『TICAD西サハラ問題…外相外交演説の課題https://tenttytt.hatenablog.com/entry/2019/02/05/235935で述べた通り、今回の外交演説の理念が
「経済・社会インフラと国家間の草の根交流を通じて、アフリカ諸国に自立的発展の思考と日本へのシンパシーをワンパッケージで促すという、TICADの“伝統的な”理念(すみません伝統的なTICADの理念や国家間交流について、本文で結局触れられませんでした)」
とも親和性の高いものであり、その理念が水泡に帰さないためにも重要だった
のでしょう。

…………………………

因みにこの外交演説の特徴は、逆説的ですが安倍首相がよく使う

『全ての不公正貿易慣行を含む保護主義に対抗』

という言葉が、外務省関連であまり使われなくなったことにも現れているかと思います。

2017年G20ハンブルクサミットで採択された文言であり、米中貿易戦争の激化に従って、その後の2018年ブエノスアイレスサミット、またパプアニューギニアAPEC首脳会談では採択が見合わせられた一節ですが、
https://www.google.com/amp/s/www.jiji.com/amp/article%3fk=2018120100226&g=int
https://r.nikkei.com/article/DGXMZO38135520T21C18A1000000?s=0

2019年G20大阪サミットに向けてのものか、最近の安倍首相の外交ではこの一節を共同声明に盛り込み、強調する姿勢が見られます。
https://www.mofa.go.jp/mofaj/erp/we/es/page6_000204.html
2018/10/16 日本・スペイン首脳会談
https://www.mofa.go.jp/mofaj/erp/we/gb/page6_000247.html
2019/01/10 日英首脳会談

一方外相絡みの外交においても、この一節を盛り込んだ声明が見られますが、
https://www.mofa.go.jp/mofaj/a_o/ocn/au/page3_002575.html
2018/10/10日豪外務・防衛閣僚協議

外相絡みの場合、同時に防衛相など他閣僚との共同声明であることが多く、またこの一節自体、外務省HPの概要部分には記載されていない事も、この一節に対する微妙な扱いが感じられるのではないでしょうか。
とりあえず、4月末の2019年外交青書にどのような形で記載されるのかに拠りますので、現在断定出来るものではありませんが……

2018/11/15 APEC閣僚会合
https://www.mofa.go.jp/mofaj/ecm/apec/page1_000702.html
における議長声明の「ポイント」を、外務省と経済産業省の共同作成だったことを念頭に置いた上で、「英文」の第一章及び第八章と読み比べてみるのも面白いかと。

…………………………

……外交において民主化を通じた国際秩序への協調」、国際秩序と各国の民主化に向き合った上で、民主化にウェイトを置く外交を通じて国際秩序に回帰させる、その境界線の引き方について一貫した主張を行った外相外交演説は注目に値すると思います。

国際秩序にウェイトを置く安倍首相の外交とは微妙に異なる境界線
であり、これが安倍外交とバランスを取りながら今後の日本外交の一つのスタンダードたり得るのか、或いは安倍外交の中で埋没する主張なのか、それはこれからの評価次第でしょう。

取り敢えず、「民主化を通じた国際秩序への協調」が成立しない、AU(アフリカ連合)が国家と認めた国連非承認国家、西サハラへの対処はひとつの試金石になるかと思います。

現状日本はAUによる正当なプロセスとしての西サハラ国家承認を無視し、国際秩序=国連の立場を取り、TICAD西サハラ問題…外相外交演説の問題点』で示したような迂遠な対応を行わざるを得ない状況ですが、このままの状態が続く場合

それは今回採用した理念を捨て、従前の外交姿勢が結局有効だった、と判断されてしまうことに繋がるのではないでしょうか。    【了】



※※※※※※※※※※


※2019/04/09訂正:
『補項…アジェンダ2063とTICAD6の乖離』
https://tenttytt.hatenablog.com/entry/2019/04/08/212649
『補項…SGR:ナイロビ高速鉄道
https://tenttytt.hatenablog.com/entry/2019/04/09/232614掲載致しました。

なお今までの文章はすべて、第198回国会での外相外交演説とTICAD6閣僚会合演説から、河野外交の新たな特徴をピックアップしようとしたもので、
「この特徴から垣間見える新外交戦略が、国民の外交利益を導き出すかどうか」などの視点は全く持ち合わせておりません。ご了承願います。

※※※※※※※※※※

一連の文章の目次

1.『長めのサポートコメント例…外相外交演説』
https://tenttytt.hatenablog.com/entry/2019/01/30/013822

2.『TICAD西サハラ問題…外相外交演説の課題』
https://tenttytt.hatenablog.com/entry/2019/02/05/235935

3.『TICADAUと』(TICADAUの概略です)
https://tenttytt.hatenablog.com/entry/2019/02/14/212826

4.『TICADAUと(2)』(外相就任前のTICADの特徴)
https://tenttytt.hatenablog.com/entry/2019/03/03/004405

5.『TICADAUと(3)』(2018年10月TICAD6閣僚会合)
https://tenttytt.hatenablog.com/entry/2019/03/03/125302

6.『TICADAUと(4)』(AfCFTAとUHC…統合の萌芽)
https://tenttytt.hatenablog.com/entry/2019/03/12/200928

7.『TICADAUと(5)』(脱線:アフリカ民間投資状況)
https://tenttytt.hatenablog.com/entry/2019/03/28/203339

8.『まとめ:TICADAUから省みる外相外交演説』
 …今回の文章です。
https://tenttytt.hatenablog.com/entry/2019/03/28/203643