TICADとAUと(その4)

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TICADAUと(3)』の続きとなります。
https://tenttytt.hatenablog.com/entry/2019/03/03/125302
一連の目次は下記URLまでお願い致します
https://tenttytt.hatenablog.com/entry/2019/03/28/203214

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5.AUの統合本格化とTICAD

今年2019年1月、第32回アフリカ連合サミットが開催されました。
https://au.int/en/pressreleases/20190211/key-decisions-32nd-ordinary-session-assembly-african-union-january-2019
Key Decisions of the 32nd Ordinary Session of the Assembly of the African Union (January 2019)
AUホームページ 2019/02/19

その主要会議では多くの事項が決定付けられましたが、その中でも2つ、アフリカ統合に向けた大きなシステムが具体化しています。

まず第一が、AfCFTAの発効です。


大陸内統合に向けたAU(アフリカ連合)の意志は、元々前述のアブジャ条約で語られておりましたし、2015年に採択された新たなロードマップ「アジェンダ2063」でも触れられてはいます。

しかし、アジェンダ2063でも最も重要かつ困難なプロジェクトであるAfCFTA(アフリカ大陸自由貿易圏)設立をもって、初めて経済統合に向けた具体的な取り組みが始まったと言えるでしょう。
https://www.africanews.com/2018/12/04/parliament-approves-the-agreement-establishing-the-african-continental-free-trade-area-afcfta/
議会、アフリカ大陸自由貿易圏(AfCFTA)の設立に関する合意を承認』 アフリカニュース
大陸内の貿易比率を引き上げる目標を立てるなど、大陸経済強化の目的が大きいものではありますし、海外融資の流入については寧ろ規制解除に繋がるものとされています……が、

このような内容以上に、とりあえず統合に向けた大陸規模の、具体的な形を持つ協定が調印されたこと自体に大きな意義があります。

2019/03月現在、44ヶ国が署名。批准国は中央・南アフリカ諸国を中心に19ヶ国。今年中22ヶ国に達し次第、AfCFTAは発効される予定。一方、AfCFTAの起草には未だ知的所有権などの各国合意(Phase2と呼ばれていますが、この辺りはかつてTPPでも紛糾していたかと)が残っており、現状のロードマップでも2020年までかかる見込みとのことです。
https://www.uneca.org/aria-ix-report
アフリカにおける地域統合の評価IX AfCFTAフェーズII問題の報告
国連アフリカ経済会合・コンセプトノートより

……ところで、日本自体はこのAfCFTAの仕組みそのものから、少し離れた状態にあります。

上記コンセプトノートを見る限り、Phase2関連の参考事例はアフリカの地域連合以外にはEUが主、次点がASEANとなっています。またAfCFTAの実効性を高めるために重要な経済データ観測・統計機関(African Union Trade Observatory)については国際貿易センターと並んでEUが関与しています。
http://www.intracen.org/news/African-Union-European-Commission-International-Trade-Centre-launch-online-Trade-Observatory-of-up-to-date-trade-data/
アフリカ連合欧州委員会、国際貿易センターは最新の貿易データのオンライン貿易観測所を立ち上げます』国際貿易センターHP 2019/02/19

そもそも、AUそのものがEUをモデルにしていると言われている事もあり、統合の叩き台及びファーストオピニオンがEUであることは間違いないでしょう。

日本政府としても、もしAU-EU主導でAfCFTAが機能するのなら、結果としてAU-EU間の親好が深まるとしても、それはそれで良いのです。
或いはEUが中国だったとしても、国際社会のルールに必要以上に反しない形の親好なら、恐らく許容範囲内ではあります。

……問題はAfCFTAが抱えるジレンマ、アフリカ諸国間の経済格差・諸国間貿易の透明性という矛盾に押し潰され、AUがいったん統合に向けて動き始めたオーナーシップを放棄し、以前のように大陸外からの利潤ばかりに目を向けてしまうこと。或いは国際社会と協調出来ない独善的な統合に向かってしまうことでしょう。
https://theforum.erf.org.eg/2019/01/28/african-continental-free-trade-area-integration-trilemma/
アフリカ自由貿易圏:統合のトリレンマ
Jaime de Melo “Economic Research Forum”2019/01/28

昨年のTICAD閣僚会合での外相スピーチは、
このような諸国の離散とAfCFTAの逸脱を防ぎ、陰ながらAUのオーナーシップへの協力姿勢を表す
発言だった、と私は考えます。
因みに、深く貿易利潤に関わっているEUや中国が同じ発言をした場合、本質的に大陸内貿易の発展を志向するAUから逆の意味を疑われてしまうでしょう。日本の立ち位置だからこそ、またAfCFTAの仕組みそのものに深く立ち入らない状況だからこそ、可能な発言ではあります。

第二に、健康保険関連の相次ぐ活動です。


医薬品製造・技術・規制などを大陸内で統一統括するための、AMA(アフリカ医薬品庁)設立条約が採択されました。
https://www.google.com/url?sa=t&source=web&rct=j&url=https://globalforum.diaglobal.org/issue/july-2018/african-medicines-agency-establishment-treaty-adopted-by-african-ministers-of-health/&ved=2ahUKEwjG34Xvx97gAhWNHaYKHXwPDxEQFjAGegQIARAB&usg=AOvVaw3i7sSYGuT-1kiWv3ErGqw8&cshid=1551361766184
アフリカ医薬品庁設立条約を保健大臣が採択
グローバルフォーラム紙 2018/7月号

更に、現在健康保険のための基金制度を進めている話があります。現時点では国単位での保険制度を検討しているようですが、
https://www.newtimes.co.rw/news/kagame-chair-african-leaders-healthcare-meet-addis-ababa

AUが諸国の保険財政の支援システムに着手する話、
https://www.google.com/url?sa=t&source=web&rct=j&url=http://paulkagame.com/%3Fp%3D14155&ved=2ahUKEwiL6o7yp_rgAhUTQN4KHagCCrwQFjAAegQIBRAB&usg=AOvVaw1_IT-ttS33W45PBFHP3KOR

また日本がG20大阪サミットで連携する旨の話が出ています。
“…Government of Japan tabling universal health coverage as an agenda item at the G20 Osaka Summit later this year, carrying forward commitment to and collaboration on health.”
https://www.google.com/url?sa=t&source=web&rct=j&url=https://au.int/en/pressreleases/20190209/africa%25E2%2580%2599s-leaders-gather-launch-new-health-financing-initiative-aimed-closing&ved=2ahUKEwiFppCMp_rgAhWaIIgKHcsZAL0QFjAAegQIBBAB&usg=AOvVaw2gTgAwZ5aH1id6m8YaMq9Q

実はこの健康保険関連の取り組みですが、2015年に発表したAUのロードマップ『アジェンダ2063』とは性質が異なっています。
アジェンダ2063』では保健関連の目標は患者数や病院設備などの即物的な指標が多く、健康保険のための財政政策や医薬品水準の統一などの包括的な枠組みは提示されていません

寧ろ日本の2016年TICAD6ナイロビ宣言、更にTICAD6の方針のベースとなった国連のSDGsで提唱された概念であり、AUが最近になってUHCへの取り組みに乗り出した形になります。

※因みに、昨年のTICAD6閣僚会議では(保健関連の会議に外相が参加していなかったため)山田賢司外務政務官がUHCについて発言しておりますが、AU側の関心とは反比例して扱いが小さくなっているように見えます。これは単にUHCへのTICADの関心が薄れた、という可能性の他に

  • まだ公に出来ないよ


などの可能性がありますので……。


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……さて、AUの旗艦プロジェクトであるAfCFTAとAUが当初重視しなかった保健関連の大陸規模計画、この毛色の異なる二つのプロジェクトに取組んだ事で、AUがアフリカ統合に本気であることを日本側は感じたのでしょう。
これにより、TICADパートナーシップも折り返し地点に達する事となりました。

これからはAUがアフリカ諸国のパートナーシップ主体となり、統合アフリカに向けたオーナーシップを自ら展開出来るようになるまで、
TICADその他各国フォーラムがそれぞれの利点を活かしながらアフリカ統合を協調して支える事になるのです。

それ故に、TICADパートナーシップの新たなスタイルとして

  • AUに対しては、AUが提唱する取り組みへの外郭からの支援と、AUが気付かない問題点の提唱と積極的協力。そして何より、AUが国際社会と協調していくため監視しつつ、一方アフリカ統合に向けた協力(支援・黙認まで含む)を国際社会に要請する。
  • アフリカ諸国に対しては、低開発国が発展に取り残されないように、また中進国まで発展した国々がなおAUへの残留を利と出来るよう、他国を含めた発展支援オプションを出来るだけ多く取り揃える。

この形になるのではないかと思います。
そしてその最初の現れが、TICAD6閣僚会合での河野外相のスピーチだったのではないか、と私は考えます。
そしてこの閣僚会合でのスピーチ、更に国会での外相演説を通じて、直近の外交の目指すところや対抗すべき相手側が浮かび上がります。

※前回触れましたが、TICAD6閣僚会合のスピーチ内容を要点だけ抽出し
「中国への認識が『棲み分け』に変化」
「インド太平洋戦略は一帯一路に屈した」
或いは「進出戦略をしっかり牽制してる」
という中国前提の思考で考えると、
・何故この時期に対アフリカを変えたか
・どのラインで許容あるいは牽制するか
ここが見えなくなってしまい、したがってこの二つに共通する点も見えなくなってしまうのです。


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次回、『TICADAUと(5)』に続きます。
https://tenttytt.hatenablog.com/entry/2019/03/28/203339

なお、前回及び今回で触れた『アジェンダ2063』の中身については、後日補論を挿入する予定です。

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