首相欧州訪問と欧州議会選挙(3)

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『首相欧州訪問と欧州議会選挙(2)』

https://tenttytt.hatenablog.com/entry/2019/05/05/212131
からの続きとなります。

なお、一連の文章の目次については
https://tenttytt.hatenablog.com/entry/2019/05/23/194237
こちらのURLへお願いいたします。


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3. イタリア副首相サルヴィーニ


『なぜこれらの国を廻ったのか』という疑問です。

折しも、中国における「第2回一帯一路国際協力サミットフォーラム」が開催(4/25~27)された時期であり、勿論それを念頭に置いての外遊だったと思います。
ただし「念頭に置く」だけで、一帯一路への不参加を要請したり、フォーラム参加国に色々吹き込むような外遊では在るまい、と(それを行うには時期が遅すぎます)。

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…ということで、各国での会談内容から考えて見ることにします。

  • A: 「自由で開かれたインド太平洋」への協力が盛り込まれたのは、仏伊2国及び欧州委員会(此方では東・南シナ海への危機意識共有でしたが)。
  • D: イギリスの合意無き離脱、環境問題及び前述した「WTO改革」と「大阪トラック」については、全ての国で議題に(V4諸国については、データガバナンスの重要性のみに止まっていますが)。
  • F: 逆に首相より名義上格下の相手と個別対談したのは、イタリア副首相サルヴィーニのみ。


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A: に関しては、あくまでインド太平洋上の話であり、海洋保全・交易面で同海域との縁が薄いV4諸国にはあまり関係のない話……と思ったのですが……

実は昨年10月にV4+1会談を行った際
https://www.mofa.go.jp/mofaj/page4_004423.html
外務省HP『第2回V4+日本首脳会合』2018/10/18

安倍総理は,アジアと欧州の安全保障の相互連関を指摘し,自由で開かれたインド太平洋の実現に向けてV4諸国を始めとする欧州諸国との協力を呼びかけました。

とのこと(反応は得られなかった模様)。


……となると、今回は意図的にV4諸国に対して「自由で開かれたインド太平洋」の提言を避けたと思われます。
更に言えば、たった半年で第3回会談を行った(第1回→第2回には約5年掛けています。)ことも、今回更に駆け足で二国間会談まで行ったことも含めて、このV4+1会談は奇妙ではあります。


B: についても、歴史的にアフリカとの縁が強い仏伊2国以外はあまり関係のない話ではあります。

逆に言えば、今夏のTICAD7においてアフリカ大陸のほぼ全ての国家と交渉を行う立場の日本としては、この2国からのアフリカ情報を入手する目的はあったかも知れません。
特に昨年末より、アルジェリアスーダン
https://tenttytt.hatenablog.com/entry/2019/04/16/002259
及びリビアでの政情不安が続いている訳ですから。

……さて、実は少し気になる記事が見つかりました。
リビアへの対応その他について、最近になって仏伊両国の関係が悪化しているとのことです。

https://www.brookings.edu/blog/africa-in-focus/2019/02/05/france-africa-relations-challenged-by-china-and-the-european-union/
『中国とEUが挑戦するアフリカ-フランスの関係』
Brookings紙 2019/02/05
〉イタリア副首相マッテオ・サルビーニは、リビアの安定化に向けたフランスの「無関心」を揶揄。「恐らくイタリアと異なる石油利権のためだ。」

ただし、この両国の関係悪化はリビアに留まらない背景があり、此方は後述F: の件で触れようと思います。


C: D: については、G20加盟など各国の状況による面が大きいでしょう。

E: についても、ハンガリー側の一帯一路との取捨選択の結果であり、日本としてもV4の元首代理として対応したに過ぎません。
また、ハンガリー首相オルバンについては、前述の通り昨年10月のV4+1会談で顔合わせは済ませています。


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……F: サルヴィーニ副首相についてですが、今回の会談(?)について、興味深い現地記事が2つ見つかりました


https://www.ilfoglio.it/esteri/2019/04/24/news/il-governo-conte-un-camaleonte-in-asia-251376/
『コンテ政権、アジアのカメレオン』
Il foglio紙 2019/04/24

〉Legaのリーダー(注:サルヴィーニ副首相)の閣僚によって直接「要求された」会議は、日本代表団が黄緑政権(注:コンテ政権)の他の部分から少しの連絡も受けなかったであろう


https://www.ilsole24ore.com/art/mondo/2019-04-25/salvini-lezione-abe-economia-e-immigrazione-182145_PRV.shtml?uuid=ABxBFirB
『サルヴィーニ、安倍首相の経済学と移民問題の講演会にて』
Ilsole24Ore紙 2019/04/25

〉Lega(注:サルヴィーニの所属政党)情報筋は、経済的、社会的、そして入国管理の問題について「完全な共有」があることを示しています。
〉結局、日本は高い公的債務にもかかわらず生き残り成長することを強調した事に対し、しばらくの間サルヴィーニは冗談を繰り返してきました:
“Japan model, Japan model. ”


…外務省HPで『サルヴィーニ副首相兼内務相による安倍総理大臣表敬』と発表されたような、
https://www.mofa.go.jp/mofaj/erp/we/it/page1_000781.html

安倍総理大臣から、日本は、自由、民主主義といった普遍的価値を共有するイタリアとの関係を重視しており、日伊で連携していきたい旨述べました。これに対し、サルヴィーニ副首相からも賛意が示され、アベノミクスや移民政策等につき非公式な意見交換が行われました。

からかなり乖離した15分会談(?)だったようです。
更に上記Il foglio紙では4/23の夕食会(外務省HPの日本食レセプション)で出席する予定を急遽キャンセルしたとの話も掲載されています。


※なおこの“Japan model”発言について、サルヴィーニ副首相がいわゆるアベノミクスをバカにして放った言葉、と解釈するのは難しいと思います。

〉日本の公的債務は非常に高いのですが、金銭的主権があります。
https://mobile.twitter.com/matteosalvinimi/status/832345611034906625

彼が2017年2月のツイッターでこう述べ、国債発行と自国通貨発行(及びそこからも帰結するEU離脱)による国家再建を唱えて以来、彼の経済政策は
“Salvinienomics”“Salvinomics”と称せられているのですから。
彼が軽視したのは、明らかに経済政策以外の安倍首相だったのでしょう。

https://www.lettera43.it/it/articoli/mondo/2019/04/07/giappone-debito-pubblico-sovranita-monetaria/230941/
『日本はサルヴィーニが信じるようなソブリン(国債・通貨発行主権両方の寓意かと)の楽園ではない』

Lettera43紙 2019/04/07


なお……サルヴィーニ(正確には彼と、同じく副首相のディマイオ)による経済政策案は

増税や緊縮財政ではなく成長促進での債務削減
公共投資財政赤字に含まぬようEU規則の変更
EUにおける対GDP比債務比率ルールの廃止
・売上高税、消費税増税予定の中止
・脱税者への制裁強化
・納税延滞者への恩赦
・退職(年金支給)年齢引上げ
・貧困者に月780ユーロの収入確保
 などなど。
https://www.reuters.com/article/us-italy-politics-economy-policy-factbox-idUSKCN1II1WH
『イタリアのMovimento5stelleとLegaによる経済政策草案』 
ロイター紙 2018/05/17より一部抜粋


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次回、
『首相欧州訪問と欧州議会選挙(4)』
https://tenttytt.hatenablog.com/entry/2019/05/05/213104
に続きます。