TICADとAUと(その3)

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TICADAUと(その2)』
の続きとなります。
https://tenttytt.hatenablog.com/entry/2019/03/03/004405
一連の目次は下記URLまでお願い致します
https://tenttytt.hatenablog.com/entry/2019/03/28/203214

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4.直近のTICAD……国とAUへのパートナーシップ


昨年10月のTICAD6閣僚会議の状況をみていると、
アフリカ各国のオーナーシップオプションに対する相談役的な側面と、AUのオーナーシップに対する後ろ盾的側面を同時に満たそうとしているのではないか、と私は感じます。

https://www.mofa.go.jp/mofaj/af/af1/page4_004398.html
TICAD6閣僚会合 全体会合1 河野外務大臣スピーチ
(2018/10/06)


〉いくつかの被供与国において債務持続性の問題が発生しなければ,より多くの円借款案件を実施しえた。公的資金や金融機関による融資・保証については,全体として進捗は見られるものの,一次産品価格の下落,受益国の債務持続性の問題のために,一部に遅れが見られる。

〉統計上はアフリカ向け投資に含まれないが,日本企業が第三国を経由する形で行っている投資の事例が豊富に存在する

〉債権国・債務国の両者が,債務が返済可能で,透明性があり,財政健全性を悪化させないことを確保することが重要。そうしなければ,受益国が債務破綻に陥ることは避け難く,国際機関や日本を含むドナーからの商業的融資及び譲許性のある融資を得られなくなる。このことは,明らかに持続可能な発展のプロセスを妨げる可能性がある。


……長すぎる引用で申し訳ありません。

要約された内容や、中国側からの反応で判断するとこの発言を「中国に対する牽制」と感じる人もいるかも知れません。
しかし全体の文章を読めば、リスクのあるパートナーを選択した場合の注意点を指摘したものに過ぎません。寧ろ彼らの投資をオプションとして、アフリカ各国が健全に扱いオーナーシップを発揮する事を願っているのが解ると思います。

そして日本は民間の商業投資を拡充させつつも、高品質な(言い換えれば高額で動きの遅い)インフラ投資や、譲許的融資・第三国経由融資などをセットとし、他国投資の欠落部分を補完するオプションを提示しています。

なお、アフリカに対して豊富な投資オプションを提供しようとする姿勢は、中国とは逆に紐付き支援の縮小を目論むOECDの意向に対し、珍しく外務省が抗議した話からも見ることが出来るでしょう。
元々日本は譲許性のある形での紐付き融資に積極的な立場でしたが、紐付き反対を唱えるOECDに対して表立って反対する事はありませんでした。

その点、今回の反対は異様であり、特別な意志が感じられます。
https://www.devex.com/news/oecd-pushes-fix-on-untied-aid-japan-pushes-back-93552
OECDはアンタイド支援への修正を推進
Devex紙 2018/10/16


また、AUの大陸オーナーシップを支援する姿勢として、アフリカ大陸自由貿易圏 (AfCFTA)等の取組みを歓迎しつつ

〉日本はTPP11の署名を主導するなど自由貿易を推進している……自由で公平な貿易のための公平な競争条件の確保の重要性を強調……TPP11は環太平洋パートナーシップの略だが,地域の縛りはない。TPPに意欲があるアフリカ諸国であれば,いかなる国も参加を歓迎する

と語っています。
これも一見「自由で開かれたインド太平洋」構想への賛同を求めた印象を与えています。しかし事前にAfCFTAに言及した事で、諸国にTPPのハードルを改めて指し示し、自由で公正な貿易をまずアフリカ大陸内で行う事を促していることが判明します。

つまり、AfCFTA発効後も各国への規制統制が難しいであろうAUを補完し、アフリカ諸国がTPPルールをAfCFTAによる隣接国間の補完的に適用するよう訴えているわけです。

※なお、この閣僚会議を前後して、アフリカ・インド・東南アジアへの日本の新たな方針である「自由で開かれたインド太平洋戦略」から「戦略」の文字を削除した、という話があります。
少し話が外れそうなので触りだけ……
https://tenttytt.hatenablog.com/entry/2019/02/25/214400


このようなパートナーシップをTICADが選択する理由について、『中国に対する認識が変化した』という結論も成り立つのでしょう。

しかし私は対中国のバランス問題よりも、
AUが統合に向けて本腰を入れ始めた』
ため、とにかくアフリカの開発オプションを確保しようといているためではないか、と考えています。


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次回、『TICADAUと(4)』に続きます。
https://tenttytt.hatenablog.com/entry/2019/03/12/200928

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