岸田政権下のDFFT(2)G7・G20での変質:その③インドの暗躍と日本国内の変質

岸田政権下のDFFT(2)2021年G7・G20での変質:その②G20イタリアの続きとなります。

 

***************

***************

1.G20トロイカ主催国によるDFFTの変質

 

さて主催国イタリアによるG20首脳宣言の要因について、一般的には仏独等EU主要国のSDGs傾注、また中国による加盟国切り崩しが思い浮かぶのではないでしょうか。

それは勿論正しいと思うのですが私はもう一つ、ある国家の暗躍を危ぶんでいます。

大阪サミットで日本と対立し、結果として大阪トラックのG20成果文書への採択見合わせの原因となったインドです。

 

というのも2021年9月、イタリアG20サミットに際しSuresh Prabhu元商相に代わりPiyush Goyal商相(兼消費者・食品公共流通・テキスタイル相)がインドのシェルパに就任したからです。

indianexpress.com

2019年G20つくばデジタル会合において商相就任間もない彼が国家のデータ主権を主張し、反大阪トラック・反DFFTの論陣を張ったのは以前文章にまとめた通りです。

"This includes personal, community and public data, and countries must have the sovereign right, to use their data, for the welfare and development of its people. Advocacy on free trade should not necessarily lead to justification of data free flow"

「これには個人、コミュニティ、公共のデータが含まれ、各国は国民の福祉と発展のためデータ使用の主権を持たなければなりません。自由貿易への擁護が必ずしもデータフリーフローの正当化につながるとは限らないのです」 

 

概してデータ主権の意味を国家の対外的独立権に限定し、

>その領域(主権が及ぶ場所)において、そこで保存されている、通過する、または、コントロールしているデータについて他国やその機能を排除

する権能と定義する考え方があります。

itresearchart.biz

一方で国家の統治能力・国内最高決定に関する主権まで含めた権能と解釈し、「国民の福祉と発展のため」データを他国や国内外企業の搾取からの保護(この辺がデータ・ローカライゼーションに繋がります)とデータを通した反社会活動への国家干渉まで含めているのがGoyal氏及びインド政府のデータ主権定義と考えられます。

データという国民ひいては国家の重要資産を無料の(Free)ガソリンとして国際社会で使い回されることへの警告であり、国家と異なり主権に伴う国民への義務を有しないGoogle等国際産業によるデータ搾取・反国家的情報流入への危惧でもあった訳です。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

彼のG20シェルパ就任はデジタル閣僚会合こそ間に合わなかったものの、既に主催国イタリアの(前コンテ政権時代から二股外交を維持させつづけたキングメーカーLuigi Di Maio外相とはそれ以前から接触を図っております。

www.pib.gov.in

 

更に商相兼シェルパとしてイタリアとの会合を繰り返し、

www.republicworld.com

 

遂に本番のローマサミットに際しては

”The Minister added that India has strongly pushed for the need for balancing data-free flow along with trust. Mr Goyal also said, India's voice in the G20 represents the voice of less developed nations and developing nations.”

>インドはDFFTのバランスを取る必要性を強く推し進めている、と大臣は付け加えた。またG20におけるインドの声は発展途上国の声を表していると述べた。

と、岸田首相不在のG20サミットにおけるDFFTの特性をインドの努力の賜物と宣言するに至った訳です。大阪サミットで席を立ちDFFTのメインストリームから外れて以来、2年を経てインドがその位置を奪還した瞬間でした。

newsonair.gov.in

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

特にG20加盟国・G7オブザーバー国でありながら2019年8月から2021年2月にかけてジャム・カシミールでのネット遮断という行為に及んだ経験もあるインドにとって、DFFTの最重要観点をSDGsに変質させるイタリアの提案は渡りに船だったと思われます。

自国がSDGsの文脈に存在する限り、データに関する国家干渉をある程度黙認されたまま新たなDFFT推進国家となる事が出来るのですから。

 

***************

……そしてDFFTを含めたインドによる挑戦は、2023年にピークを迎えます。

2023年、インドはG20サミットの主催国となります。

一方日本は同2023年、G7サミットの主催国です。

 

2022年、G20インドネシアサミット期間において、前主催国イタリアと次期主催国インドはトロイカ体制を敷き主催国のサポートを行います。

一方日本は2022年の空白を独力で埋めながら、大阪サミットの場で示したDFFTを含む自らの立場をG7の場で推し進めていかなくてはなりません。それも更なる内向き傾向を進める国際情勢の中でです。

 

***************

***************

おわりに:日本国内におけるDFFTの変質

 

……以上が昨年末頃までの、主要国会合におけるDFFTの経緯でした。

 

さてこの文章を作った昨年末の頃から、世界情勢はウクライナ侵攻を契機として急速な変貌を遂げてしまいました。G20は次期主催国インドの反発により、ロシアへの制裁を求めるG7諸国と非G7国家の分断様相が色濃くなっています。

DFFTの側面から考えれば予想された2023年より一年早い分断により、特定国家との信頼醸成の余地が完全に失われてしまった訳です。

 

もっともこの状況下でDFFTに関する外交的議論はほぼ全面的に失われました。この文章の大本を作り終えていた昨年末以降、国内外でDFFTに関する話はほとんど見受けられません。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

代わりに国内で出てきたのが二つ。

 

その一つが2022/05/11に可決・成立した経済安全保障推進法です

経済安全保障法制に関する提言の第Ⅲ章を読めば明らかなように、推進法の第二の柱「インフラにおける安全確保」はサイバーセキュリティを目的としたデジタル機器に関する発注プロセスの整備及び国際ルールとのすり合わせを焦点としています。

これは甘利前幹事長が推し進めたデータの二元論的経済安全保障のひとつの結実であり、G7の方向性にDFFT発信国の日本が同調したという指標でもあります。

一方で、国際ルールと自国の安全保障のすり合わせを焦点とする点においてはnon-trust状態でのDFFTのたたき台とも言えるものではないか、と思われます。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

そしてもう一つ……「国際的な信頼構築」と切り離され、トラストがIT用語に切り替えられたDFFTが、デジタル庁に集う専門家や経団連の手により水面下でコンセンサスを得ようとしています。

 

先ほどインド側のデータ主権について

「国家と異なり主権に伴う国民への義務を有しないGoogle等国際産業によるデータ搾取・反国家的情報流入への危惧」

と記しましたが……まさにその危惧の裏返しともいえる、自らをまるで国家を越えたプレーンな存在と断じるが如き産業主体のDFFTを解析することで、次回最後のDFFT論を締め括ろうと思います。

もう少し文章時間かかります。