茂木外交に垣間見える性格と、対インド会談

はじめに.


前回の『NDPIと教皇訪日とGSOMIA……3つの核の物語』で少しだけ触れた、茂木外交の性格についての文章です。


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……外相就任以降、経済再生担当相・内閣府特命担当相時代から(内閣官房HP)業務を継続した日米貿易協定については勿論、その後の外相会談や諸会合また記者会見(外務省HP)に至るまでそつなく業務をこなしていたと思われます。

即位の礼に至る第四次改造内閣から引き継がれた業務をこなし続けている間、外交自体に独自色を出すことは控えていたようです。

茂木外相の国際的な技量を測るデビューと思われたG20愛知外務大臣会合の場も事後概要(G20愛知・名古屋外務大臣会合HP)にある通り、やはりそれまでのG20大阪及び前後して行われた閣僚会合を踏襲したものでした

……が、今回の外相会合で共同声明あるいは議長声明の代わりに行われた議長国記者会見(G20愛知・名古屋外務大臣会合HP)の内容は、G20外相会合の総括という本来の意図を外れ、同会合における茂木外相のスタンスを言語化する格好の場となりました。


今回は外相会合が終了した11/23の『議長国記者会見』、会合に伴う二国間会談が終了した11/26の『茂木外務大臣会見記録(外務省HP)』などから垣間見えた茂木外交の性格に触れてみたいと考えています。


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1: 茂木外相の特徴について

1-1: 自由貿易への注力とその他への無関心


まず今会合について、外相は主要テーマ(G20愛知HP)として

自由貿易の推進とグローバル・ガバナンス
・SDGs(の実現)
・アフリカの開発

の3つを掲げていましたが、記者会見では他二軒と比較して「自由貿易と~」のウェイト・会議内容の具体性などかなり注力していた事が、第一の特徴として挙げられるでしょう。

自由貿易への関心自体は各国、サミット参加者の多くが共有していた認識ではないか?」という問いについては、確かにそうだと思われます。

しかし逆にそれ以外のSDGsやアフリカ開発についても各国十分に関心を持ち、それぞれの取り組みを述べていた事は『議長国記者会見』でも触れています。恐らく実際の会合では、この二議題について多岐にわたる具体的な提案を、日本も他国も用意していたでしょう。であるからこそ、各国の意見の方向性に対する総括と、成果としての日本のリーダーシップを示すことは

〉各国間の申し合わせにより,会議の中で,誰が何を述べたかをご紹介する事はできない

と述べている限り、議長である外相自身の義務なのですが、それすら気づかないほど外相自身は残り二つのテーマに対して関心を持っていないのです。


……言い換えれば、それだけ第一のテーマ“自由貿易の推進とグローバルガバナンス”に注力していたと言えるのでしょう。では、この第一のテーマにどのような関心の示し方をしていたのでしょうか。


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1-2: DFFT関連発言に見るグローバリズム傾注


〉いわば「角(つの)を矯(た)めて牛を殺す」ことがないような制度を作ることが重要な課題であると感じたところであります。
〉「Data Free Flow with Trust」,つまり,「free flow」が基本にあって,その上で「trust」ということだと考えており,その順番を間違えてはいけないと思っております。

(共同通信 鈴木記者への返答)


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デジタル経済議論の総括について、外相は上記の感想を述べられました。

ここでいう“Data Free Flow with Trust (以下“DFFT”)”とは、現在では6/8のG20貿易・デジタル経済大臣閣僚声明(総務省HPより)により

  • プライバシーやデータ保護、知的財産権やセキュリティを通じて消費者及びビジネスの信頼を構築し、データの自由な流通を促進することでデジタル経済の機会を活かすこと


と定義されています。
今回の記者会見でも触れた「大阪トラック」(外務省HP)は、このDFFT体制整備に向けたプロセスとされているのですが、外相はこのDFFTへの率直な感想として、データ保護等を重視し自由流通によるデジタル経済の活性化を阻害することを懸念した訳です。


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ところで、“with Trust”抜きの“Data Free Flow”については、安倍首相がDFFTと大阪トラックの定義を2019/1/23のダボス会議で提唱(官邸HPより)したよりも前から、WTOなどの場で経産省主導で提案(WTOホームページ)し、欧米諸国を中心に支持を得ています。


“…the WTO should consider reaching agreement among Members on principles to ensure free flow of data. Any such agreement should allow the least trade restrictive measures that would fulfil legitimate public policy objectives, including personal data protection.”

WTOは主要メンバー間において、データフリーフローを保証するための合意に達するべきです。
〉そのような協定は個人データ保護を含む、合法的な公共政策のためなど、貿易への制限を最少とするもののみを認めるべきです。
(3.7節 筆者訳)


しかし茂木外相のように、Free Flowの恩恵を受ける企業への法的規制は最小化すべき、という考え方まで進める事には、上記WTO提案に賛意を示したEUすらデータ保護の観点から懸念(令和元年度版情報通信白書より)を示しており、寧ろwith Trustを各国が満たす事に関心が移っています。
欧州委、個人データ保護に関わる日本の十分性認定の意義に言及
(JETROビジネス短信 2019/01/31)

茂木外相と同様のベクトルを提示するアメリカすら、Free Flow保証の最大化を求めるのはあくまでGoogleAmazonを自らが擁しているという前提あってのことです。トランプ政権が彼らに課税回避やネガティブな情報配信姿勢に対する非難を行うのは、彼らがアメリカの所有物だと認識している事の裏返しに過ぎません。

更にインドはデータ・ローカライゼーション、つまりデータの価値と保護を国家主権の下にあるべきものと主張しました。データの価値を国家が放棄し、根本で特定国家の庇護の下にある国際企業に還元させるものではなく、自国の成長と国民の安全性に責任を持つ国家自身が活用すべきものだと主張し、G20サミットで南アフリカインドネシア等と共に大阪トラックへの署名を拒否、現在に至っています。


安倍首相の場合、確かにData Free Flowの優位性を

  • 現在国家間で存在するデータ流通のコンフリクトを解消させ、その流通円滑化により節約出来た負担をこれからの成長資本に投入する


という自由貿易の利潤に関する基本概念から主張してはいるのですが、各国に隔たりのある保護的側面を重視し、“with Trust”の理念と大阪トラックという協議の場を提唱しています。


茂木外相のように、原則的な自由貿易の立場のみでData Free Flow受益者への支持を主張するのは、政治家としては極めて特殊だと言えます。各国の隔たりを埋めていくというwith Trustの原点を飛び越え、グローバリズムの視点を重視しているのです。


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1-3: 東京グローバル・ダイアローグ演説


このグローバリズムへの傾注の姿勢は、2019/12/02に行われた第1回東京グローバル・ダイアログにおける茂木外務大臣外交政策演説(外務省HP)において更に鮮明となります。


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〉既存大国と新興勢力がせめぎ合う現在だからこそ、「力」によって自らの主張を押し通すのではなく、まず第1に国際社会のルールにのっとって解決策を見いだすこと、そして2つ目として経済・社会・技術革新など様々な変化に対応した新たなルール作りを通じて、より持続可能な国際秩序へと脱皮させていくこと(中略)

〉こうしたルールを守っていく中で、各国のポテンシャルを引き上げ、実際の経済的繁栄をもたらすにはどうすればよいのか。それが、もう一つの取組、経済協力をめぐる日本外交につながってきます。その基本、「自由と公正さ」を支えるものは、一言でいえば「選択肢があること」だと思います。(中略)

〉特定のサプライチェーンにのみ従属するのではなく、重層的なネットワークの中で経済活動を発展させられるよう、経済回廊の形成や物流インフラの支援を行っています。(中略)

〉インド太平洋は、世界人口の半分を有する世界の活力の中心であると同時に、多くの新興勢力が台頭し、各国の力関係が複雑にせめぎ合う地域です。本日のスピーチで、日本がそのインド太平洋において、まさに「自由・公正で透明性のあるルールに基づいた国際秩序」を構築するために、長期的視野から、一貫性のある外交を進めていることを御理解いただけたのではないかと思います。


……安倍政権の外交姿勢を力強く受け継ぎ、また他国に数多くの選択肢を提示できる、二国間経済交渉の第一人者としての自負を感じさせるスピーチです。

もし疑問を呈するとすれば、インド太平洋の新興国家の腹中を捉え切る事が出来るかどうかでしょう。

相手国に利害や国策を取捨選択させる交渉能力ではありません。グローバリズムに根ざす経済的選択性や国際秩序を拒否する理由を、単なる民族主義国家主義覇権国家からの利権程度でしか理解しておらず、またその中で育まれる新しい秩序への恐れも感じていないのではないか、という事です。


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更にこの東京グローバル・ダイアローグ演説は、

『多国間主義あるいは自由貿易は、あくまで欧米のグローバリズム下に存在するものであり、他大陸のリージョナルな主張の統合や影響力拡大は望ましいものではない』

という、茂木外交の更なる性格まで浮き彫りにしています。


〉そして、ここで強調したいのは、日本は、ただ単に自由経済圏の拡大のみを追求しているわけではないということです。そこには、世界の成長センターであるアジア太平洋地域における新たな枠組の在り方として、経済面のみならず地政学的な見地から見てどのようなものが望ましいかという、戦略的判断があります。

〉アジア太平洋の戦略的枠組において、米国のプレゼンスをしっかりと確保することは不可欠であり、日本は、米国の同盟国として、そのプレゼンスを確保していく責務があります。今、国会で審議が最終盤を迎えている日米貿易協定は、アジア太平洋の自由経済圏に米国をつなぎ止める役割を果たすものでもあります


……アジア太平洋の自由経済圏に米国をつなぎ止める、と述べられていますが、直前の文章から考えて本当の意味は『アジア太平洋の自由経済圏を米国につなぎ止める』でしょう。


〉日本は、様々な経済連携協定を通じ、質の高いルールが適用される範囲を拡大しています。TPP11、日EUEPA、日米貿易協定によって、世界のGDPの6割をカバーする自由経済圏が形成されつつあり、まさに日本がその中心、ハブとなっています。


アジア太平洋(或いはインド太平洋)エリアにおける利益・共通認識を取りまとめて国際的議題として提唱する、リージョナルな多国間主義の代わりに、彼らの主張を日本をハブとして米国と連動して解決を謀る。

例えば先日インドの署名拒否で話題となったRCEPの場合、日本政府は国家として中国・インドが加わる形での署名にこだわる姿勢を示しています。

これは中国やインドといった、相反する利益・認識を持つ大国を加えた広域自由経済圏を形成することにより、彼ら新興大国がアジア太平洋地域の小規模連携を通じてリージョナルな主張を形成するのを阻害する効果があります。

茂木外相の場合、そこで日本がオピニオンリーダーとして地域の意見を広く統合していくのではなく、あくまで米国中心の国際的自由経済圏に回帰させる事を旨としているのではないか、と思われるのです。



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2. 外相の対印交渉と、インドに見る日本型国際政策への拒否感


さて、これら外相の性格を踏まえた上で確認して頂きたいものがあります。上記G20議長国記者会見と東京グローバル・ダイアローグ演説の間に行われた、対インド会談です。


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2-1: 前置きとして…共同声明でのカシミール言及


“They noted in this context the threat posed to regional security by terrorist networks operating out of Pakistan and called upon it to take resolute and irreversible action against them and fully comply with international commitments including to FATF.”

〉彼らはこの文脈で、パキスタンから活動するテロリストネットワークによって地域の安全にもたらされる脅威に留意し、彼らに対し断固たる不可逆的な行動をとり、FATFを含む国際的な約束を完全に遵守するよう求めた。

注) FATFとは、マネーロンダリング対策・テロ資金対策の国際的推進等を目的とした政府間機関のこと。外務省HPより


上段:https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000544338.pdf
“Joint statement First Japan-India 2+2 Foreign and Defence Ministerial Meeting”(外務省HPより)

下段: Google和訳による翻訳


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茂木外務大臣のインド訪問(外務省HP)における、第1回日印外務・防衛閣僚会合(「2+2」)共同声明に上記の文章が盛り込まれました。

外務省HPでの仮訳では判りにくいためGoogleでの直訳を掲載しましたが、パキスタンの外側……つまりインド・パキスタン周辺部カシミール地方での反インド活動について、インド側と協調し断固として不可逆的な行動を取る旨、共同声明を発した訳です。


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※このカシミール地方まで言及した共同声明について翌日、海部篤外務副報道官は

"I do not remember the ministers going into the detailed discussion on the specific issue."

"But at the same time, I can say we looked at the situation there very carefully. We are aware of the long-standing differences of views with regard to Kashmir. We hope a peaceful resolution will be found through dialogue."

Looked at Situation in Kashmir Carefully; Hope for Peaceful Resolution Through Dialogue: Japan
News18紙 2019/12/01

〉「大臣が特定の問題に関する詳細な議論を行ってたかどうか覚えていない」

〉「しかしながら同時に、我々は状況を非常に注目していると言うことができます。我々はカシミールに関する見解の長年の違いを認識しています。対話を通して平和的な解決が見られることが我々の望みです」

(筆者訳: 副報道官の実際の発言を掲載すべきですが、国内での報道が見当たりませんでした)

と、既に声明に盛り込まれているこの一節に対し、文面通りの意味に取らないよう弁明しております。


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この共同声明の内容は、明らかに日本側がインドに“してやられた”形ではあるのですが……実のところそれを以て『茂木外交の失敗だ』と主張したい訳ではありません。単に優先順位の低い外交問題に無頓着だったという事でしょう。あるいは外相よりも河野防衛相側の意向であったかも知れません。


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2-2: 2つの国際的枠組は俎上に上がったのか?


注目すべきは、外相が自らにとって優先事項である自由貿易に関する二つの難題、大阪トラックとRCEPについて具体的な提案をインド側に持ち出すことが出来たのかだと考えています。何故なら大阪トラック(India Perspective HP)RCEP(JETROホームページ)、前述したようにどちらも日本が主導的役割を果たした国際的な協定を、インド側が自らの国家的立場のもと断固として拒否した問題だからです。


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現行の大阪トラックにおけるData Free Flowへの不信、またRCEPにおける原産地規制やセーフガード発動基準、更にData Free FlowがRCEPに原則適用される事(“India rejects RCEP e-commerce chapter”The Hindu紙2019/10/11)への不満。

日本側提唱の国際政策へのフラストレーションを抱えるインドに対し具体的な歩み寄りの提案を行ったり逆にインドを切り捨てる事で、新たなアジア太平洋エリアのイニシアティブを作り直すのか。

或いはアジア太平洋エリアでの新興大国との対立をアメリカに転嫁させるため、あくまで原則的な自由経済圏の論理を呼び掛け、現状維持の体勢を表面上続けるのか。

今回の茂木外相の対印交渉は、その性格を見定めるための重要な指標と成り得たのです。

※RCEPインド離脱の背景については
RCEPは大きな岐路に - みずほ総合研究所(2019/11/18)が分かり易いかと。Data Free Flowに対するインド側の反対が、日本で殆ど伝わっていない事を示す意味でも良い資料と言えます。


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……結果から言うと、大阪トラックについては論題に上がったかすらも伝えられておりません。またRCEPについては11/30の臨時記者会見


〉【茂木外務大臣】ジャイシャンカル外相と先週も名古屋で会っておりまして(注: 外務省HP),かなり先週RCEPについては外相との間でお話をしております。今日,モディ首相を表敬した際にですね,RCEPの話題も出させていただきました。

〉【茂木外務大臣】先週のジャイシャンカル外相との議論の中で,様々インドが持っている懸念についてお話を伺いました,そして,日本として出来る限りの協力をしたい,こういうお話をしておりますが,御案内のとおり今,交渉継続中でありますので,交渉の内容については,コメント控えさせてください。


と、内容には言及出来ないが事前に話し合いを行った旨発言されています。ただし、この外相交渉の内容について正式なリリースとなるであろう12/15の安倍首相訪印が怪しい状況となった今、それを知ることは難しくなっております。

※首相訪問中止の理由が「アッサム州グワハティ市の治安悪化」との事ですが、12/12現在の外務省海外安全ホームページではアッサム州(グワハティ市除く)が危険レベル2、グワハティ市内はレベル1なんですよね。

参考: Northeast boils, police open fire, train services hit as anti-Citizenship Bill stir rages in Assam: Highlights
(IndiaToday紙 2019/12/12)


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ただし、外相・防衛相の訪問に続く12/10の梶山経産相のインド訪問の結果は、茂木外相がインド側に対して国際的枠組みに関する具体的な提言を行わなかった可能性を示しています。

RCEP「課題解決に取り組む」、梶山経産相が印訪問
日本経済新聞 2019/12/10

この会談について、日本側とインド側の発表は内容が大きく異なっております。


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梶山経済産業大臣がインドへ出張しました(経産省HP)

〉梶山大臣より、RCEPについて、インドの参加に向けてともに課題に取り組む旨を述べた上で、率直な議論を行いました。

〉また、「日印産業競争力パートナーシップ」を立ち上げ、インドが抱える課題に対し日本の経験の共有や具体的な協力を通じて共に取り組んでいくことを提案し、ゴヤル商工大臣から、梶山大臣と密接に連携して取り組みたいとの賛意を得ました。


Piyush Goyal商工大臣、ニューデリーで日本の経済産業大臣と会談(インド政府プレスリリースHP)

〉商工大臣は、すべてのパートナーに対して貿易のバランスを取ることは、インドにとって最優先事項であると日本の経済産業大臣に伝えました。

〉同様に、パートナー国とのインドの商品およびサービスの市場アクセスは非常に重要ですが、日印包括貿易協定が締結されたにもかかわらず、インドの商品およびサービスの市場アクセスはとらえどころのないままの状況です。

〉両大臣はこれらすべての問題に対処し、日印貿易関係を強化するために、期限付き行動計画を作成するよう両国の当局者に伝えました。


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RCEPについての議論を行い、またインドへの産業協力について提案したとする経産省

RCEPどころか、二国間の貿易協定(参考:外務省HP)についても疑義を呈し、対日貿易不均衡減少のロードマップ作成を命じたとするインド商工省。

両者の記述は全く整合性に欠いています。

※このインド商工省側の発表に慌てたのか、経産省は翌12/11にLaunch of “India-Japan Industrial Competitiveness Partnership”仮訳「日印産業競争力パートナーシップ」の立ち上げについて(共に経産省HPより)の共同声明文書を掲載、日本側の記載の正当性を訴える事態となっています。


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……両者のどちらの内容が正しいのかはともかく、この件で私が述べたいのは一つ。

今回の梶山経産相訪印で、大阪トラックは勿論RCEPについても、インド側の態度を決定すべきまともな話し合いが行われなかった可能性が高い事。

ひいては茂木外相も、RCEPや大阪トラックを主管する経産相会談への地ならしとなる具体的な提案を行わず、あくまで原則論としてのRCEP参加依頼に留まっていた、という事の証明でもあります。


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終わりに:


〉(トルコ・ミリイェット紙 ディデム・オゼル・テュメル・アンカラ支局長)
〉貿易紛争や制裁を政治的手段として利用する国もある中で,WTO改革について議論をすることは現実的でしょうか。このような困難な環境において,G20としてどのようにWTO改革に取り組んでいくのですか。


〉(茂木大臣)
〉(ここのみ英語で)非常に良い質問です。
〉多角的貿易体制が様々な課題に直面する中で,G20大阪サミットで首脳たちは,自由,公正,無差別といった自由貿易体制を支える原則で一致しました。
〉まさに多国間枠組みへの信頼の揺らぎが見られる今だからこそ,多角的貿易体制の礎であるWTOを,現代の国際貿易における諸課題に十分に対応できるように改革すべきというのが,G20の共通の認識であります。
〉今回の外相会合でも,WTO改革に勢いを与えるために活発な議論を行いました。本日の議論を,スピード感をもって具体化するため,日本は今後もG20を始めとする場で積極的な議論に貢献していきたいと考えております。

議長国記者会見(G20愛知HP)


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……この噛み合わないやりとりに、茂木外交が今後抱えるであろう問題が集約されていると思われます。

記者側が今更WTO改革を議論しても現実に対処しえるのかを質問しているのに、『今だからこそ行うべき』と答える。

現実に対処するため、G20WTOをどのように改革しようとしているかを質問しているのに、『現実の諸課題に対応できるよう、スピード感をもって具体化する』と答える。

これらの回答は、その場の思い付きで発せられた言葉ではありません。『よい質問です』と前置きし、持論を取捨選択して発言した結果なのです。


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日本のアフリカ姿勢について質問したイタリア同様、記者会見でのトルコの質問は自国の政策、つまりグローバリズムの持つ欧米中心主義への不信を背景として行われたものでしょう。

だからこそ、外相は東京グローバル・ダイアローグのような具体的な発言は差し控え、国家主義と新興大国への接近を選ぼうとするトルコに対して原則的な対立意見を提示したのだと思われます。

自らのグローバリズムへの傾注と、その正体を見透かされないよう注意を払う姿勢に、茂木外相の性格が強く現れているのではないでしょうか。


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そして……終わりの終わりに。


外務省のHPや海外で報じられる各国政権の活動を調べると、このインドやイタリアなどのような
『何故ここまで敵視するのか判らない』くらい露骨な反感を見せる政権が最近増えているのに気が付きます。

特別に深い関係もなく、あるいは米中対立を通して関係が悪化するような状況でもない国で。

実際のところ、その底流は判明しません。

少なくとも、新興勢力と既存大国の対立図形とか
『経済的選択を相手に与えない』『透明性に欠ける国際秩序を志向する』アンチグローバルな勢力とそれ以外、といった二元論的思考では、その底流を掴むことが困難なものです。


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私が今考えているのは、この日本への敵意の正体を洗い出し、対処する事こそ第四次安倍再改造内閣の急務ではないか、ということです。

そして茂木外相の二元論的、また最終的にアメリカ頼みとなる外交がその作業の足枷にならないか、少々心配ではあるのです。



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