補項:アジェンダ2063とTICAD6の乖離

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TICADAUと』などの補項として、
AU(アフリカ連合)の開発戦略として採択された「アジェンダ2063」の概略、及び2016年TICAD6当時の日本政府が持っていたアフリカ開発思想との乖離の試論になります。

アフリカ連合HPでの記載内容が先日(2019/04/07)大幅に変更されました。2016年当時の状況確認という主旨から、変更前のHP記載事項、及び添付資料(“First ten years' implement plan”等)を前提とした文章となっております。リンク先にある現行のHP内容と異なる部分がありますのでご容赦願います。

本編の目次は下記URLまでお願い致します
https://tenttytt.hatenablog.com/entry/2019/03/28/203214


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アジェンダ2063は

今後50年間にわたる大陸の社会経済的変革のための戦略的枠組みとして、2015年にAU(アフリカ連合)首脳会合で採択されました。
https://au.int/agenda2063/overview

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それまでのアフリカ開発計画、すなわち

ラゴス行動計画(Lagos action plan)

アフリカ低開発の根本原因を新植民地主義的支配に求め、その脱却と自立的発展のため、地域共同体を通じた経済統合を2000年までに目指したもの…らしいです。全文が見つからないので…

アブジャ条約(The Abuja Treaty)或いはAEC(African Economic Community)設立条約

1994年発効された、地域共同体設立から大陸内自由貿易協定・関税同盟、共同市場、共通貨幣などの経済統合に向けた、6段階の時限式ロードマップを中心とした条約。

最小統合プログラム(Minimum Integration Programme)

発展スピード等の異なる地域共同体に対し、統合に相応しい共同体のビジョンを提示する形で、そこまでに必要な政策を採択させるプログラム。プログラムには経済的自由流通のほか、農業・産業・医療アクセス・教育・ジェンダー等多岐のビジョンが示されている。

アフリカのインフラ開発プログラム(PIDA)

大陸規模の輸送・エネルギー・横断水利・ITの4つの柱を中心とするインフラ戦略プログラム

包括的なアフリカ農業開発プログラム(CAADP)

農業生産・利益率向上・農業雇用、最終的には地域間の農業関連利害の調整機能確保などに向けたプログラム。アフリカ諸国に対して改善提案や、農業セクターへの公的支出確保の提案を行う。

新アフリカ開発パートナーシップ(NEPAD)

AU(アフリカ連合)におけるインフラ・農業・環境・人材開発・文化・科学技術及び大陸内市場アクセス分野など多岐にわたる開発プログラムを統合する機関。(上記PIDA及びCAADPもNEPADの開発プログラムの一部)

地域・国内計画

の統合体となります。


アジェンダ2063作成にあたり基礎

となったのが下記の1~6、すなわち

1.アフリカ連合の構成法

安全・平和・人権についての主文、Assembly・Exclusive Councilなど構成体の役割等について記されたもの。アジェンダ2063の基礎となるのは主文あたりだと思われます。

2.アフリカ連合の指針となるビジョン

「市民によって推進され国際的分野で活動力を示す、統合され、繁栄した、平和なアフリカ」


3.AU50周年記念宣言で採択された8つの優先分野

アイデンティティルネッサンス
 (氾アフリカ主義の確立と歴史文化教育)
・反植民地主義と自己決定権の完全化
・統合アジェンダ
 (アブジャ条約・AECの目的遂行)
・社会経済発展アジェンダ
 (教育・保健・インフラetcの持続的発展)
・平和と安全
 (戦争・紛争及び権利違反の排除)
・民主的な政府
・アフリカの自己決定
 (オーナーシップ発揮による社会資源活用と発展)
・世界の中のアフリカ
 (国連内の発言力向上も視野に入れた大陸発展)

4.2063年のアフリカの抱負

  • 包括的な成長と持続可能な開発に基づく豊かなアフリカ
  • 汎アフリカ主義の理想とルネサンス的ビジョンに基づく、政治的に統合された大陸
  • 優れた統治、民主主義、人権の尊重、正義、そして法の支配の元にあるアフリカ
  • 平和で安全なアフリカ
  • 女性や若者の力、また子供達をケアする環境に支えられて発展するアフリカ
  • 強く、団結し、回復力があり、影響力のある世界的なプレーヤーおよびパートナーとしてのアフリカ


※この7つの抱負のもと、20の目標と優先分野が、抽象的な言葉
(例えば「A High Standard of Living, Quality of Life and Well Being for All Citizens」「Incomes, Jobs and decent work」など)で設定されています。
https://au.int/agenda2063/goals

5.地域および大陸の枠組み

6.加盟国の国家計画

※以上の要約はAUホームページ“agenda2063-about”に記載されておりましたが、当該ページは2019/04/08時点で削除されたようです。
採択当時のアジェンダ2063の考え方を提示するため、掲載当時の内容を記しました。


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そして、アジェンダ発行後10年間の実施計画として

まず12の旗艦プロジェクト

  • バーチャル大学・E大学
  • アフリカ製商品の価値形成
  • 政治・民間・学術等の定期的フォーラム
  • 大陸内パスポートフリー化
  • 電力供給のためのINGAダム計画の実施
  • 大陸内Eネットワーク構築
  • 宇宙進出計画
  • 航空市場の単一化
  • 大陸内国家間金融機関の設立

※2019/04/07以降、
 ・サイバーセキュリテイ
 ・アフリカ美術館プロジェクト
 の二つが追加され、14ヶとなっています。


そして上記「2063年アフリカの抱負」とリンクし、

期間と目標数値が設定されております。

https://au.int/agenda2063/outcomes


……上記アジェンダ2063を優先順位的に要約すると

1. アフリカの統合(経済だけでなく文化・アイデンティティ的な統合も含む)
2. 経済的統合のための期間指定計画
3. 持続的発展のための産業インフラ拡充
4. アフリカ内の平和
5. 人権、女性・子供の権利に対する支援
6. 保健・教育、etc…

このようになるかと思います。


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さて、これからのアフリカの目標として採択された上記アジェンダ2063』と、翌2016年のTICAD6で日本政府からのアフリカパートナーシップの方針として発表された『ナイロビ宣言』ですが、これが微妙に噛み合っていません

以下、『TICADAUと(2)』で示したナイロビ宣言の箇条書きを再掲すると、

(1)経済の多角化、産業化
 …農業・畜産・鉱業・海洋、中小含む
  アフリカIT、観光支援。エネルギー
  都市問題へ の言及。バリュチェーン
  構築と付加価値向上
・質の高いインフラ
・民間セクター開発
 …雇用に向けた貿易投資促進、
  民間セクターの役割強化
  アフリカ内企業へインセンティブ
・人材育成(教育・技術・職業訓練全般)

(2)保健システムの強化
・公衆衛生上の危機への対応
・UHC(ユニバーサルヘルス・カバレッジ)

(3)社会安定化及び平和構築
 …教育・訓練・雇用面での社会安定化
・テロ及び暴力的過激主義への対応
 …テロ対策のため国際協調を呼びかけ
・地球規模の問題及び課題
 …環境・貧困等への対処と協定締結促進
・海洋安全保障
 …国際法に基づく海洋秩序

(4)21世紀における国連
 …安保理改革への決意を改めて強調

これらには、アジェンダ2063が最も強調する「アフリカの統合」に向けた協力姿勢はありません
ナイロビ宣言の(1)に見られる経済協力やインフラ支援は、あくまでアフリカの持続的発展に向けたものです。
一方、ナイロビ宣言の(2)(3)で見られる保健システムの強化や(闘争以外の)社会安定化は、アジェンダ2063ではあまり言及されていません


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この差違について考えると、恐らくTICAD6時点での日本のアフリカ開発計画は、SDGs(Sustainable Development Goals 持続可能な開発目標)を元に作られたものだったからではないか、と思います。

SDGsとは、2015年国連サミットにおいて新たな国際社会全体の目標として採択された、17のゴールと169のターゲットにより構成される「誰も置き去りにしない」持続可能な開発計画です。
https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/sdgs/about/index.html(外務省HPより)

ナイロビ宣言における(4)国連に関するもの以外の各項目は、SDGsの複数のゴールやターゲットに跨がる、アフリカの持続的発展に必要な施策ではあるのです。

一方、アジェンダ2063とSDGsの連関は
https://au.int/en/agenda2063/sdgs
のように、アジェンダ2063の20項目の目標のうち5つ、特にアフリカ統合などの重要な目標は、SDGsのゴールと結びついていないのです。


……因みに、このSDGsにリンクしないアジェンダ2063の目標については、奇しくも2018年のFOCAC(中国アフリカ協力フォーラム)が拾っています。
歴史的アイデンティティの部分すら、「人的交流イニシアティブ」の一つに採用しているのです。
もちろんアジェンダ2063の最優先目標であるアフリカの「内向きな」統合そのものには触れず、具体的かつ自国との関係強化色彩の強い提案に収束するのですが。


この辺りの差が、TICAD6開催(2016年)時点でのアジェンダ2063、ひいてはアフリカ統合に対する日本の認識を浮き彫りにしているのではないか、と思います。
AU(アフリカ連合)の存在価値はともかく、彼らの掲げるアフリカ統合よりも、大陸の持続的発展の方が優先事項ではないのか?」


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端的な話ですが、アジェンダ2063に則れば
インフラ開発一つでも、そのインフラが持続的に自らの発展に寄与するかどうか、という視点が軽視されうる問題があります。

統合ロードマップや統合に向けた諸国発展などの名目で、採算の取れないインフラ開発を強行し、結果「債務者の罠」に陥っている節がある訳です。

“Their infrastructure systems, like their borders, are reflections of the continent’s colonial past, with roads, ports, and railroads built for resource extraction and political control, rather than to bind territories together economically or socially.”

〉経済的または社会的に領土を結び付けるためではなく、(領主国が)資源を抽出したり、政治的に統制するために作られた道路、港、鉄道と同じように
〉彼ら(アフリカ諸国)の国境のようなインフラシステムは大陸の植民地時代の歴史を反映したものなのです。

“Program Infrastructure Development for Africa (PIDA)”
AUホームページより

……植民地時代のインフラは優先して刷新する。

例えばSGR(モンバサ=ナイロビ高速鉄道)における「債務者の罠」の背景には、債権国家の思惑や政治家の利権以前に、アフリカ統合イデオロギーの負の部分があり、
2016年時点の日本政府はそこを危惧(あるいは忌避)したのかもしれません。


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2019/04/14以降、私の通信環境からAUのホームページに繋がらなくなってしまいました。
(アクセス権が無い、との表示が出ます。何でしょう)