首相欧州訪問と欧州議会選挙(5:完結)

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首相欧州訪問と欧州議会選挙(4)

https://tenttytt.hatenablog.com/entry/2019/05/05/213104
の続きとなります。

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6. アメリカの対欧州外交


なぜ欧州選挙のパワーバランスを重要視したか。

実のところパワーバランスを重要視したのは日本以上に、欧州の次に訪問したアメリ
ではないか、と考えています。


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以下は、安倍首相外遊が終了した5月以降のアメリカ及び関係諸国の活動を一覧にしたものです。

5/3

5/5

5/6

  • 米国務相、北極協議会にてロシア・中国糾弾。
  • 米国務相-ロシア外相会談

5/7

  • 米特別代表(対北朝鮮)、日本・韓国訪問

5/8

  • 米国務相-英国首相・外相会談
  • 米、対イラン貿易制裁追加(鉄鋼)
  • イラン、核合意一部撤回(余剰核燃料を国内貯蔵)
  • ロシア外相-イラン外相会談

5/9

  • 米国務相-ブラジル外相電話会談

5/10

  • 米中閣僚級通商協議、物別れに。

5/11

  • 米国務相、クレアモント研究所スピーチ

5/12

  • 河野外相-ロシア外相会談

5/13

  • 米国務相-英独仏外相会談予定(ロシア訪問短縮)
  • 河野外相-タイ外相会談
  • 河野外相-ASEAN事務総長会談

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この5月に入ってから、アメリカは対イラン・ベネズエラ・中国・ロシアと、立て続けに攻撃的外交を繰り返しています。

一方EUに対する政策は、EUをターゲットとした自動車関税措置こそ期間延長されましたが
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2019-05-17/PRNHNB6S972C01
『トランプ氏、日欧自動車関税発動を180日延期-USTRに交渉指示』
Bloomsburg紙 2019/05/17
(米政府高官からの発表は5/15ですが、この当時既に延期の推測はされていました)

  • EU中枢国ドイツ首脳との会談を中止
  • イギリス首脳会談はスケジュールを組み直し実施
  • EU懐疑派の代表であるV4諸国首脳が(その多くが前月末には一帯一路フォーラムに参加したにも関わらず)トランプ大統領との会談を行う 

など、明らかに5/23~/26の欧州議会選挙を目前に、EU加盟国のパワーバランスを懐疑派寄りに崩しかねない活動を繰り返していたのが判ると思います。


なお、EU懐疑派の代表であるV4諸国(ハンガリーポーランドチェコ・スロバキア)への交渉は、既に2019年2月のポンペオ外遊を皮切りに行われており
https://emerging-europe.com/intelligence/the-us-has-not-given-up-on-central-europe/
アメリカは中央ヨーロッパをあきらめていない』
Emerging Europe紙 2019/02/22

約2ヶ月後に行われた安倍首相V4諸国訪問は、丁度このポンペオ外遊の跡をなぞる形であり、また5月以降相次ぐV4首脳陣の訪米に先駆ける形で行われたものだった訳です。

https://spectator.sme.sk/c/22112974/trump-i-would-love-to-visit-slovakia.html
『トランプ:私はスロバキアを訪問したいと思います』
Slovakia Spectator紙 2019/05/04

https://www.voanews.com/a/trump-czech-prime-minister-babis-have-much-in-common/4818573.html
『トランプとチェコ首相は共通点が多い』
Voice of America紙 2019/05/08

https://edition-m.cnn.com/2019/05/13/politics/trump-hungary-viktor-orban/index.html?r=https%3A%2F%2Fwww.google.com%2F
『過去の大統領が避けたハンガリー最右翼のナショナリスト首相を、トランプは歓迎します』
CNN 2019/05/14


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……なお、このV4諸国首脳とトランプ大統領の会談については、ハンガリーと並ぶEU懐疑派のポーランドのみ後回しとなっています。


特にモラヴィエツキ首相の4/18訪米時、トランプ大統領はおろか会談に応じた閣僚がいなかった、というアメリカ側の冷淡な対応が話題となりました。

〉“トランプの人々はモラヴィエツキを避けます”
〉ニューヨークに加えて、Morawieckiはまたシカゴを訪問し、そこで彼は映画「ポーランド:王室ツアー」の初演に参加し、そこで彼は監督をピーターグリーンバーグに見せる。彼はアメリカ政権のいかなる代表とも会わなかった。

http://wyborcza.pl/7,75399,24682108,morawiecki-w-usa-zmiany-w-sadownictwie-jak-rozliczenie-z-francuskimi.html?disableRedirects=true
アメリカでのモラヴィエツキ首相:フランスの共同研究者との和解としての司法制度の変化』
Wyborcza.pl紙 2019/04/19


これには2019/02/13にポーランドで行われた中東和平会議の際、
https://www.google.com/amp/s/www.sankei.com/world/amp/190214/wor1902140007-a.html
『米主導の中東会議開催 イラン包囲網目指すも欧州と溝』
産経新聞 2019/02/14

あまり政治的でない理由により、主催国であるポーランドと、中東からの数少ない参加同盟国イスラエル間の関係が悪化、
https://www.google.com/amp/s/jp.mobile.reuters.com/article/amp/idJPKCN1Q800P
ポーランドイスラエルとの首脳会談中止 ホロコースト巡る発言で』
Reutet紙 2019/02/18

ポーランド政府の発表により、同月に予定されていたV4+イスラエルサミットが中止に至る程の状況となった事が
https://www.lidovky.cz/svet/summit-v4-v-jeruzaleme-se-rusi-kvuli-neucasti-polska-ktere-pobourily-vyroky-netanjahua-o-holokaust.A190218_121941_ln_zahranici_form

ホロコーストに関するネタニヤフの声明を憤慨したポーランド離脱のため、エルサレムのV4サミットは廃止』

Lidovky紙 2019/02/18

当時イスラエル側の肩を持ったポンペオ米国務相の発言を含めて、
https://www.timesofisrael.com/pompeo-in-poland-urges-the-country-to-pass-holocaust-restitution-legislation/
ワルシャワでは、ポンピオはポーランドホロコースト補償法を可決するように促します』

The Times of Israel紙 2019/02/14

アメリカとの距離感、更には一帯一路フォーラムにV4諸国で唯一不参加、という形で中国との距離感にまで影響したと見られます。


5/13に駐ポーランド大使モスバッハがツイッター
https://mobile.twitter.com/usambpoland/status/1127877931911589888
〉繰り返しますが、JUST法(447)は誰にも経済的または法的な負担をかけません。これは米国議会のための一回限りの報告であり、その目的は賠償の分野における諸国の活動の進展を分析することです。

と述べ、更にアンジェイ・ドゥダ大統領が訪米する6/12にトランプ大統領夫妻が会談に応じる旨、5/15に公表され(ドゥダ大統領の訪米は当初から予定されていましたが、会談については「交渉中」のままでした)、
いわば欧州議会選挙に向けたアメリカ側のバスに、ギリギリで乗り込んだ格好となりました。
https://pl.usembassy.gov/pl/komunikat_duda/


4/23の日本-ポーランド首脳会談には、このような不安定な立場にあるモラヴィエツキ首相の意向を探る意味が含まれていたでしょうし、この会談の冒頭でモラヴィエツキ首相から
https://www.mofa.go.jp/mofaj/erp/c_see/pl/page6_000296.html
〉前回お会いしてから期間をおかずに会えて嬉しい

という発言があったのも、この辺りの日本の真意を汲んだものだと思われます。


トランプ大統領が数多の反対に応じず、5/13にハンガリー首相との会談を行ったのは、このポーランドの事例と真逆の構図だったと考えられます。

〉“「公正でバランスの取れた立場でイスラエルに対応する場合、アメリカとハンガリーは同じ側にいるでしょう。EUは多くの問題に関してハンガリーの立場とは異なる立場をとっているが、ハンガリーは必要に応じて(EUとの)団結を破り拒否権を主張する用意がある」とオルバン首相は付け加えた”
https://thehungaryjournal.com/2019/05/15/szijjarto-trump-and-orban-share-similar-approaches-in-many-issues/
『Szijjarto:トランプとオルバンは多くの問題で同様のアプローチを共有しています』
Hungary Journal 2019/05/15

この会談でオルバン首相は、イスラエルとの国交について触れていましたが、恐らくはこのポーランドの轍は踏むまいと神経を尖らせていたからなのでしょう。


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7. 日米タッグ外交における日米の思惑


……外務省HPでも「状況が許す限り」という前提であった5/12のロシア、或いは発表当時はタイミングを疑問視されていた4/28のサウジアラビアとの外相会談の様に、この時期の日本・アメリカの外交は

何らかの理由で会談が難しい他国とのコンタクトを望む場合、比較的接点の多いもう片方の国が事前に当該他国との根回し交渉に臨んだり、
或いは両国首脳が立て続けに対象国と会談を行うような、アメリカとのタッグ外交の形をとる
ことが増えていました。


その流れから考えて、今回の首相欧州訪問国決定の決め手となったのは恐らく

2月にポンペオ国務相が打った布石を確認し、5月からのアメリカ訪問に対するV4諸国の警戒心を解き、
また、サルヴィーニ副首相を含め、V4諸国と並ぶ欧州議会選挙の重要ファクターであるイタリアの意向を確認する

という、アメリカ側からのオファーに応じたものだったのではないか、と考えられるのです。

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アメリカが情報・国防関連でV4諸国に露骨に接近する事に伴い、自らの行為で欧州議会のパワーバランスが崩れることを憂慮したのか、
或いはEUの自主性を削ぐべくV4諸国やイタリアなどEU懐疑派を積極的に懐柔するため、安倍首相に根回しを依頼したのか、その部分には言及しません。


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日本側としても、今回の訪欧はアメリカの要望に応じる形で恩を売り、G20への布石とする効果があるだけでなく、

『中国とアメリカ双方の間を行き交いながら、EUの秩序に対する挑戦を行う』イタリアやV4諸国に対して、
一帯一路フォーラム開催前後というタイミングに日米側の意志、それも「情報通信関連を除いた」中国との親交を不問とし、引き続きアメリカとの二国間会談はオープンであるという、政治力を含んだ会談をヨーロッパ方面に行いえる、貴重な機会となりました。


同時に欧州議会選挙で懐疑派の躍進を覆し得ないEU中枢に対しては、共同声明を通じてわずかながら選挙への追い風を提供しただけでなく
懐疑派諸国への事前訪問を行い、かつ彼らに国際協調についての前向きな表明を行わせた事により、
安倍首相こそEU中枢と懸念事項を共有出来ることを確信させたという形で、G20への根回しを成功させた訳です。

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なお、一連の文章の目次を作成いたしました。
https://tenttytt.hatenablog.com/entry/2019/05/23/194237
こちらのURLへお願いいたします。

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8. 蛇足: 5/13以降

さて蛇足ではありますが、今回の安倍首相の欧州外遊について、
5/13以降のイランを中心とする国際情勢の変化により、特にアメリカに対する貢献は無駄になってしまった疑いがあります。

5/13にポンペオ国務相が急遽モスクワ訪問予定をブリュッセル行きに変更、イラン対応についてEU中枢国外相などと会談を行って以降、
アメリカは欧州に対する活動への興味を失い、また日米タッグ外交は安倍首相外遊によるアメリカへの功績も含めて解消されてしまったようなのです。


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5/14

  • 米国務相-ロシア大統領・外相会談
  • イラン外相-インド外相会談

5/15

  • 米高官、輸入車関税増の中止について発言

5/16

  • 米国務相-香港民主化リーダー会談
  • 安倍首相-イラン外相電撃表敬
  • 河野外相-イラン外相電撃会談

5/17

  • 米商務省、ファーウェイを禁輸措置対象に
  • 安倍首相-中共政治局委員による表敬(当初は国家安全保安局長が対応予定)

5/18

  • アメリカ、対カナダ・メキシコ金属追加関税撤廃
  • イラン外相-中国外相会談

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G20大阪サミットの重点議題、データガバナンスと自由化の枠組み“大阪トラック”声明の成否は、ファーウェイへの禁輸措置の末、主導権をアメリカに握られてしまいました。
https://www.google.com/amp/s/jp.mobile.reuters.com/article/amp/idJPKCN1SL2VS
『中国ファーウェイ狙い撃ち、米政権が排除措置を相次ぎ発表』

Reuter紙 2019/05/15

※さらに5/19の報道ですが、5/27の日米首脳会談では現在『共同声明は行わない』予定とのこと。
https://www.google.com/amp/s/www.asahi.com/amp/articles/ASM5N36PVM5NUTFK008.html
『日米首脳会談、共同声明を見送り 貿易交渉の合意は困難』

朝日新聞 2019/05/20

貿易交渉や対北朝鮮政策の乖離が原因、との事ですが……時期的にはむしろ大阪トラックなどG20に向けた各共同声明を保留し、主導権を維持しようという意図があるのでしょう。


また中露に目を向けがちな各国に対してすら、アメリカがオープンであることを示す場であったV4首脳の訪米も、
https://www.theguardian.com/commentisfree/2019/may/16/trump-orban-democracy-us-hungary
『トランプとオルバンの連携は、非合法民主主義がアメリカに根城を置くことの現れ』

The Guardian紙 2019/05/16

特にハンガリー首相オルバンとの非民主的連携が報道にクローズアップされるばかりとなり、諸会談の露払いとなった日本の貢献も無視されています。


何よりこの外遊で得たであろう日本外交のプラス評価は、イラン外相の電撃来日の結果、原則論でしか対応出来ない無力さを指摘されかねない状況になりました。
https://www.mofa.go.jp/mofaj/press/release/press4_007411.html 外務省HP
(というよりなぜロシア・インドと来て、中国より先に日本に来たのか……?)


結局のところ首相欧州訪問は、イレギュラーな事態の末
短期的にはG20の、長期的には欧州議会選挙以降のヨーロッパ情勢への根回しまでは行い得たが、効果は欧州方面に留まり、アメリカに対しての根回し効果はあまり無かった模様。

寧ろG20ですら、自国のイニシアティブを維持しようと暴れる米中を宥めるため、従来国際協調を持ち出す立場だったEUの代わりに、矢面に立って主要議案を通す状況に持ち込まれてないか、と心配です。


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……当初は5/13のオルバン・トランプ会談をもって
今回の文章を締めようと思っていたのが、
国際情勢急転によりなかなか締められなくなりました。

本当であれば、欧州議会選挙やそこから始まり得る未来像や、日本の布石が今後どのように国際情勢に影響を与えるか、その辺も触れられればと思ったのですが、先週来の国際情勢には振り回されてばかりです。


まともに締められず、申し訳ありません。 (了)


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すみません。国際情勢はともかく、先週来自分が体調を崩してしまい、情報収集や文章をまとめるのもままならない状況で、尻切れトンボになってしまいました。

次の文章は、一月ほどお休みを頂きます。
体調のせいではありません。掘り終わったら戻ります。

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