首相欧州訪問と欧州議会選挙(4)

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『首相欧州訪問と欧州議会選挙(3)』

https://tenttytt.hatenablog.com/entry/2019/05/05/212511
の続きとなります。


なお、一連の文章の目次については
https://tenttytt.hatenablog.com/entry/2019/05/23/194237
こちらのURLへお願いいたします。


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4. サルヴィーニ副首相と欧州議会選挙

このイタリア副首相サルヴィーニですが、同じく副首相のディマイオ氏と並び、現政権ではコンテ首相以上の発言力を持っています。

コンテ政権は右翼ポピュリズム政党“Lega”と左派ポピュリズム政党“Movimento 5 stelle”とが、反EUという立場から連立した政権であり、
コンテ首相自身は実際このLegaのトップであるサルヴィーニと、Movimento 5 stelleのトップであるディマイオが共に指名した傀儡的人物に過ぎません。


そして今回の15分の会談(?)は、実は日本の閣僚として、イタリアの最高権力者サルヴィーニの“謁見”を初めて許された場だった訳です……


が、サルヴィーニ側の思惑はともかく、なぜ日本側というより安倍首相は、サルヴィーニとの会談に応じたのでしょうか。


表向き2国間の親密なパートナーシップを結ぶよりも、G20関連などの国際協調を謀る色彩が強かった今回の外遊については、実際のところコンテ首相との会談のみで十分だった筈です。

では何故わざわざ、今回サルヴィーニとの会談に応じたのか?
今月末(5/23~26)行われる、欧州議会選挙がその鍵になるのではないか、と思われます。

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この欧州議会選挙ですが、
http://eumag.jp/questions/f0419/
『2019年欧州議会選挙について教えて下さい』
ウェブマガジンEUMag 2019/04/09
こちらが解りやすいでしょう。


〉Q3. 今回の選挙の注目点はどこにありますか?

〉しかし、最も注目すべきは選挙結果です。1979年以来、中道右派キリスト教民主党系の「欧州人民党(EPP)」と、中道左派社会民主党系の「社会民主進歩同盟(S&D)」が2大政治会派を形成し、慣例として議長などの職務を2年半ずつ交替で務めてきました。(中略)

〉今回の選挙では、2つの政治会派を合わせても過半数に届かないのではないかと予想されています。(中略)

〉その原因は、多くの加盟国で総選挙や大統領選挙などで大衆迎合主義的なポピュリスト政党が躍進し、連立内閣に入閣したり、イタリアのようにポピュリスト2政党(「同盟」と「五つ星運動」)による連立内閣も誕生したりしているからです。すでに前回の2014年欧州議会選挙でも、フランス、英国、デンマークでポピュリスト政党が第一党となり、全体としても反緊縮政策、反外国人、反移民・難民、反イスラムなどを訴える欧州懐疑的な議員が約25%を占めました。

〉今回の選挙では、右翼にはフランスの「国民連合」(旧「国民戦線」)、イタリアの「同盟」、ドイツの「ドイツのための選択肢(AfD)」、オランダの「自由党(PVV)」、オーストリアの「自由党(EPÖ)」、左翼にはギリシャの「急進左派連合(SYRIZA)」、スペインの「ポデモス(私たちはできる)」、イタリアの「五つ星運動」など、ポピュリスト政党の大躍進が予想されています。

〉このため、欧州委員会委員長候補者の選出をはじめとするEUの主要ポストの人事やEUの諸政策について、政治会派の連立交渉がこれまでと比べてはるかに難しく、複雑になることが予想されています。


こう記されているように、サルヴィーニのLega(和訳だと「同盟」)など右翼、ディマイオのMovimento 5 stelle(「五つ星運動」)など左翼などのポヒュリスト政党……というより、EU懐疑派が今回の選挙では躍進すると考えられており、Euractivその他多くの分析では議員数の1/3を越えると見られています。
https://www.euractiv.com/section/eu-elections-2019/news/european-elections-a-divided-european-parliament-risking-paralysis/


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5. ハンガリー首相オルバン: EU懐疑派連合とV4(Visegrád)諸国


https://www.google.com/amp/s/www.businessinsider.jp/amp/post-185431
『フランスとイタリアが大戦以来の仲違い。EUの危機の背景を読み解く』
BusinessInsider 2019/02/19

〉ディマイオ副首相(兼経済発展相)らがマクロン仏政権に対する抗議デモ「黄色いベスト運動」の幹部と会合を持ち、支持を表明

〉サルヴィーニ副首相も1月、仏国民が「ひどい大統領から逃れられる」よう期待するなどと踏み込んだ批判を展開

https://www.reuters.com/article/us-europe-migrants-italy-germany/salvini-tells-germany-to-handle-migrant-boat-heading-for-italy-idUSKCN1RG2F8
『イタリアに向かう移民船を処理するよう、サルヴィーニがドイツに伝える』
ロイター 2019/04/05

〉サルヴィーニは、ドイツのチャリティーボートが地中海で救助し、イタリア沿岸に向かう64人の移民の責任を取るようベルリンに語った

〉「私はドイツの内務大臣に、(救助した)自称ドイツ船に介入し、この問題を解決するように依頼しました」とサルヴィーニはG7内務大臣サミットでパリの記者団に語った

二人のイタリア副首相が、EUの中心国フランス・ドイツとの対立姿勢を明らかにしていく中、
主にサルヴィーニ側の主導で行っていたのが、EU諸国の右翼ポヒュリスト政党に対する共闘の呼びかけでした。

サルヴィーニは右翼政党Legaの代表として、欧州議会での発言力を増すため、EU諸国の右翼政党との共闘を持ちかけているのです。

https://www.google.com/amp/s/www.sankei.com/world/amp/190110/wor1901100032-a.html
EU懐疑派、欧州議会選へ結集模索 伊内相、ポーランド実力者と協議』
産経新聞 2019/01/10

〉サルビーニ副首相兼内相が9日、ポーランドを訪問し、同国の保守系与党「法と正義」のカチンスキ党首と会談した。5月に行われるEUの欧州議会選挙に向けた連携について協議。EUに懐疑的なポピュリズム大衆迎合主義)勢力による会派や欧州の東西を超えた結集を目指す動きが本格化

〉サルビーニ氏は中道右派に属するハンガリーのオルバン首相にも接近。ドイツの新興右派、ドイツのための選択肢もサルビーニ氏との連携を排除していない

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20190426-00000089-jij-eurp&pos=2
『極右政党、欧州議会選へ気勢=プラハで集会、統一会派結成も』
時事通信 2019/04/26

〉移民排斥や反欧州連合EU)を掲げる欧州各国の極右政党党首が25日、プラハで合同集会を開き、5月の欧州議会選に向けて「新たな欧州の調和を実現する時だ(フランスの国民連合=RN=のルペン党首)」などと気勢を上げた。

〉集会は、日系チェコ人のトミオ・オカムラ氏が率いる同国の政党「自由と直接民主主義」が主催。このほかオランダのウィルダース自由党党首が参加し、「EUはわれわれのアイデンティティーを破壊する怪物だ」と訴えた。イタリアの「同盟」を率いるサルビーニ副首相もビデオメッセージを寄せた。


……そしてこのEU懐疑派がEUの主導権を握るための核となる、いわゆるポヒュリスト政党が国政を握っている国家こそ、今回安倍首相が会談を行ったイタリア及びハンガリーポーランドチェコ・スロバキアで構成されるV4(Visegrád)諸国だった訳です。

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※ところで、これらV4やイタリアの与党をまとめて「ポピュリスト」と呼ぶ場合、特に財政政策面で混乱してしまうかも知れません。

イタリアのように、放漫財政政策を通じて国民の人気を得ようとする場合もあれば、
ハンガリーのように財政健全策(所得・消費増税等)を行うはけ口として、移民排斥や自国産業保護などのポピュリスト政策を利用する場合もあるのです。

https://www.scgr.co.jp/report/survey/2017083127864/
ハンガリー経済の現状と課題』
住友商事グローバルリサーチ 2017/08/31

幾つかの報道の流れから、彼らを一括りにする際に「ポヒュリスト」の語を使うかもしれませんが、
今回の文章では単に「極右政党以外も含むEU懐疑派」を言い換えただけ、と思う方が良いかもしれません。


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https://www.theguardian.com/world/ng-interactive/2018/nov/20/how-populism-emerged-as-electoral-force-in-europe
ポピュリズムは欧州で如何に選挙力として出現したか』
Guardian紙 2018/11/20

〉最大の進歩は中央および東ヨーロッパで行われました。ハンガリー・オルバン大統領のFidesz(今年の選挙で投票の63%を獲得した)とポーランドヤロスワフ・カチンスキ元首相率いるPiS(注:モラヴィエツキ首相の所属政党)を含む、いわゆるV4すべてが、ポピュリズム政党によって守られている。

この記事にあるように、ハンガリーFidesz、ポーランドPiS、チェコのAno2011及びスロバキアSmer-SDと、V4諸国全てがポヒュリスト政党を与党とし、彼らの政党から首相が選出されています。

そしてV4諸国(ハンガリーポーランドチェコ・スロバキア)の中でも、移民問題のみならず自国の独自政策の末にEUから最も重い処分を提案されたハンガリーポーランドは、特にイタリアと同調し欧州議会選挙でのEU懐疑派による共闘へと向かっているのです。

https://www.google.com/amp/s/www.sankei.com/world/amp/180925/wor1809250027-a.html
『EU、ポーランド提訴、ハンガリーにも制裁手続き』
産経新聞 2018/09/25

欧州連合(EU)の欧州委員会は24日、ポーランドが施行した最高裁判所に関する新法について、司法の独立を侵害するとしてEU司法裁判所に提訴することを決めた。EUは今月、EUの基本理念に違反したとしてハンガリーへの制裁手続きにも動き出した。東欧2カ国の現政権による強権政治が大きな懸念となる中、相次ぐ措置で是正への圧力を高める狙いだ


※なお、ポーランドハンガリーに対して提案された、議決権停止というEU最高レベルの制裁となる“EU基本条約第7条”とその手続については、
https://www.bbc.com/news/world-45485994 
EUハンガリーにどのような制裁を与えうるか』
BBC 2018/09/12
こちらが解りやすいかと思います。


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……ここまでで、今回安倍首相が訪問したフランス(こちらはEU懐疑派と対立する側ですが)及びEU懐疑派のイタリア及びV4諸国の背景と、
今回の時期が丁度欧州議会選挙の選挙活動期直前に当たり、EU懐疑派国家の動向を探るのに適していたことを記しました。

では安倍首相が、その後の米国・カナダを含めて『他国よりも上記国家を優先して訪問した理由』は何でしょうか。

4/25~/26には一帯一路フォーラム、
4/30には即位改元に伴う諸行事があり、
更に5~6月には閣僚会合を含めたG20サミット、
8月にはTICAD7(アフリカ開発会議)が開かれます。

これら重大な事項をさしおいて、
つい数ヶ月に会談を行ったばかりのフランス・イタリア・V4諸国に、それも一帯一路フォーラム参加閣僚のスケジュールの間隙を突くタイトな訪問を行わなければならないほど、欧州議会選挙のパワーバランスに配慮した理由は何なのでしょうか。

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次回、
『首相欧州訪問と欧州議会選挙(5)』
https://tenttytt.hatenablog.com/entry/2019/05/20/194214
に続きます。