UNRWA中立性の最終報告書(2024/04/22):報道の傾向と実際の内容について(05/03修正)

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2024/05/03修正:各国報道について確認しやすいよう、参照リンクを追加しました。

 

ぶっちゃけ「04/25の調査団記者会見まで『中立性調査とUNRWA職員の襲撃関与の調査は別物』だと伝えられなかった」とか「日本のメディアは報じない」とかいう馬鹿馬鹿しい話に騙されず、少なくとも読者ご自身に考えて頂きたいからです。

gendai.media

 

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ご無沙汰しております。

文章書けない病を完全にこじらせ、遂にはてなブログの書き込み画面を見る事すら拒否感に苛まれるようになりはや一年以上。今はただブログに残した宿題だけでも済ませようと遅々とした作業を続けています。

 

そのような日々の中で気になった、というより関連文章を書かねばいけない、と感じたニュースがあります。

www.sankei.com

 

 昨年10月のイスラエル奇襲にUNRWAスタッフが関与した疑惑 - 産経新聞2024/01/29に際し、この状況を鑑み国連によりUNRWAの中立性や活動の妥当性 -同紙2024/02/06、また関与の事実に関する調査グループがそれぞれ設置されました。

そしてこのうち「中立性・妥当性に関する調査報告のみ」03/20に中間報告書が作成(非公開)、04/22国連HPにて最終報告書が公開された訳です。

 

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さて、この最終報告書の公開に際して国内外のほぼすべてのメディアで採用された表題は

www.tokyo-np.co.jp

のような「UNRWAによるハマスの関与は証拠がない」「UNRWAの中立性は凡そ十分」「人道的ライフラインとしてUNRWAの存在は不可欠」といったものでした。

その後各紙でも表題や記事の差し替えが行われたらしく、現在この最終報告書がらみの検索を行うと上記産経記事やFNNプライムオンライン毎日新聞など

UNRWA運営学校の教科書内容の問題

・一部施設の軍事・政治的使用

職員組合の政治化

といった中立性の問題点を指摘し直す記事が上位となっているようです。自分が確認した限り、これらの点を意外にも国内報道がきちんと「問題点である」と伝え直しています。どちらかと言えばロイター(2024/04/22)ワシントンポスト(同日)など海外報道の方が、最終報告書の内容に触れてもそれを塗りつぶすように「中立性は確保されている」一辺倒でしたね。

なおガーディアンに至っては最終報告書発表の一時間以上前から、下記の記事を掲載していました(内容は差し替えた可能性はありますが、少なくとも表題や記事のアドレスは当時と同じです)。

www.theguardian.com

 

 

この当初の混乱については、おそらく国連HPにおける要約の影響ではないかと思われます。

news.un.org

>独立委員会は月曜日、国連パレスチナ難民救済機関(UNRWA)に関する待望の報告書を発表し、50の勧告を提示し、イスラエル当局は国連職員がテロ組織に関与しているという主張の証拠をまだ提出していないと指摘した

最終報告書のPDFが添付された記事内容の、冒頭がこれです。実際にはこの記事の末尾にも

>同時に国連の最高監視機関である内部監視局(OIOS)に、12人のUNRWA職員に対するイスラエルの主張の信憑性を調査するよう命じました。

>OIOSの調査員は当初関係加盟国に連絡を取り、ヨルダンのUNRWA本部を訪問、イスラエル当局やメディアやその他の公的機関を通じて発表されたものを含むさまざまな情報源からUNRWAが受け取った最初の情報を確認しました。

>その調査は現在も進行中です。

と記しています。UNRWA職員とハマスの関係調査が別物であるにもかかわらず、あたかも冤罪の疑いが濃厚となったような要約記事を記しているのです。もちろんこれは2024/03/04にイスラエル当局から指摘されたUNRWA職員450名強のハマス関与- ロイターに関するものです。今回の文章の冒頭で示した通り、昨年10月の襲撃関与疑惑については未だ調査中です。

しかし多くの報道機関は国連の要約に準拠する形で、この部分をぼかし逆に「(ハマスUNRWAの関係全体に)イスラエルによる証拠提示無し」と読めるよう報道していました。

 

また国連の要約では教科書問題についても、最終報告書の改善事項でわざわざ

反ユダヤ主義的見解を広め差別を助長し憎悪と暴力を扇動する教科書は、国連の価値観やユネスコの基準に反しています。 たとえわずかであってもこれは中立性に対する重大な違反となります。 ガザとヨルダン川西岸におけるパレスチナ自治政府の教科書であろうとも、これらの教科書がUNRWAまたはUNRWAの資金提供を受けた学校で使用される場合、UNRWAの責任が免除されるわけではない。 UNRWAはこの問題に関してゼロトレランス政策を実施する必要があります。(P41)

とし重要な問題点として指摘しているにもかかわらずこれを軽視、また職員の政治的行動が確認された点などについては一つも触れられていません。

このような国連HPの要約や03/20に作成された中間報告書の概要:- 読売新聞2024/03/21を鑑み、当初各国報道でもこのような問題点には軽く触れるに留め、ただただ国連側の意図に沿うような記事が掲載されたのではないでしょうか。

 

……まあ、いくつかの国内報道機関では既に当初報道から軌道修正する動きがみられました。現在自分は確認しておりませんが、海外でも今後そのような流れが出てくるのかも知れません。

 

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なお今回の最終報告書を読む限り、「報道が触れてないなぁ(でも後述の通り個人的には興味ないなぁ)……」と感じた点は二つ。

 

一つ目はイスラエルが指摘する、ハマスUNRWAの関係性について記した文節の全体像です。

報道記事では「イスラエルが証拠を提示していない」あるいは「2011年以来UNRWA職員のリストを共有していたにも拘らず、職員に対する懸念を示していない」などの点がクローズアップされています。しかし意図的な抜粋を避け、(少々長いですが)当該意見が記載されたP20~22、"Screening and vetting"の項全体を読むと印象が少し変わるのではないでしょうか。

スクリーニングと審査

UNRWA は、雇用前および雇用中にスタッフと職員を検査するための検査システムを導入しています。


雇用前:
• 標準的な審査質問が採用プラットフォームに設けられており、すべての応募者は刑事犯罪、国際人権または国際人道法の違反、懲戒措置または行政措置、または職場の懲戒プロセスや調査に関連する自己申告と詳細の提供が求められます。 
UNRWA は契約の種類に関係なく、すべての潜在的な新入社員の名前を国連制裁リストを含む国連システムのデータベースである Clear-Check と照合して検査します。
UNRWA地方自治体との調査を実施します。 地域スタッフは地元当局からの無罪判決通知書の要請を通じて犯罪歴の有無を検査され、無実の犯罪歴またはホスト国政府のセキュリティ許可を確認します。


雇用中および雇用後:
• ガザとヨルダン川西岸では、職員への支払いはすべてパレスチナ銀行を通じて処理されます。パレスチナ銀行は EU 制裁リストに照らして精査し、パレスチナ通貨管理局が管理する銀行規制の枠組みの対象となります。
UNRWA は、金銭補償を受けている現役職員および最近離別した職員全員を年 2 回の審査で国連制裁リストに照らして検査します。 審査プロセスを改善するために2023 年にはデジタルLexisNexis Risk Solutionsシステムを導入し、リストとの名前の正確な照合を容易にしました。注目すべきことに、UNRWA安全保障理事会委員会によって確立され維持されている新しい統合リストを使用して名前を審査しています。 しかしこれまでのところ、例えばハマスイスラム聖戦は国連安全保障理事会のこのリストに含まれていません。


UNRWAは毎年職員リスト(名前と職務)を受入国(レバノン、ヨルダン、シリア)と共有し、東エルサレム、ガザ、ヨルダン川西岸についてはイスラエル及び米国と共有しています。国連職員に関する情報を受入国と共有することは、免疫と特権に関する条約に従って定期的に行われています。 したがって、職員が外交特権に値しないとみなされる可能性のある情報を UNRWA に警告するのはこれらの国の責任です。 注目すべきことに、イスラエル政府は2011年以来これらのリストに基づく職員に関するいかなる懸念もUNRWAに通知していません。


イスラエル当局者らとの会談で、イスラエルは職員リストの共有を審査や精査のプロセスとしてではなく、国連職員や外交職員の特権と免除を確保するための登録の標準的な手続きとして考えていることが伝えられました。


イスラエル外務省は、2024年3月までは識別(ID)番号のない職員リストを受け取っていたと発表しています。 職員ID番号が記載された2024年3月のリストに基づいて、イスラエルはかなりの数のUNRWA職員がテロ組織のメンバーであると公的に主張しました。 しかしイスラエルはこれを裏付ける証拠をまだ提供していません。


UNRWA のすべての受益者、請負業者、ベンダー、非国家寄付者、または UNRWA に関連するその他の個人や組織は、国連および世界銀行の制裁リストを使用して UNRWA によって毎年検査されます。 この演習は約 800 万件のレコードに関係します。 現在までに一致した記録はありません。 UNRWA はまた、国連制裁リストに対する審査プロセスの監査部門からの勧告も受け取ります。


UNRWAに所属するスタッフやその他の個人や組織を検査し精査する一連の包括的な措置にもかかわらず、これらの措置では十分な検証ができていません。 国連の制裁リストは少数の個人に限定されており、UNRWA は効率的かつ包括的な調査を行うための諜報機関の支援が不足しています。

 

……実のところUNRWAでは職員のスクリーニングに国連自らの制裁リストを中心に使用し、それ以上の精査の責任をイスラエル等他国に投げていました。また共有すべき職員リストも先月2024年3月まで彼らにはID番号の欠落したものを提出し続け、この姿勢は最終報告書でも改善点として指摘されております。

証拠の存在や信頼性は別にして、その未提出をもって一方的にイスラエルを非難する行為は少々疑問が生じるところでしょう。

 

特に国連制裁リストに頼ったスクリーニングについては、日本でも公安調査庁のまとめる『国際テロリズム要覧』の参照リストをEUアメリカ準拠のものから国連準拠に変更した結果、ハマス等重要な組織がリストから除外されていた問題は記憶に新しいかと。

www.nikkei.com

日本では数か月で法務大臣が謝罪する事態に追い込まれた件が、UNRWAでは問題発生まで長年継続され最終報告書でも逆に「職員リストの精査はイスラエルの責任」と見なされている奇妙な状況となっている訳です。UNRWAは条約を盾としていますが、国連機関として守るべきは自分自身の正当性よりも自らの中立性を律する国連憲章の原則ですよね。

 

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二つ目はこの疑惑の最中、UNRWAが他機関に活動を委託しなかった理由です。

 

ハマス関与の疑惑以降も、UNRWAや国連はその唯一無二性を主張し活動を継続し続けました。しかし本来紛争下の国連機関においては、中立性に疑問詞が付いた時点で活動は停止させた上で国連のスクリーニングに応じ、その間他機関への委託を図るべきでしょう。

国連原則以前に、UNRWAの活動継続は彼らを中立と見做さないイスラエル側からの危機を誘発するだけだからです。代替不可能な人道的ライフライン、という説明でこのリスクを無視するのは本来不可能ですし、実際に事件は発生しました - CNN.2024/03/14

 

この疑問、というよりUNRWA機能まで代替可能なパートナーシップを構築しなかった理由について、最終報告書では以下指摘されています。

>(前略)パートナーシップは UNRWA にとってデリケートな問題です。 一部の利害関係者は、UNRWA の活動への他の組織の実質的な関与はUNRWA の使命を弱める試みであると見ています。 そのため2022年の事務局長のパートナーシップ構想-UNRWA2022/06/14は、パートナーシップをUNRWA解体の始まりとみなした受入国政府や職員団体からの反発により断念された(P34)

一時的な活動中断や他機関による代替が困難なのではなく、UNRWAは一部ステークスホルダーによる代替妨害に忖度していた訳です。この事実はパートナー不足に伴う人材面・財力面の問題よりも、一部ステークスホルダーに翻弄されるUNRWAの中立性の方にこそ影を投げかけるべき問題ではなかったのでしょうか?

 

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……でも、これらの点は個人的にはどうでも良いのです。病に苛まれた末、実のところ現在の国際情勢や政治への興味は無くなってしまいました。今の関心はただ自分がブログで書き残した過去の話、安倍政権時代の外交と国際情勢に関する事だけです。

 

そしてそれ故に、私が文章を記さねばと感じるほどに注目したのは最終報告書のこの一行でした。

”Several staff invoked their right to freedom of expression.”

>数名の職員は表現の自由の権利を主張しました(P15)

 

UNRWAを含む国連職員は個人的信念やオンオフを問わず、国連の原則たる中立性を貫く義務があります。

上記職員が示したのは特定勢力への肩入れのような「非」中立な立場ではありません。

個人的信念の発露の権利は中立性の義務を上回るもの、という「反」中立の立場を示しており、恐らくは「中立性調査の場なのにどうしてそんな立場表明なんかしちゃったの?」というある種のずる賢さすら教えられていなかった、という事です。

 

UNRWAにはある時期、このような考え方が入り込むための重要なイベントが発生していました。またその時期初めて、それまでの陰謀論とは一線を画する疑惑がUNRWAで発生しています。

もし次回があるとしたら……、この二つの点とこのイベントの発生源について触れようと考えています。

 

そしてこの部分の追及は私の最後の宿題、巷間で全く語られずに終わった安倍外交の性格と国際思想上の対立者の存在を浮かび上がらせるピースの一つになるのではないか、と思うのです。

 

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とりあえず今回の文章で記したいのはあくまでUNRWAと国連、また国内外報道機関の件のみです。今後の文章でUNRWAや国連の背景について触れるつもりですが、少なくともイスラエルパレスチナの行動の正当性、またはUNRWAに対する資金供出再開の是非に触れるつもりはありません。ご了承願います。