スーダンクーデターおまけ:ポート・スーダン閉鎖勢力

2021/10/27追加・修正

見出し及びポート・スーダンに関する基礎情報を中心に、文章を追加しました。

 

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はじめに

前回の文章で、AL-MONITOR紙やAL-JAGEERAの記事を引用して

東部地方政権による軍民共同政権への反感がスーダン東部の主要港閉鎖と国内全体の物資欠乏を引き起こしている

とあっさり記したのですが、文章作成後この件について続報を見つけてしまいました。

 

news.trust.org

"Sudan's Beja tribes plan to end shutdowns which have curtailed the fuel supply of the country, Al-Hadath TV channel reported on Monday"

>スーダンのベジャ族は、国の燃料供給を抑制したシャットダウンを終了する計画であると、アル・ハダーステレビチャンネルが月曜日に報告しました

……ブルハン氏率いるクーデター軍に反対する立場の者が多い中、スーダン東部の主要港ポート・スーダンを閉鎖し軍民並立政権に抗議していたBeja族が、早々にクーデター軍に賛同する姿勢を示していたのです。

 

という事で、このベジャ(ベジャ・ナジール)について少々。

 

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1. ベジャ・ナジールとポート・スーダン港閉鎖

ポート・スーダン港は下の時事通信の画像でも分かるように、紅海に面するスーダンの海洋物流の殆どを担う重要港になるだけでなく、2011年にスーダンから独立した内陸国南スーダンの石油輸出の窓口ともなっています。

スーダン領油田の8割以上を占めた南スーダンはこの港から他国に原油を輸出し、スーダンは港湾使用料を得る形で、貧しい両国にとってポート・スーダンは経済の生命線に当ります。

 

スーダン東部のベジャ・ナジールはこのポート・スーダン及び近隣の港を封鎖することでハムドク政権に経済的ダメージを与え、また軍部ブルハン側のクーデターに利する形で封鎖を解除した訳です。

 

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2021/09/21、時事通信等で

www.jiji.com

>ポートスーダンが、昨年10月の和平合意に抗議するデモ隊によって封鎖

>スーダン現政権は、西部や南部の反政府勢力と和平合意を締結した。しかし、ポートスーダンがある東部に暮らすベジャ人を無視していると批判が高まっていた

 

とあっさり伝えられていた話ですが、この話を紐解くと

www.dabangasudan.org

’The High Council of Beja Nazirs has organised civil disobedience actions by blocking key highways linking Red Sea state with Kassala and El Gedaref, suspending bank transfers, and closing several ports and duty-free markets.

Their most prominent demands are to cancel the Eastern Sudan Track of the 2020 Juba Peace Agreement and the adoption of a new negotiating platform for eastern Sudan. The high council also demands the formation of a government of technocrats. “We demand a competent government as the current partisan government is too slow in responding to our demands,” Beja Nazirs Council spokesman Abdallah Obshar told Radio Dabanga.

Beja nazirs have opposed the Eastern Sudan Track since it was agreed upon by the Sudanese government and the Sudan Revolutionary Front rebel alliance in Juba in February 2020.

Some eastern Sudanese community leaders and activists disagree with the Beja nazirs’ approach.’

>ベジャ・ナジール高等評議会は紅海とカッサラとエル・ゲダレフを結ぶ主要幹線道路を封鎖、銀行振込を停止し、いくつかの港湾と免税市場を閉鎖することで市民の不服従行動を組織した。

>彼らの最も顕著な要求は2020年のジュバ和平合意の東スーダントラックをキャンセルし、スーダン東部のための新しい交渉プラットフォームを採用することです。高等評議会はまたテクノクラートの政府の形成を要求します。「我々は、現在の党派政府が我々の要求に応じるのが遅すぎるので、有能な政府を要求する」とベジャ・ナジーズ評議会のスポークスマン、アブダラ・オブシャーはラジオ・ダバンガに語った。

>ベジャ・ナジールは、2020年2月にジュバでスーダン政府とスーダン革命戦線の反乱同盟によって合意されて以来、東スーダン・トラックに反対してきた。

スーダン東部のコミュニティリーダーや活動家の中には、ベジャ・ナジールのアプローチに反対する人もいます

 

……2020年2月東スーダン側から野党勢力が出席する形で締結された和平合意に対し、付随議定書を含めた撤廃をスーダン東部多数党派ベジャ・ナジール評議会が求めた事が発端であり、抗議の一環として今年9月より行ったのがポート・スーダン港の遮断だったとのことです。

更にベジャ・ナジールはこの交渉時点で当時の政府(軍側ではなくハムドク政権側)への反感を示し、寧ろブルハン氏率いる軍寄りの態度を示していたようです。

 

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※なお同紙は別の記事にて付随議定書「東スーダントラックプロトコル」について

東スーダントラックはアバブダ族の指導者オサマ・サイド、野党のベジャ議会の議長、ベニー・アメルの指導者ハリド・シャウィーシュ、正義のための人気戦線の代表によって交渉、署名されました。ベジャ・ナジール高等評議会と独立首長国は協議に関与していません。これまでのところ彼らは特に反対しているものを明らかにしていません。彼らは東スーダン・トラック全体の中止を要求し、地域の将来を決定するために包括的な東スーダン会議を求めてます

と注釈を加えています。

ちなみにこの記事の冒頭の画像はベジャ・ナジールの封鎖行動ではなく、ベジャ・ナジールに対する反対運動の画像だそうです。ベジャ・ナジールによるパイプライン等の封鎖は数十人規模の集団で行われていたとの記事もあります。誤解なきよう。

 

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なおこのベジャ・ナジールの動きについては当時からスーダン政府側も警戒しており、

www.dabangasudan.org

'Prime Minister Abdallah Hamdok said that "what happened is an orchestrated coup by factions inside and outside the armed forces and this is an extension of the attempts by remnants since the fall of the former regime to abort the civilian democratic transition". 

He further said that the attempted coup was "preceded by extensive preparations represented by lawlessness in the cities and the exploitation of the situation in the east of the country, attempts to close national roads and ports and block oil production".'

>アブダラ・ハムドク首相によると「起こったのは軍隊内外の派閥による組織的クーデターであり、これは民間の民主的移行を中止する旧政権の崩壊以来の残党の試みの延長である」

>彼はさらにクーデターの試みについて「都市の無法や国の東部の状況の搾取、国道や港湾の閉鎖、石油生産をブロックしようとする試みに代表される広範な準備がすでに行われている」と述べた。

2021年9月の旧政権シンパのクーデターへの関与を怪しむ発言もされていました。

またスーダン貿易省によると隣国との陸上交易により……コストは嵩むもののポート・スーダンの代替手段を構築し、港湾を占拠する勢力に対抗する話も出ていたようです。

 

……とはいえ、ポート・スーダンを閉鎖しスーダン政府に圧力を加えたベジャ・ナジールが、実際にクーデターに関与していたかは分かりません。

そもそも2006年の東スーダン和平合意(Eastern Sudan Peace Agreement)まで、前オマル・バシル政権にも対抗していた訳ですし……

 

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2. 中露とポート・スーダンの関係記事抜粋

分からないついでに、軍事クーデターで顔を出すあの国とポート・スーダンの関係を調べると……やはり。

 

www.nikkei.com

>同国政府は11日、アフリカ北東部に位置するスーダンとの間で、紅海に面した同国の港にロシア海軍の補給拠点を設ける協定を結ぶ方針を明らかにした

 

www.russia-briefing.com

”North African base will provide military support for BRI shipping along the Red Sea to the Indian Ocean ”

”China is a major client state of Sudan, purchasing about US$1.8 billion of mainly energy products from Sudan, and exporting about US$740 million of mainly consumer goods back to the country. Russia is the second largest client states after China, purchasing some US$1.6 billion of oil related products from the country”

>北アフリカの基地は、インド洋への紅海に沿って一帯一路のための軍事支援を提供します

>中国はスーダンの主要な顧客国家であり、主にエネルギー製品の約18億米ドルをスーダンから購入し、主に消費財の約7億4000万米ドルを同国に輸出している。ロシアは中国に次いで2番目に大きな顧客国であり、同国から約16億米ドルの石油関連製品を購入している

 

www.aninews.in

"But now, Sudan's Prime Minister called out the dubious role of Chinese entities in the oil sector by seeking a review of all agreements signed with China in the past"

>しかし今、スーダンの首相は過去に中国と締結したすべての協定の見直しを求めることにより、石油部門における中国の実体の疑わしい役割を呼びかけました

 

……いや勿論、スーダン政権に圧力を加えたポート・スーダン占拠勢力の背後にあの国が居るなんて証拠はありませんし、今夏あたりを起点に中露に対するスーダン・ハムドク政権の視点が中露依存から疑問視に向いていた、という考え方もあくまで推論でしかありませんが。

 

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3. ダルフール……はあまり関係ないでしょうね。

最後に、いくつかのブログを漁っていた際に出てきたのが「スーダンと言えばダルフール」という一節だったので、この部分も少々。

 

確かにバジャの勢力は伝統的に他の地方勢力と結びつき、時の政権に圧力を加えようとする性向はあるようですが、

sudantribune.com

ダルフール地方については

www.dabangasudan.org

‘El Burhan once said that he is the Lord of the people of Darfur and authorised to kill them when, as, and how he wants ’ – displaced leader Sheikh Matar Younis

'エル・ブルハンはかつて、彼がダルフールの人々の主であると言い、彼が望むとき、そしてどのように彼らを殺す権限を与えました' - 避難民の指導者シェイク・マタール・ユーニス

暫定連立政権樹立に際し、ブルハン氏こそかつての虐殺指導者であると訴えた経緯があります。たとえ最近に至り政権自体への歩み寄りは示したとはいえ軍によるクーデターを支持する可能性は少ないと思われます。