……いい加減スーダンの話は切り上げるつもりだったのですが、表題の件について少々。
今回のクーデターに関する背景として、以前の文章ではスーダン東部の動向やイスラム法の否定などについては提示しましたが、他の記事やブログが掲載したようなインフレによる政情不安は背景に入れておりませんでした。これには理由があります。
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1. インフレ状態にあるのは確かでしょうが……
……一応スーダンのインフレ率についてはこちらの5ヶ年データが分かりやすいでしょう。
食料品等の高騰を引き金に前バシル政権が崩壊した2019年よりも、2020年以降の方が極端なインフレに突入していることが分かります。これは通貨の問題もあるでしょうし、慢性化した原油不足| Radio Dabanga、更にはIMFによるスーダン政府への緊縮財政指導から生まれた補助金削減政策も関わっているようです。
当然ながら食料品についても高騰しており、国連世界食糧計画が定める一日分の食料(LFG)調達価格も下記1ページ目のグラフを見れば1年で3倍程度跳ね上がっている(2021/2020 8月比較)のが分かると思います。
https://docs.wfp.org/api/documents/WFP-0000131933/download/
……まあ労働賃金(Casual Labour Daily Wage)も跳ね上がっているのですが、失業率なども併せて考えなければ国民の実際の懐具合は分かりません。
まあ数字としてはスーダンの治安上の背景にはなるのでしょうか。
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2. 政治の中枢機関によるクーデターの背景にはならんでしょ?
しかしこれは理屈の問題なのですが、物価高騰による治安上の問題があったとして、それをそのまま今回のクーデターの背景に組み込んではいけないだろう、と考えられるのです。
前回のクーデターについては
>去年(注・2018年)12月、補助金のカットで、パンの値段が3倍に跳ね上がって、人々の怒りが爆発し、バシール大統領の辞任を求める大規模な抗議デモが3か月以上続きました。そして、先週木曜日、国防相など軍の幹部らが、バシール大統領の身柄を拘束し、今後2年間、暫定的に統治すると宣言した
という流れがあります。実際にクーデターを起こしたのが当時の国防相であったとしても、最初に政府に対する国民の辞任要求デモ-AFPBB Newsがあるからこそデモの引き金である物価高騰が背景となりえた訳です。
しかし今回はそうではなく、既に権力の中枢にあるブルハン氏らによるほぼ単独のクーデターです。
ブルハン氏らがハムドク政権に対してインフレ政策を非難する人物とみなされたり、また便乗し得るような現首脳陣の辞任まで求める大規模デモを国民が引き起こした、などという報道は見当たらないのです。
そしてそれは前述の石油不足、あるいは燃料補助金の廃止が引き起こしたデモや便乗した犯罪-AlTaghyeerにおいても同様です。矛先が現政権に向かってすらいないのです。
この状況で「インフレがクーデターの背景」だと、私には記すことは出来ませんでした。
……まあネットでざっと調べた限りですから、現地のジャーナリスト達を論駁出来るほどの根拠はありませんけどね。