補論:DFFTに関する協力のための 2021年G7ロードマップ(附属書2)拙訳

前回から話が飛んですみません。2021/04/28~/29、G7デジタル技術大臣会合が行われたので、今後文章作成予定のG7外相会合やサイバー司法に関わる件として少しだけ触れておこうと……本論の前の補論という形で申し訳ありません。

 

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G7デジタル・技術大臣会合がテレビ会議形式で上記期間開催され、総務省から武田大臣、経済産業省からは佐藤政務官参加しました /経済産業省HP。

www.soumu.go.jp

この会合の結果閣僚宣言および4つの附属書が採択されましたが、この附属書2において安倍前首相が提案して以降日本のデジタル外交政策の看板となったデータフリーフローウィズトラスト、いわゆるDFFTを進展させるためのロードマップが初めて提示されました。(現在日本政府が提唱しているDFFTについてはhttps://www.mofa.go.jp/mofaj/files/100167362.pdfこちらをご参照ください)

 

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データフリーフローウィズトラストに関する協力のための G7 ロードマップ


国境を越えてデータを流通させることは、経済成長とイノベーションにとって不可欠である。COVID-19 により、信頼性のある自由なデータ流通の必要性及び世界的な復興における役割が明確になった。

我々は、プライバシーやデータ保護、知的財産権、安全性に係る課題に引き続き対処しつつ、我々の経済や社会においてデータが持つ力を引き出すことの重要性を認識する。

我々は、データガバナンスに対する多様なアプローチを認識しつつ、有益なデータ駆動型技術が持つ潜在力を引き出し、経済と社会に利益をもたらすための国際協力を促進し、個人情報を適切に保護するために協力することが極めて重要だと確信する。

2019 年の G20 大阪首脳宣言及び G20 貿易・デジタル経済大臣会合閣僚声明、2020 年の G20リヤド首脳宣言を踏まえ、我々は、志を同じくする、民主主義的で開かれた外向的な国として共有する価値に基づき、信頼性のある自由なデータ流通による利益を実現する取組を支持する。

このことを実現するため、我々は、このアジェンダに関する具体的な進展をもたらし、企業や個人が技術を利用する際の信頼性を高め、経済的・社会的価値を高めるための方法を示した「データフリーフローウィズトラストに関する協力のための G7 ロードマップ」(附属書2)を承認する。本ロードマップの一環として、我々は、合意した優先分野における相互に受入可能なデータ共有プラクティスの発展を加速化していく。また、データローカライゼーションによる経済・社会的影響を立証する。さらに、OECD による「越境データ移転に対する規制アプローチの共通項マッピング」や、信頼性のある「民間セクター保有の個人情報に対するガバメントアクセス」に係る取組の進展を支持する(以上、総務省HPによる閣僚宣言邦訳)

 

平たく言えば、2021年度中に

  1. データローカライゼーション(DFFTの立場とは逆に人権・産業保護、国家安全保障の観点などの理由から個人情報や国家にとって重要なデータを国家・領域内にとどめる事https://www.meti.go.jp/policy/trade_policy/wto/3_dispute_settlement/32_wto_rules_and_compliance_report/322_past_columns/2018/2018-5.pdf)がもたらしている影響分析
  2. 国境を超えるデータ流通に対し各国に残置する規制について、共通項をもとに最適解の調整アプローチを検討する
  3. 政府による民間企業へのデータアクセスに対する合理性を検討
  4. ヘルスケアを皮切りにデータ流通開発の優先分野を検討

の4つについてG7及びOECDの枠組みを中核として協力・検討するロードマップを作製したということです。

 

……なお、附属書2の概要については閣僚宣言で邦訳されていますが、残念ながら附属書自体の邦訳は5/7現在まだ掲載されていませんでした。とりあえず下記、Googleベースで恐縮ですが拙訳を作成いたしましたので、ご興味があればご覧ください。

 

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2019年G20大阪首脳宣言、2019年G20貿易・デジタル経済大臣声明、2020年G20首脳リヤド宣言に基づき信頼をもってデータの自由な流れを促進し、人々、ビジネスや経済に利益をもたらす協力のため、G7デジタル技術大臣はオーストラリアと韓国とともに4つの分野を特定しました。。これはプライバシー、データ保護、知的財産権、およびセキュリティに関連する課題に引き続き対処しながら行います。 このアジェンダで具体的な進展をもたらすためのロードマップを設定しました

 

協力の主要分野


このロードマップは、4つの横断的分野でのG7間の共同行動の計画を示しています。


1.データ・ローカライゼーション:

国境を越えてデータを移動および保護する機能は、経済成長とイノベーションに不可欠です。 データ・ローカライゼーションは企業、特に中小企業(MSME)のデータ流通に影響を与える可能性があります。 グローバルに分散したデータエコシステム全体でのデータ・ローカライゼーション対策の経済的および社会的影響に関するさらなる証拠と堅牢な分析が必要です。

これを収集するために、データ・ローカライゼーション対策の影響とこれらのアプローチに対する代替の政策対応に基づく証拠を構築します(貿易大臣トラック- GOV.UKとの一貫性を認識します)。 これにより各国当局あるいは学界・企業グループといった外部ステークスホルダーからの証拠が、他のフォーラムからの情報とともに集積され、将来の多国間(multirateral)および特定利害を持つ複数国間の(plurilateral)協議に情報を提供するのに役立ちます。 これらにはG20デジタル経済タスクフォース、デジタル経済政策に関するOECD委員会のデジタル経済におけるデータガバナンスとプライバシーに関する作業部会、OECD貿易委員会の作業部会、およびインターネットと管轄政策ネットワークが含まれます。

 

2.調整(訳注・Regulatory 総務省訳では「規制」)協力:

各国国内でのアプローチの違いにより、国境を越えたデータ流通に影響を与え、政府・企業・個人に不確実性(法的不確実性を含む)を生み出す可能性があります。 G7デジタルおよび技術当局は越境データ移転に対する規制アプローチの共通項、国家間での優れた調整の実践および協力を特定するための作業を促進します。

「GoingDigital3-成長と幸福のためのデータガバナンスに関する水平プロジェクト」および「越境データ移転に対する規制アプローチの共通項マッピング」(訳注・2021/10/17追加)を含むOECD分析に基づいて構築します。 ベストプラクティスのケーススタディに焦点を当て、データガバナンスとデータ保護に関する協力を強化し、違いを克服する機会を特定し、規制アプローチの共通点を探り、メンバー間の相互運用性を促進します。

私たちは、英国の情報コミッショナーオフィスが主導する、すべてのG7データ監督当局および/またはデータに関するその他の管轄当局で構成され、それらと協力して開発されたイベントを開催します。 このイベントは2021年に開催され、革新的なアプローチ、規制の施行、国境を越えたデータ流通を可能にする規制に焦点を当てた調整協力を検討します。

2021年に別の分野横断的な規制当局のイベントを開催します。このイベントでは、データ監督当局やその他のデータ担当当局、およびデジタル分野全体のその他の規制当局が集まり、ベストプラクティスを共有し、国際協力をサポートします。

 

3.データへのガバメントアクセス:

堅牢なデータ保護・プライバシー・合法的なアクセス体制と、政府が民間部門の個人データにアクセスするための有効な必要性との間には明確な関連性があります。 私たちは国内のデータ保護とプライバシー基準、合法的なアクセス体制を支える合理的な原則、および国境を越えたアクセスを容易にする法的権限と取り決めを維持することに取り組んでいます。
私たちは、信頼できる「民間セクター保有の個人情報に対するガバメントアクセス」に取り組んでいるOECDの起草グループの目的と目的を支援することを含め、これに関して志を同じくするイニシアチブとグループに関与します。

 

4.優先セクターのデータ共有:

COVID-19危機は、ヘルスケアなどの優先セクターにおけるデータ共有へのアプローチについてコンセンサスを見つけるために、志を同じくする州の価値と必要性を示しています。 G7は保健大臣トラックの一環として、健康データの相互運用性と基準について協力しています。私たちは、より幅広い優先分野の相互に受け入れ可能なデータ共有慣行の開発を有意義に加速するよう努めます。
私たちは、政策立案者間の一連の焦点を絞ったワークショップを通じて協力し、データ共有がG7加盟国に社会的利益をもたらす可能性が最も高い優先分野を特定します。これには次のものが含まれます。実質排出量ゼロへの野心;イノベーション、科学、研究;教育;と自然災害の軽減。
私たちは知識を共有し、開発された場合は、データの共有と革新を支援または妨害する可能性のある要因に関するベストプラクティスを共有します。これは、事前に証拠を共有して、専門家主導のフォーラムを介して行います。これにはデータ仲介者(訳注・The EU Wants 'Data Intermediaries' As An Alternative to Big Tech Platforms参考)、データファウンデーション(訳注・Data Foundationのこと?)、信頼の確保、プライバシー強化テクノロジー(PET:訳注・デロイト トーマツHP参考)の採用の検討へのアプローチが含まれる場合があります

 

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 ……さてこの附属書2をざっと読んで個人的に気になったのは、まず参加国のうちDFFTに懐疑的なインド・南アフリカが署名に加わっていない事です。

逆に言えばオブザーバー国の一部が署名に加わらなかったとしても、G7+オーストリア・韓国の枠組みでDFFTのロードマップが採択されたという事です。

 

これにはインド側のラビ・シャンカール情報相がG7の場で直接DFFTを否定、会合の流れをひっくり返す暴挙に出るような攻撃的な人物とは考え難かった事も、理由として挙げられるのではないでしょうか。

newsonair.gov.in

 

G20リヤドサミット等でデータ・ローカライゼーションの中心概念となるデータ主権の正当性を主張しても、

www.hindustantimes.com

 

 少なくともゴヤル商相のように会合の場で明らかにDFFTを否定することは無かったので。

www.ibef.org

 

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もう一つは今回のロードマップ以前に、既にDFFTを採択している国際協定が存在するということ。日英EPAやRCEPがそれです。

 

tenttytt.hatenablog.com

特にRCEPでは参加各国がDFFTを採用するまでの国内法調整期間を論じていたのですが、このG7ロードマップに則り採択される国際規範をベースとすれば、もう少し各国との調整もスムースだったのではないかと思います。逆にRCEPの結果がG7ロードマップに反映される……とも思えませんし、ねえ。