茂木外相の『包容力と力強さを兼ね備えた外交』とアフリカのFOIP:及び更新休止のお話

安倍前首相が主導した『地球儀を俯瞰する外交』を継承発展させたという、茂木外相の外交方針『包容力と力強さを兼ね備えた外交』。

 

実のところ今まで「包容力は言ってみますと,多様性を尊重し,調整力を発揮する。そして力強さは,リーダーシップをとって行動力を発揮する|外務省」といった抽象的な表現に留まり、その内容が示された事は無かったのですが、2021年2月に発行された外交専門誌『外交』Vol.65の巻頭対談において、茂木外相が初めて具体的な考え方を示しました。

www.mofa.go.jp

https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/100143442.pdf

(巻頭対談・2021年の日本外交『ポスト・コロナを見据えた国際ルール作りを主導する』:期間限定公開の可能性があります)

〉さまざまな開発についても、こちらから押し付けるのではなく、アフリカ自身の発展を日本が後押ししていく、という姿勢が評価されています。そのような「包容力」の部分と、一方で「法の支配」が貫徹されていないような状況については、毅然とした態度をとる

本人曰く就任当初から提唱していたとの事ですが、当初は上述したような抽象的な表現しか無かったことや、アフリカを念頭に置いた外交方針などつい最近まで提唱した形跡は無い事からも、この『包容力と力強さを兼ね備えた外交』は2020年12月|外務省2021年1月|外務省のアフリカ外遊を振り返って提唱したもの、と考えて良いでしょう。

 

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インタビュー内容の最終確認が行われたのと同じ2021/01/18、第204回国会における茂木外務大臣の外交演説|外務省では「自由で開かれたインド太平洋(以下FOIP)」についても

〉考え方を共有する米国、豪州、インド、ASEAN、更には欧州、中東、アフリカの国々とも連携・協力

〉法の支配に基づく自由で開かれた秩序を構築することにより、地域全体、ひいては世界の平和と繁栄を確保していくというビジョン

と、海域秩序に関する日米同盟を中心軸とした豪州・インド・ASEAN・欧州の先・中進国抱え込みを示唆する昨年の外交演説|外務省から、インド太平洋にも相手国の国際影響力にも囚われない普遍的な秩序再構築のビジョンへと言い換えを試みています。このFOIPは以前作成した アフリカのFOIP(自己ブログより)の文脈に近いものと考えられます。

 

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 さて『アフリカのFOIP』では簡単に済ませてしまったのですが……発展途上国に民主的・自立的な発展を遂げるよう支援する事は、「国際秩序に挑戦する国内思想を抑制すること」「自国を支援する特定国家に忖度せず、国際秩序に挑戦する行為を糾弾出来る独立性を構築させること」2つの面で国際秩序維持に資するものです。

 

テロ勢力の拡大やクーデター、或いは彼等に対する過度の弾圧は各国政権の国際秩序からの離脱を促します。特定国家による政治的意図を持つ経済支援は、特定国家が展開する国際秩序への挑戦の弁護を各国政権に促します。

 

そしてこれらは健全な国際投資の撤退、不公正・不安定な経済維持を引き起こし、国際秩序からの離脱と挑戦者への依存を繰り返し各国政権に促すのです。

 

先進国・発展途上国を問わず世界各国が民主的な独立性を維持し、国益と切り離して秩序に則った発言が正当性を保つよう国際社会の修正を図らなければ、QUADのような海洋秩序の為の多国間連携も秩序の挑戦者や彼らに依存する者たちの声に押しつぶされ、国際的な正当性を失ってしまいます。

 

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FOIP=QUADと論じる方々の思想的ベースと思われる、いわゆる「セキュリティダイヤモンド構想」を論じた安倍首相の談話にも、その要諦は記されています。

www.livemint.com

“for, at the end of the day, Japan’s diplomacy must always be rooted in democracy, the rule of law, and respect for human rights”

〉なぜなら結局のところ、日本の外交は常に民主主義・法の支配・そして人権の尊重に根ざしていなければならないからです

 

……長々と中国との対立図形とQUADに相当する多国間連携の話ばかりが論じられた結果、「FOIPにおける民主主義・法の支配・人権尊重への挑戦者=中国」「中国に対抗するための価値観共有国家間の連携」的な例えに使われてしまう事が多い一節です。

 

しかし重要なのは実際の国際社会……例えば途上国の“Like-Minded‐Group” が人権問題で中国擁護を展開する現状を顧みた時、セキュリティダイヤモンドを構築するための前提として

  1. 日本は例え一国のみとなっても民主主義・法の支配・人権尊重に根ざす外交を覆さない事
  2. 日本の行動が国際社会から民主主義・法の支配・人権尊重に反すると指差される場合は早急に是正を図る事
  3. 日本がアクションを起こす時に『国際秩序の挑戦者』の側から2. の様な逆捩じを喰らわないため、国際社会を構成する各国政府が忖度を行わないで済むよう彼らに国際秩序に基づく国家的自立・発展を促す事

まで、この一節が意味を含んでいるという事です。

 

それ故に価値観を共有する国家との排他的な連携以上に、現在共有しない国家との共通点探しと共有部分拡張のための外交を重視する。まさにこの一節は、セキュリティダイヤモンドが国際社会で単なる米中対立の方便と見倣されないためにどのような前提が必要かを記したもの、と考えるべきでしょう。

 

実際国際秩序の挑戦者達は、国連創設直後の国家関係絶対視と内政不干渉原則を盾に国際秩序そのものに対抗する中進・発展途上国連合を呼び掛け(自己ブログ) ているのです。

 

インド太平洋というサンプルのもと国際秩序の正当性獲得合戦を展開する事がFOIP、2016年インド太平洋の西端で初めて展開された『アフリカのFOIP』であるのなら……インド太平洋にも国力にも拘らず相手国の自立を促す“包容力”と、“法の支配”に則る統治や国際的発言を求める『包容力と力強さを兼ね備えた外交』は『アフリカのFOIP』の正統発展と言えるのではないでしょうか。

 

もっとも実のところ、茂木外相が本気でこのような考え方にシフトしているのかは判りません。 この考え方は寧ろ茂木外相以前のいわゆる「地球儀を俯瞰する外交」で展開されていたものですし、少なくとも今までの茂木外相は国際秩序の構築・対中包囲網・排他的経済連携と複数のFOIP解釈を駆使し、特定国家やメディアの指摘を逃れながら国益重視の外交を行って来たのですから。

 

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 最後に、現状で『包容力と力強さとを兼ね備えた外交』『アフリカのFOIP』を展開することの問題点について。

 

コロナ禍による草の根外交の遮断は、相手国に対して「包容力」と「力強さ」の印象乖離をもたらします。平たく言えば、

  • 軍事的支援を行えない日本の包容力は、相手国の治安が急速に悪化した際の回復即効性を持ち合わせていない

そう“思われて”しまうのです。特にコロナ禍においては、この問題が顕著となります。例えばモザンビークの武装勢力:BBCニュースしかり、ミャンマーのクーデター: BBCニュースしかり……

 

このモザンビーク武装勢力についてはコロナと台風禍のもと勢力が拡大、他地域への波及の兆候も見られており、EUが高い懸念を示しております。

 

日本の外相が初めて参加しFOIPの意義を欧州各国に改めて提唱した、とされる2021/01/25のEU外務理事会:外務省ですが、実はEU上級代表Borrell氏はこの会合に先駆けてポルトガル外相Augusto Santos Silvaモザンビークに派遣、現地軍事訓練を含む支援を申し出ています。

 

同国へはこの5日前に茂木外相が訪問、FOIPに資する当該地区(Cabo Delgado)の治安経費を含む無償資金協力:外務省支援を行ったのですが、モザンビーク側は武力支援を支援内容に含むEUに対して、改めて支援要請をし直しました。

 

つまり……日本が太平洋からアフリカ東岸まで含むFOIPを提唱したEU外相理事会で、当のアフリカ諸国がFOIPを当てにしていない事が露呈した訳です。

 

武装勢力であれ、特定国家からの政治的色彩を含めた経済進出であれ……国際秩序への挑戦を企てる者達に対し、特にアフリカ型のFOIPは即効性に欠けることは否めません。それ故に不断の支援で国力増進を促し、時の政権に国際秩序に則った独立性を構築させる事が不可欠なのですが、コロナ禍はその流れを断ち切ってしまったのです。

 

 

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 ……まとまりきらない文章で申し訳ありません。

実は今まで使用していたスマホが故障、借り物の端末を使って作成中の文章をとりあえず形にいたしました。

 

スマホが回復するまでいったん更新休止……といったところなのですが、健康上の理由もありしばらくネット全般から離脱する予定です。