第二次コンテ内閣

ご無沙汰しています。

……というか、実はここしばらく別の文章を書いていたのですが、思うことあって一旦塩漬けにした所でして。とりあえず今回は軽めの話で。


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もうひと月前の話ですが、イタリア・コンテ内閣が一旦解散、新たな基盤政党のもと再度内閣組成しました。
https://www.jetro.go.jp/biznews/2019/09/196c39eaf79c08e2.html
『第2次コンテ内閣発足に向け閣僚人事が出そろう』
JETROホームページ 2019/09/10

元々はサルヴィーニ氏率いる極右政党“リーガ”と、ディマイオ氏の極左政党“五つ星運動”の連立政権であり、双方が容認した傀儡首相がコンテ氏……という構造だったのですが、
8月末のサルヴィーニ氏政権離脱に伴い、残ったディマイオ氏の“五つ星運動”とかつての政権与党“民主党”による連立政権を再度組成した事で、以前とは全く異なる性格の政権となりました。

特に所信演説でEU(のルール)の枠内でイタリア人の利益を追求する」と述べた通り、サルヴィーニ氏主導による反EU的立場からの変更が目立ちます。
https://r.nikkei.com/article/DGXMZO49601850Z00C19A9FF2000?s=1
“「EUと融和」イタリアのコンテ首相が所信表明”
日本経済新聞 2019/09/09


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今回の第二次内閣については、サルヴィーニ氏の盟友であったハンガリー首相オルバン氏も早々に支持を表明しており、
https://hungarytoday.hu/orban-conte-hungary-cooperation-italy/
“Orbán to Conte: Hungary Ready to Continue Cooperation with Italy”
Hungary Today紙 2019/09/09

その後移民政策を通じてコンテ内閣と対立した際も、サルヴィーニ時代の反移民政策を称えつつ、彼を過去の人として評価する面が見られます。

〉(コンテ首相が提唱する)再分配の割り当てはノーと言いましょう。しかし、国境を守り、移民を本国に送還するのを支援する準備ができています。
〉しかし-彼(ハンガリー:オルバン首相)は付け加えます-私たちはイタリアが私たちのクラブで私たちに戻ってくるのを待っています

http://www.rainews.it/dl/rainews/articoli/Premier-ungherese-Orban-Atreju-In-Italia-il-governo-separato-dal-popolo-5c973bfd-df88-4024-b5eb-ea395622d99e.html
“Il premier ungherese Orban ad Atreju: "In Italia il governo si è separato dal popolo" ”
Rainews紙 2019/09/21 (イタリア語)


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実際のところ、前政権では目立った動きのなかった(というか副首相が暴れまくって目立たなかった)コンテ首相及び新たに外相に就任した“五つ星運動”ディマイオ氏とも、大きな失言は見られない……どころか、かなり積極的な交渉を行い国益保持に努めている様子が見られます。


移民政策などでEU・反移民派と時に過激なやり取りを通じて新たなスキームを持ち込もうとするコンテ氏はもちろん、
https://r.nikkei.com/article/DGXMZO49962340Z10C19A9000000
EUの移民政策の改革で一致、仏大統領と伊首相』
日本経済新聞 2019/09/19

ディマイオ氏はインド・中国外相と会談を繰り広げる一方、
https://www.onuitalia.com/2019/09/25/india-e-cina-alte-in-agenda-di-maio-allonu-bilaterali-puntano-a-rafforzamento-rapporti/
“India e Cina alte in agenda Di Maio all’Onu; bilaterali puntano a rafforzamento rapporti”
OnuItalia紙 2019/09/25 (イタリア語)

かつてイタリアの一帯一路参加を強行したディマイオ氏のお手並み拝見とばかりに、エアバス社への補助金制裁を引っ提げてアメリカの対中懸案を受け入れさせようと乗り込んだポンペオ氏に対し
https://www.vox.com/2019/10/3/20896811/trump-tariffs-wto-airbus-european-union-wine-cheese
“French wine and Italian cheese prices could rise with new US tariffs on EU
Vox紙 2019/10/03

「国家としての私たちの主権を傷つける可能性のある貿易協定に参加するつもりはありません」と中国への深入りを否定しながら、
5Gへの規制については自国の“Golden Power”法の下で行いアメリカの干渉を受け付けない態度を示すなど、米国の怒りを買わないギリギリの形で硬軟織り交ぜた交渉
を行っています。
https://www.japantimes.co.jp/news/2019/10/02/asia-pacific/politics-diplomacy-asia-pacific/u-s-warns-italy-china-5g/#.XZbjzVNcU0N
“U.S. warns Italy over China and 5G”
Japantimes紙 2019/10/03

※なお、“Golden Power”については
https://www.google.com/amp/s/jp.mobile.reuters.com/article/amp/idJPKCN1VQ2MJ
『イタリア、5G巡りファーウェイ規制強化 特別権行使を了承』Reuter紙2019/09/05をご覧ください。


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……勿論、政権としては連立ゆえの脆弱さは問題であり、当初“五つ星運動”との連立に反対していた“民主党”党首レンツィ氏が離党したり、
https://jp.reuters.com/article/italy-politics-renzi-idJPKBN1W21ZE
「イタリア元首相、連立与党を離党『コンテ政権は今後も支持』」
Reuter紙 2019/09/19

民主党から入閣したガルティエリ経済・財務相が予算案に苦慮した上、コンテ政権に対するEUの好感触を糧に何とか妥協点を導き出したり、
https://jp.reuters.com/article/italy-budget-idJPKBN1WF28B
『イタリア財政赤字目標、小幅な引き上げに EUとの対話重視』
Reuter紙 2019/10/01

色々問題は抱えていますが、前政権と異なり首相がリーダーシップを発揮する、好調なスタートと言えるでしょう。


ディマイオ氏の外交にしても、国際政治研究所(ISPI)の助言に従った形でしょうが、それを実体化させるだけの外交手腕はあると見て良いと思われます。
https://www.ispionline.it/it/pubblicazione/memo-il-nuovo-ministro-degli-esteri-23844
“Memo per il nuovo Ministro degli Esteri”
ISPIホームページ 2019/09/05 (イタリア語)

当初の下馬評、
〉大学中退で言語に不慣れ、政治的キャリアの間に国際問題にほとんど関心を示さなかった33歳。
〉黄色いベストの友人、外交事件の建築家、言語的および地理的な偽物のランダムジェネレーター。
は、現状ある程度覆すものではないかと。
https://www.corriere.it/politica/19_settembre_05/di-maio-si-insedia-esteri-dubbi-nuova-cina-scelta-insolita-36a6d054-cfed-11e9-b1b2-ea5000c0ac17.shtml
corriere紙 2019/09/05


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むしろ個人的に心配しているのは、このイタリア新内閣に対して、安倍内閣が長期間コンタクトを取っていない点です。
 
新内閣で退任したモアヴェロ前外相と、安倍首相及び河野前外相が会談を行ったのが6/4。
https://www.mofa.go.jp/mofaj/press/release/press6_000597.html外務省HP
https://www.mofa.go.jp/mofaj/erp/we/it/page4_005037.html外務省HP

現政権に残ったコンテ首相と、安倍首相の会談を行ったのが4/24にまで遡ってしまいます。
https://www.mofa.go.jp/mofaj/erp/ep/page23_002942.html#section2外務省HP

その後G20やG7、国連総会などコンテ氏及びディマイオ氏と、安倍首相や内閣閣僚とが同席する会議があったにも関わらずイタリアとの閣僚会談は行われておらず、
https://www.mofa.go.jp/mofaj/ecm/ec/page22_003217.html外務省:G20大阪サミット
https://www.mofa.go.jp/mofaj/ecm/ec/page23_002901.html外務省:G7ビアリッツサミット
https://www.mofa.go.jp/mofaj/fp/unp/page3_002871.html外務省:国連総会首脳会談
https://www.mofa.go.jp/mofaj/fp/unp/page4_005323.html外務省:国連総会外相会談

8月の河野前外相外遊の際も会談は当初から組み込まれず、
https://www.mofa.go.jp/mofaj/press/release/press4_007696.html外務省HP

ディマイオ氏に至っては9月の国連総会はもちろん、6月のG20つくば貿易・デジタル経済閣僚会合に参加したにも関わらず、主催国日本との会談はジェラーチ政務次官に割り振った上で
https://www.meti.go.jp/press/2019/06/20190610010/20190610010.html経産省HP

自らはインドネシア等との会談に臨んでいたり、
https://www.opengovasia.com/indonesia-to-boost-digital-economy-by-cooperating-with-italy/
“Indonesia to boost digital economy by cooperation with Italy”
OpenGov紙 2019/06/11

完全に没交渉の状態が続いています。


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内閣を再編し、全く新しいポリシーを採択したコンテ政権に対して、変革前後にコンタクトが無かった事は問題でしょう。

一帯一路のヨーロッパ側の終着点として知られた国であり、現在は中国に対して多少なりとも懐疑的な立場であったサルヴィーニ氏が失脚した事で、中国への傾倒に歯止めが効かない状態にあります。
https://www.euronews.com/2019/03/24/china-and-italy-sign-silk-road-project
“China's Belt and Road plan: Why did Italy sign it and why is Brussels worried? | Euronews answers”
Euronews紙 2019/09/04

中国との関係強化を、自国への干渉を拒否し国益保持に務める国家が行うこと、そしてそのような国家に対してEUが「放蕩息子の帰還」とばかりに甘めの対応を行う状況は、日本政府が早急に対処しなければならない外交懸案のはずです。


でなければ、イタリアは日EU間が結んだ「持続可能な連結性及び質の高いインフラに関する日EUパートナーシップ」や「開発分野における日EU協力」の要諦を脅かす存在となり、
https://www.mofa.go.jp/mofaj/erp/ep/page4_005320.html
安倍総理の『欧州連結性フォーラム』出席」
外務省HP 2019/09/27


また今政権で注力するアフリカを第三国市場とした関係強化を通じて、欧州・アフリカのみならず、表向きだけでも透明性を重視する「質の高いインフラ」を自ら標榜し始めた中国をも逆進させてしまう可能性すら、新しくかつ国益以外の指標を示さないコンテ政権にはあるのですから。
https://www.jiji.com/sp/article?k=2019053001198&g=eco
『中国、自主点検提出見送りへ=途上国向け融資状況-G20で包囲網』
時事通信紙 2019/05/31


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例えばEU諸国であれば、親EUの意向を示しかつ安定した政治能力を持つ政権を築き上げたコンテ首相に安心すれば良いでしょうが、
自由貿易の旗手として、自由で公正なルールに基づく経済圏」を築くと所信表明で宣言した安倍首相の立場としては、コンテ政権がEU主要国として

  • 「自由、民主主義、基本的人権、法の支配、国際法の尊重といった基本的価値に基づいた国際秩序」に協力していくのか、
  • 或いはEUWTO・国連などの国際権威に頼りつつ、米中に潜む「国際秩序に挑戦する秩序」の伸長に大義名分を与えようとする存在となるのか、

直接コンタクトを取り、その腹の内を探る必要があるのではないか、と思います。


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……茂木外相。恐らくコンタクトを拒否しているのはイタリア側でしょうが、兵隊が苦慮した状況を打開するのも外相の役目ですよ。
せっかくG7外相会合では、隣で写真撮ってるんですから。