TICAD7: 首相基調演説と横浜宣言2019

2019/08/28~/30、横浜で開催されたTICAD7
(第7回アフリカ開発会議)について。
TICADの結果やアフリカ論よりも、TICAD7から日本の対アフリカ認識を探る為の文章になります。


中国のアフリカ進出への対抗論とか、
https://mainichi.jp/articles/20190830/k00/00m/030/099000c

TICAD6の公約だった3年間300億ドルの直接投資について、終盤の進捗状況で160億ドル程度だったものが、7月の修正集計では356億ドルになったとか、
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20190824/k10012047081000.html

https://tenttytt.hatenablog.com/entry/2019/09/30/214401

西サハラへの対応とか
https://mainichi.jp/articles/20190830/k00/00m/030/010000c

そういう話は取上げていませんのでご了承下さい。


「自由で開かれたインド太平洋」については、少し取り上げますが、ここで取り上げる「自由で開かれたインド太平洋」は昨年秋以降のものを前提としていることをご了承願います。
https://tenttytt.hatenablog.com/entry/2019/02/25/214400


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1. 基調演説と横浜宣言


TICAD7で取り上げられた中心議題の流れについては

『第7回アフリカ開発会議(TICAD7)の開催(8月28日)』
https://www.mofa.go.jp/mofaj/af/af1/page4_005234.html

『第7回アフリカ開発会議(TICAD7)の開催(8月29日)』
https://www.mofa.go.jp/mofaj/af/af1/page4_005255.html

『第7回アフリカ開発会議(TICAD7)の開催(8月30日)』
https://www.mofa.go.jp/mofaj/af/af1/page4_005263.html


……このように初日の全体会合1で、首相による基調演説とそれに準拠する分野別行動計画『TICAD7における日本の取組』(以下『TICAD7取組』)とがいわば日本側の提案として取り上げられ、
その後全体会合・テーマ別会合を経て、
閉会式において締めくくりの挨拶と成果文書『横浜宣言2019』(以下『横浜宣言』)を採択、分野別行動計画をまとめた付属文書『横浜行動計画2019』(以下『横浜行動計画』)が発表、という流れとなっていました。

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2019/09/08追加

実際には『横浜宣言』『横浜行動計画』の内容については、
2019/08/27の『TICAD7閣僚事前準備会合』にて各国閣僚との協議の末、内容採択されていたそうです。
https://www.mofa.go.jp/mofaj/af/af1/page4_005211.html

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全体会合1時点での首相基調演説と、
https://www.mofa.go.jp/mofaj/af/af1/page4_005231.html
閉会式での首相の締めくくり挨拶
https://www.mofa.go.jp/mofaj/af/af1/page4_005261.html

これらを比較すると、前者が「ダブルEダブルI」(アントレプレナーシップエンタープライズ・インベストメント・イノベーション)を打ち出した民間投資支援の面だけでなく、

「時間軸の長い協力」や“New Approach for Peace and Stability in Africa”(NAPSA)など、日本側が自らの視点の下、アフリカに対して有効と思われる新提案を行っていたのに対し、

閉会式の挨拶ではほぼ民間投資支援についてのみ取り上げる形で終わっています。


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参考:
TICAD7開会式 AU議長国エジプト大統領スピーチ
http://www.sis.gov.eg/Story/141310/President-Abdel-Fattah-El-Sisi%E2%80%99s-Statement-during-opening-session-of-TICAD-7?lang=en-us

同閉会式スピーチ(共にエジプト政府HPより)
http://sis.gov.eg/Story/141360/President-Abdel-Fattah-El-Sisi%E2%80%99s-Statement-in-Closing-Session-of-TICAD7?lang=en-us

エルシーシ大統領はあくまでアフリカ統合とAUイニシアティブへの支援、アフリカへの投資を訴え続けています。


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つまりTICAD加盟国・団体との交渉の末(恐らくは否定的な反応の末)、当初日本側が強く提唱しようとした部分は、“一見”取下げられた形になっております。

逆の見方をすれば
首相基調演説と閉会式時に採択された『横浜宣言』、分野別行動計画『TICAD7取組』と『横浜行動計画』を比較する事で
一般的に「民間投資が」「中国が」という側面でしか解釈されないTICAD7の特徴を、むしろ本質的に把握することが出来るのではないでしょうか。

※ネタバレすると『横浜行動計画』はもう一つの対比が出来るのですが、その点は第三章で触れます。


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2. 『横浜宣言』の特徴:

2.-1 AUアジェンダの遵守


前述した基調演説を念頭に置いて、『横浜宣言』
https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/ticad/ticad7/pdf/yokohama_declaration_ja.pdf
の「1.2 序論」を読むと、

〉TICADの実施は、持続可能な開発及び人間の安全保障の理念を念頭に置きつつ、アフリカ開発の動向及び優先事項を指針とするべきである。

〉したがってTICADは、アフリカ連合(AU)アジェンダ2063及びその最初の10年間の実施計画に明記されているアフリカのビジョン、並びに、持続可能な開発のための2030アジェンダ(SDGs)への国際的なコミットメントと軌を一にするべきである。


……概要では「AUアジェンダ2063を支持」とあっさり書かれていますが、実際には日本側が自ら「軌を一にする」(英文は“should be aligned with”)と、
TICADの活動はAUアジェンダに遵守する事を求めており、さらにこの姿勢を「3.1 TICADのテーマ」でも同じ表現を使い強調しています。

この姿勢は、後述するNAPSAについても同様であり、アフリカのオーナーシップを尊重する意向が、日本側でより強く反映された形になっています。


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※前回のTICAD6『ナイロビ宣言』では、
https://www.mofa.go.jp/mofaj/af/af1/page3_001784.html
“Alignment with”を「連携し」と翻訳。
もっとも、「軌を一にすべき」という表現は外務省が好んで使用する表現の一つではあります。


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2.-2 NAPSAの消失


NAPSA(アフリカの平和と安定に向けた新しいアプローチ)とは、今回のTICAD7基調演説で初めて打ち出された新提案であり、全貌は明らかにされませんでしたが

AUや,地域経済共同体と協力し,紛争の予防,仲介,調停の努力を助けます。

〉ネイション・ビルディングが紛争によって後戻りしないよう,司法や行政,立法の制度を確かなものとするお手伝いをします。

とあり、明らかに大陸内安全保障のためだけでなく、平時の社会安定化プログラムまで含むものだったと思われます。


基調演説では、このNAPSA発表直後の段落で

〉アフリカの未来に,ひたすら光明のみを見続けたTICADは,過たなかった。アフリカの力を信じた一点において,あくまでも正しかった。

とまで述べており、
いわば未来の闇の部分、アフリカの国際秩序参加に向けた進歩を逆行させる事態(制度の腐敗から貧困・自然災害対策、そして従来の取り組みを考慮すれば禁止品通商取締まで含めて)を憂慮し、それを抑制するための新たな統合イニシアティブとしてNAPSAが提案されたと思われます。

※税関における日本の取組についてはTICAD6の報告書に掲載されています。
https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/ticad/ticad7/pdf/ticad6_report_ja.pdf


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しかし、『横浜宣言』では大陸内安全保障は
アジェンダ2063の「2020年までの紛争終結」イニシアティブ、或いはAU既存のAGA(African Governance Architecture)及びAPSA(African Peace and Security Architecture)イニシアティブを遵守する形で吸収されてしまいました。

http://aga-platform.org/about
(AGAホームページ)
https://eeas.europa.eu/delegations/african-union-au/54650/african-peace-facility-apf-and-pan-african-programme-panaf_ru
(EEASホームページ内“APF & PANAF”第二章参照)

一応政治制度など包括的な部分はAGA、安全保障部分はAPSAイニシアティブで補完は可能ではありますが、イニシアティブとして分割されている事もあり、NAPSAが狙うほど根本的な対策とはなりません。
またAUの方針は前述エルシーシ氏の開会式スピーチのように、紛争終結を前提とした再発防止と復興であり、ネイション・ビルディング逆進が大陸レベルまで波及する懸念は存在しないのです。


結局、後述するようにNAPSAは『横浜行動計画』に隠れた形で残ることになりますが、“一見”『横浜宣言』からは消失した形となりました。


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2.-3 AfCFTAの扱い


NAPSAとは逆に、基調演説では取り上げられなかったものの『横浜宣言』において特に重視されたのがAfCFTA(アフリカ大陸内自由貿易圏)です。


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https://www.afpbb.com/articles/-/3234125?cx_amp=all&act=all
“アフリカ自由貿易圏「AfCFTA」、「運用段階」正式スタート 域内貿易拡大目指す”
AFP紙 2019/07/09

アフリカ連合加盟国による単一市場を目指し、関税・非関税障壁の撤廃などの協定ですが、『横浜宣言』では「2.1 現状」において

〉我々は、地域経済統合を深化させ、アブジャ条約の目標を達成するための、AfCFTAの運用化に向けた進歩に留意し、AfCFTAが、物価の変動の影響をより受けにくい、より持続可能で包摂的な貿易を推進するものであることを認識する。

と記したのを皮切りに、

〉我々は、AfCFTAの認知度を国際的に高め、アフリカ及び日本の民間セクター及び他のステークホルダーがAfCFTAの実施を強化するため、啓発のためのプラットフォームを促進することを決意する。
(「2.3 現状」)


〉我々は、AfCFTA並びにそれがもたらす地域統合の深化、市場の拡大、貿易円滑化の促進、農業改革及びバリューチェーンの構築をもたらす可能性を歓迎する。我々は、これらの目的を達成するために、アフリカの民間セクターと日本のカウンターパートを具体的につなげる施策を通じて、AfCFTAの完全な実施を支援することを決意する。
(「4.1.1 三つの柱」)


と数多く言及しています。

前述エルシーシ氏のスピーチ(The second Axis)に代表されるように、アフリカ側はAfCFTAを評価しそれを支えるための支援を日本側に要請し、『横浜宣言』に反映させようとした訳です。


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なお、このAfCFTAについて基調演説で触れなかった理由は、触れる予定が当初無かったからではなく、
AfCFTAに対する加盟国それぞれの受け止め方をTICADのような一堂に会する場でいったん確かめたかったからではないか、と考えられます。

大陸大の自由貿易圏に対する加盟国の期待や憂慮は各国様々であり、実際に過程上署名・批准を一旦躊躇した国もあります。
日本としては彼らの実際の受け止め方を知るまでは、無闇に正面切ってのAfCFTA言及は一旦避けようとしたのではないでしょうか。


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3. 『TICAD7取組』と『横浜行動計画』


次に、『TICAD7における日本の取組』
https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/ticad/ticad7/pdf/ticad7_torikumi_ja.pdf
及び『横浜行動計画2019』
https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/ticad/ticad7/pdf/yokohama_action_plan_ja.pdf
こちらに目を向けてみます。


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3.-1 『横浜宣言』の行動計画としての『横浜行動計画』


まず、第二章で触れたAUイニシアティブの遵守ですが、確かに『横浜行動計画』では

〉A. 重点分野
〉横浜宣言 2019 の各柱のもとに,重点分野とそれに関連する AUフラグシップ・イニシアティブが記載される。

とあり、行動計画自体がAUイニシアティブから逸脱する事は原則有り得ない形となりました。

※参考: アジェンダ2063フラッグシップ・イニシアティブ(AUホームページより)
https://au.int/en/agenda2063/flagship-projects


またNAPSAやAfCFTAの扱いについても、

  • 『TICAD7取組』では第三の柱の表題部に記載されたNAPSAは『横浜行動計画』では名称消失、
  • 逆に『TICAD7取組』には記載されなかったAfCFTAが、『横浜行動計画』では〉1-1-b) アフリカの生産性,産業化及び貿易政策支援するカテゴリーの大半を占める重点施策となっています。


つまり、基調演説がTICAD参加国との交渉を経て『横浜宣言』に至ったように、
『横浜行動計画』も日本側がTICAD7開始前に用意した『TICAD7取組』を参加国との交渉を経て修正したもの
である訳です。


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3.-2 「債務持続性確保」カテゴリーの消失


次の特徴として、『TICAD7取組』では行動計画の一カテゴリーを形成していた「債務持続性確保」が、『横浜行動計画』ではカテゴリーとしては消失している事が上げられます。

この「債務持続性」は、基調演説ではなく8/29の官民ビジネス対話で首相が
https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000511915.pdf

〉相手国が借金漬けになっては、皆さまの進出を妨げます

という形で触れた物です。


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さて、この「債務持続性」は『横浜行動計画』ではカテゴリーが消失、替わりにその細目が

〉1.3 民間セクター可能性の解放
〉 b) さらなる民間投資を促進するため AU 加盟国のビジネス環境を改善する。

という、奇妙なカテゴリー内の取組/イニシアティブに採用される事となりました。


……しかし、奇妙な話です。

確かに、債務持続性の改善は日本からの企業進出促進に役立つでしょう。しかし、この『横浜行動計画』はあくまでAUイニシアティブを遵守する形で、各行動計画が立案されているものです。

債務管理の研修やアドバイザー派遣という、いわばTICAD参加国のオーナーシップを掣肘する行為は、AUイニシアティブからもTICADのパートナーシップからも逸脱する行動であり、本来は完全に細目から削除される筈のものではないかと思われます。

『横浜行動計画』ではなぜこの行動/イニシアティブが残存したのでしょうか?
ここには、『横浜行動計画』のもう一つの性格が現れていると思われます。


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※なお巷では官民ビジネス会合での首相発言を、「中国による『債務の罠』を牽制した」と解説していますが、

  • 上記発言の“皆さま”が日本のアフリカ進出企業を指していること
  • 上記発言に続けてアフリカ諸国での債務管理研修やアドバイザー派遣の言及をしていること

これらを考慮に入れれば、この発言の対象が中国ではなく、
特定相手からの無理な債務がその債務リスク故に、特定相手以外(特にOECD加盟国)の投資懸念を招いているという、原則的な問題に対するアフリカ諸国の理解不足を揶揄しているのが判ると思います。


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3.-3 日本提案の行動計画を拾い戻す『横浜行動計画』


ここで、改めて『横浜行動計画』の項目設定を確認します。


第一に、全ての行動がAUのフラッグシップ・イニシアティブに紐付けられている事。まずアジェンダ2063等AU側のイニシアティブを遵守する形で重点分野(A)を設定、それらに含有される形で各行動(B)が設定されています。

第二に、それ以降のアクター(C)取組/イニシアティブ(D)期待される成果(E)……具体的な行動計画の部分は、原則日本側のみが記載内容を検討しまとめたもの、と明記しています。


つまり『横浜行動計画』とは、
重点分野や大まかな行動方針についてはTICAD7加盟国との交渉結果としての『横浜宣言』を行動計画化する側面と、
日本側が基調演説や『TICAD7取組』で提案したものの、表立って採択できなかった部分を別カテゴリーで回収し潜り込ませる二つの側面を持つ
ものだった、ということです。


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この仮定に従って、
『TICAD7の取組』と
https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/ticad/ticad7/pdf/ticad7_torikumi_ja.pdf
『横浜行動計画』の
https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/ticad/ticad7/pdf/yokohama_action_plan_ja.pdf
b) 行動と、c) 主体以降との間に違和感がある項目を見直すと、

  • 「債務持続可能性」の細目が「民間投資促進のためのビジネス環境改善」に採用
  • NAPSAの構成要素と思しき、過激化防止のための「若者の雇用創出/職業訓練」が、「避難民の受け入れコミュニティ統合と発展支援」に採用
  • NAPSAの構成要素と思しき、税関での搬入出に係る「治安関連機材(X線機材等含む)等の提供」が、 「国境物流管理及び国境検問所に関連する当局の能力向上」ではなく、「法の支配,グッドガバナンス,国境管理・監視の向上のため,中央政府,地方政府,警察及び司法機関における制度構築及び能力強化促進」に採用
  • 「アフリカの生産性,産業化及び貿易政策の支援」カテゴリーにある、AfCFTAへの支援主体が日本ではなく国連・世銀であること。つまりAU側の要請に応じ日本が自主的に、国連・世銀に対してAfCFTAへの支援を申し入れている(直接AfCFTAに介入していない)


……など、a)b)項とc)d)e)項に違和感のある細目が多岐にわたっており、それらが主に『横浜宣言』で拾えなかった日本側の提案に関連していることが見えて来ます。


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4. 『横浜行動計画』から見える日本の祈り

4.-1 ブルーエコノミーと自由で開かれたインド太平洋


上記3-3と似た流れですが、『横浜宣言』で言及されながら『横浜行動計画』で“一見”姿を消した言葉に“自由で開かれたインド太平洋”があります。


“自由で開かれたインド太平洋”(以下FOIP)については、TICAD7では主に8/30に開催された特別会合「西インド洋における協力特別会合」
https://www.mofa.go.jp/mofaj/af/af1/page4_005262.html
及び8/29のサイドイベント「持続可能なブルーエコノミーに関するサイドイベント」
https://www.mofa.go.jp/mofaj/af/af1/page4_005250.html
にて取り上げられました。

この際、日本側からは共にアジェンダ2063に基づくブルーエコノミーと紐付けた結果、
https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000512255.pdf
https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000511759.pdf

「西インド洋における協力特別会合」議長サマリーにおいて、参加した西インド洋沿岸10ヶ国(TICAD参加国としては1/5以下の国数ですが、地図を見れば判るようにアフリカのインド洋沿岸国家ほぼ全てに相当します)等は
https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000512266.pdf

〉参加者は、自由で開かれたインド太平洋(FOIP)のビジョンを促進する日本の努力を歓迎しました。ビジョンの目標は、地域の国々および地域の枠組みによる努力と一致しているためです。

〉河野大臣は議長として、4つの分野に焦点を当てて課題に対処する日本の取組を紹介しました。
(i)島嶼国の脆弱性の緩和
(ii)開放性、透明性、経済効率、債務の持続可能性などの国際基準に準拠した、質の高いインフラ投資の促進
(iii)海洋資源の持続可能な利用の確保
(iv)自由で開かれた海洋秩序を確保する

とFOIPを“welcomed(歓迎)”したのです。


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後に『横浜宣言』ではFOIP自体については“take good note of”(好意的に留意)と表現を抑えられ、更に『横浜行動計画』ではFOIPの名称は消えましたが、日本の取組の4分野は
〉1.1.d) アフリカのブルーエコノミーを支援する
カテゴリーの他、各種取組/イニシアティブに取り入れられた訳です。


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4.-2 「国際秩序からの逸脱」という最大の懸念


……このような形で、
TICAD7で提案された日本側の対アフリカ政策は、AUイニシアティブ遵守という今回強調された原則を守った上で、『横浜行動計画2019』に含める事に成功しました。

なお、『横浜行動計画』にねじ込まれた債務持続性やFOIP、NAPSAやAfCFTAへの間接介入に到る諸提案は、
前々からTICAD7が主張していた「民間投資促進のためのビジネス環境改善」、或いは巷で囁かれる「中国進出への対抗」などで計りえるものではありません。

諸提案に共通するのは、アフリカ全体における基本的価値に基づいたネイション・ビルディングの逆進、「国際秩序に対抗する新たな秩序」が国家経済・海洋及び港湾投資・社会秩序・通商及び産業防衛部門を通じ、組織されていく事への懸念なのです。


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〉日本外交の最大の課題は、自由、民主主義、基本的人権、法の支配、国際法の尊重といった基本的価値に基づいた国際秩序を様々な方面からの挑戦から守り続けることにあります。

〉ある国で経済が発展すれば、その国民は次に民主主義を求めるようになると私は信じています。しかし、最近の国際的な経済の発展に比べ、民主化の遅れが見受けられます。基本的価値に基づく国際秩序に対抗する秩序を創り上げようとする動きとは断固、戦わなくてはなりません。

『第198回国会における河野外務大臣の外交演説』
外務省HP 2019/01/28
https://www.mofa.go.jp/mofaj/fp/pp/page3_002672.html

……あくまで外相演説であり、確かにこの言葉がそのまま日本政府の対アフリカ方針に適用されるとは限りません。
しかしTICAD7の提案をみる限り、日本側の懸念がここにそのまま描写されている事が判ると思います。

自然環境・疾病・貧困・不平等・違法取引・過激主義の蔓延、更には国家の不正・腐敗・債務リスクなど、様々かつ大陸レベルでのネイション・ビルディング逆進要因を抱えた、国際社会で最も脆弱な環と言い得るアフリカ諸国に対して、
TICAD7の事前提案である基調演説では、既定路線通り民間投資への注力をアピールする一方、逆進防止の為のプログラムを組み込んだのだと思われます。


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※もっとも、民間投資への注力と逆進防止プログラムが、全く異なる方向を向いている訳ではありません。
JETRO『2018年度 アフリカ進出日系企業実態調査』P21にもありますが、
https://www.jetro.go.jp/ext_images/_News/releases/2019/bc4f3f06c1a65445/rp-africa2018.pdf
アフリカ投資最大のリスクは調査国全てで
「規制・法制整備」「政治的不安定」のどちらかがトップ
であり、ネイション・ビルディング逆進防止は最も日本企業のニーズに合わせた対アフリカ民間投資支援とも言えるのかもしれません。

ただしAfCFTA発効後の今、そのメリットを享受すべく日本企業にアフリカ進出を選択させるには、大陸レベルで波及するネイション・ビルディングの危機を、アフリカが自ら統合的に対処に向かう段階が不可欠だと感じます。


……そしてアフリカがその段階に到達しえる事、あとは日本側のきっかけがあれば民間投資も拡大しえる事、TICAD7による提案がアフリカの統合的発展の気付きと手助けになる事を、安倍首相が信じた末に発した言葉こそ

〉アフリカの未来に,ひたすら光明のみを見続けたTICADは,過たなかった。アフリカの力を信じた一点において,あくまでも正しかった。

ではないでしょうか。


TICAD5からTICAD7まで6年、いや実は第一次安倍政権による『TICAD持続可能な開発のための環境とエネルギー閣僚会議』から12年に及ぶ努力の結果ではあります。
https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/ticad/energy_gai.html


しかし、TICAD7という3日間の交渉・調査期間を経て、日本側の下した判断が政府・民間ともかなり厳しいものだったことは、『横浜宣言』『横浜行動計画』を読む限りでも察することが出来るでしょう。
                   (了)


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ついでに、AfCFTA発効以降も増大するアフリカの海外投資依存構造、それもアフリカ統合に向けた投資構造の変革を促すべきAUの代表者が自らTICAD7閉会式で

“I would like to renew my call to all international companies and finance institutions, besides the private sector and Japanese companies to cooperate and invest in Africa whose markets are open and investment climate is proper, besides the availale desire to cooperate with all partners.”

と海外からの投資を無秩序・無反省にアピールする状況は、単にアフリカ側による日本民間投資への失望だけでなく、日本側にも今後のアフリカ投資への不安、今までの対アフリカ協力活動の徒労・無力感を抱かせるに充分なものだったのではないでしょうか。


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