韓国のL/C関連……最近の話題見直し

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以前作成した『韓国 貿易与信枠とかL/Cとか』
https://tenttytt.hatenablog.com/entry/2019/02/18/122805

こちらが1~2ヶ月前辺りに閲覧数が増えたのですが、最近韓国関係も貿易与信とかも全然勉強していなかったので……復習として、韓国L/C関係で最近話題になった他所の記事を見直し始めています。


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ブログ『新宿会計士の政治経済評論』に当時読者コメントとして書き込んだ内容をざっと記すと、
https://shinjukuacc.com/20190217-01/

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その昔、渡邊哲也氏などが提唱されていた

韓国産業銀行などの経営悪化により、輸出に伴う信用状の発行などは日本の銀行の信用枠で成立しているので、この枠を撤廃すれば韓国は外貨調達や輸出に制限がかかる”

という話を参考にされた某氏の読者コメントが出た際、

“韓国輸銀の信用枠なんて原則は貿易保険の保険料率に影響を及ぼすだけで、まして保険料率の大元であるカントリーリスクはOECDが判断している”

韓国産業銀行へのみずほCB及びJBICによる協調投資により、一部貿易保険に包括保険料率という割安の適用が行われるようになったが、仮にみずほが融資を引き上げても貿易保険が一般料率に戻るだけの微々たる問題ではないか”

という旨の話をコメント欄に記し、長々しい説明はコメント補助用に自作したブログに書き込んだのが事の始まり。

※なお当時は“微々たる問題”と記した包括保険料率ですが、後に調べ直したところ一般料率の1/3~1/4の額で保険加入が可能になるとの事で、融資引き上げにより一般料率に戻るとそれなりに影響があるようです。


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……元々貿易実務に関わった訳でもない素人が、ざっと調べただけで書き込んだコメントですから、相手とも他の読者とも話が噛み合わずに終わってしまいまして……

その後自分の関心事も別方面に移り、ブログの内容再検討も貿易与信についての勉強も全く手付かずの状態でした。
そんな読者コメント説明用の文章が、総量は勿論微々たるものですが自分のブログでは最も閲覧数の高いものとなってしまった現状もあり……不完全極まりない文章をご覧になった方へのお詫びも込め、いつかまとめ直しが出来ればと考えています。


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さて、手始めとして最近話題になった話を読み直しているのですが

1. 『ホワイト国除外で、金融機関は経産省の許可がなければ信用状を発行できなくなる』

……これ、ブログやコメント等では全ての韓国発行L/Cに適用される前提で記されていることが多かったのですが、私には理解が追い付きません。

この話で主に引用されるJETROのHPを読んでも、
https://www.jetro.go.jp/world/qa/04J-120104.html
『仲介貿易(三国間貿易)における留意点』

〉仲介貿易取引規制の強化については、輸出管理徹底国(ホワイト国)以外の仲介貿易について、キャッチオール規制の客観要件およびインフォーム要件に該当する場合は、経済産業大臣の許可が必要となりました(外為令第17条第2項)。

こうある様に、経産相の許可が必要になるのは
I. 仲介貿易に関わる法的規制でも、キャッチオール規制に該当する場合だけではないかと。

なお、第三国から韓国に輸入する際のL/Cの信用補完のため、日本の銀行に確認信用状(後述)を発行させる事に対しても今後経産省がチェックを入れる、という記事もありましたが……それも規制該当の貿易だけでしょう。

II. 仲介貿易に関わる報告義務は日銀への書類提出についての話ですし、

III. 仲介貿易における留意点もL/Cの問題というより、各種書類完備の問題ではないかと。

※一部ではこのIII. の部分で、貿易そのものに経産省が圧力を与えるから結果としてL/Cも…という微妙な表現の記事も見られます。


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2. 『新宿会計士の政治経済評論』の最近の言及

https://shinjukuacc.com/20190723-04/
“「韓国のL/Cへの保証」説の実情”2019/07/23
https://shinjukuacc.com/20190729-02/#i-4
“日本が韓国への「単独金融制裁」に踏み切れない理由”

最近…と言いながらひと月前の記事読み直しです。

武藤正敏氏がJBpress紙において、上述の渡邉氏に近い内容の記事を作成した事に触れ、各種公表数値をもとに検証されていますが、流石は『新宿会計士の政治経済評論』らしく、数値で確認出来るものはしっかり言及した上で、

〉少なくとも現時点において、BIS統計からは「日本が韓国の銀行のL/Cに対する保証を撤回すれば、韓国はL/C貿易ができなくなる」という事実は確認できない、というのが実情です。

と記されています。


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3. 確認信用状について


「日本の銀行が韓国の銀行に付与している保証」について、いわゆる“確認信用状”の事ではないか、という記事を最近になって見かけました。

※自分が読者コメント及びコメント用ブログに書き込んだ2019年2月当時は、この確認信用状に触れた話はあまり見当たらず、みずほ他から韓国諸銀行への貿易関連融資が主な話題だった記憶があります。
なお当時話題となった話は「輸出に伴う信用状の発行」なのですが、確認信用状は原則韓国の輸入に伴うものですので……

https://www.jetro.go.jp/world/qa/04A-010712.html
『信用状(L/C)発行銀行の信用リスクと確認信用状(Confirmed L/C)』
JETRO ホームページより


確認信用状(Confirmed L/C)とは、例えば信用度の高い第三国の銀行が代金支払いを確約する形で、他国の信用状(L/C)を補完するために発行するもの。

韓国がL/Cを発行して第三国から輸入を行う際、自国銀行発行のL/Cには国際的な信用に欠けるため、確認信用状の発行を日本の銀行に多く依頼している、という説です。


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……ただしこの確認信用状は上述の貿易保険同様、対韓貿易以外でも普通に行うリスク対策の一つに過ぎません。

また、特に韓国発行L/Cについてのみ日本の確認信用状発行が多いという説が統計的に裏付けられたとしても、それ自体が別に他国の一流銀行が発行しない(条件を厳しくする)という話まで裏付けするものではありません。

そもそも確認信用状は貿易保険同様、本来韓国のL/Cを受け取る側の第三国メーカーや輸出業者が、自らのリスク対策のために対応する仕組みです。

仮に何らかの手段で韓国発行L/Cに対する確認信用状発行禁止処置を行ったとしても、
日本発行の確認信用状自体、他の手段で代用出来るリスク対策の一つでしかないため肝腎の韓国L/Cの信用低下に繋がるかは怪しい所ですし、
貿易包括保険停止の場合のように「少なくとも韓国からの融資は引き上げてやった」というスッキリ感すらも無い、無駄な処置ではないか、と現状考えています。


そもそも日本貿易保険の統計上、韓国L/Cが実際に貿易保険で補填された額は保険加入件数と比べ、他国と比較してもそれほど高くはありません。
https://www.nexi.go.jp/product/booklet/pdf/pr_gaiyou.pdf
日本貿易保険パンフレット(商品概要編) P24参照

元々貿易保険の国別補填額は年度により変動が激しいのですが、実際に支払不能となったL/Cが少ない状況で
韓国産業銀行が発行するL/Cには信用が無い」
→「日本の確認信用状廃止で韓国にダメージ」
という説については少々モニョってしまいます……


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4. 貿易保険OECDカントリーリスク


最後に、以前自分が記した文章の裏の意図について記すと

  • 韓国発行のL/Cに対する日本側の優遇措置が廃止された場合、L/Cの信用低下・カントリーリスクの上昇は貿易保険料率上昇に転嫁されるであろう。
  • しかし、このカントリーリスク自体は日本ではなくOECDのカントリーリスク専門家会合の判断によるもので、カントリーリスクが変更されない状況では日本側も貿易保険料率を上昇出来ない。
  • 逆の言い方をすると、「実は信用リスクが高いけどOECDが良い評価を下した」国のL/Cに対しては、OECDの評価に実態の方を合わせるよう、加盟国に対し優遇措置を与える指示をしている可能性がある?
  • もしそうなら、OECDでの根回し無しには韓国L/Cへの優遇廃止も困難であり、言い換えれば廃止の動きが出て来た場合、既にOECDへの工作が進行しているという事ではないか。

という事でした。


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もちろん、この仮定はまだ文章化出来るほど形になってません。仮定の脇を固めるためには

  • OECDにそこまでの権限があるのなら、他の国(例えば評価の高い中欧諸国)で同様の優遇措置があったのではないか?
  • OECDカントリーリスク専門家会合の決定基準、会合内あるいは会合に影響を与えるOECD内部委員会の力関係や構成はどうなのか?
  • そもそも国際組織や貿易金融、更に貿易実務自体の知識不足。


という問題があり、まずは少しずつ知識や情報を集めている最中、というのが現状です。


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……実のところG7の結果やTICAD7、日印共同でのアフリカへのデジタル協力(大阪トラックのゴタゴタで立ち消えになっていたかと思ってました)など、優先して調べる話が目白押しで、
今回の話に戻れるのはしばらく後になりそうですが。

来週からはイタリア周辺がキナ臭くなってますし…


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おまけ:

『新宿会計士の政治経済評論』の読者コメントに自分が貼り付けた、今では出処不明の文章です。

恐らくリンク切れになっている
韓国産業銀行への貿易金融ファシリティの供与について ~ 日本貿易保険』の中身だと思うのですが…

代替で貼り付けたJBICの文章よりも、みずほの韓国産業銀行への融資と貿易包括保険の結び付きがはっきり書かれています。


韓国産業銀行に対して、国際協力銀行(JBIC)とみずほコーポレート銀行(みずほCB)の協調による総額200億円の融資契約が締結されたことを受け、みずほCBが供与する100億円の融資に関して、同行と貿易代金貸付保険の付保に関する追加特約書を締結……この追加特約書の締結により、JBICとの協調融資(償還期間2年未満)について、包括保険料率による保険の申込みができるようになります