大阪トラックの路線変更(2)

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『大阪トラックの路線変更(1)』

https://tenttytt.hatenablog.com/entry/2019/06/29/204100
の続きの話となります。

今回は6/8「貿易・デジタル経済大臣会合」から
6/28「デジタル経済についての大阪宣言」までの
“大阪トラック”“DFFT”といったキーワードの変遷を辿っています。


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なお、大阪トラック関連文章の目次は
https://tenttytt.hatenablog.com/entry/2019/06/29/223127
こちらのURLまでお願い致します。


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3. 貿易・デジタル経済大臣会合以降の“大阪トラック”


さて、外務省HPによる6/8貿易・デジタル経済大臣会合の要約文において、大阪トラックについて下記のように記されました。
https://www.mofa.go.jp/mofaj/ecm/it/page4_005041.html

〉河野外務大臣からは,本セッションの開会挨拶において,多角的貿易体制の礎たるWTOがその役割を十分に担い続けられるよう,急速に進展するデジタル化が国際貿易のあり方を根本的に変容させている現実にWTOルールを適応させる必要がある旨を述べました。

〉さらに,その観点から)昨年G20首脳がブエノスアイレスで支持したWTO改革の重要な一要素として,WTOでの電子商取引の取組を重視しており,G20大阪サミットでは,「大阪トラック」としてWTOでの電子商取引のルール作りを進めるべく,政治的な後押しを与えたいと考えている旨発言しました。

“合同セッション(8日)の概要(河野外務大臣,石田総務大臣及び世耕経済産業大臣が共同議長)”
外務省HP『河野外務大臣G20貿易・デジタル経済大臣会合(茨城県つくば市)への出席(結果)』


……ここにおいて、会合の主催者である河野外相が
“大阪トラック=WTO電子商取引ルール作り”という発言をG20の場で公に行い、かつDFFTとも別のものであると宣言した訳です。


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一方、外務省同様に貿易・デジタル経済大臣会合の主催者である総務省経産省のHP、更に会合の共同声明や議長声明では『大阪トラック』という言葉そのものが消滅しています。
https://www.meti.go.jp/press/2019/06/20190610010/20190610010.html経産省
http://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01tsushin08_02000106.html総務省

またG20大阪サミットのHPには、開催20日を切った6/10に初めて主要議題が掲載されましたが
https://g20.org/jp/summit/theme/
こちらにも以前首相が強調した『大阪トラック』という言葉は見当たりません。

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そして遂に6/14、首相がイランから帰国した直後のの閣議決定
『世界最先端デジタル国家創造宣言・官民データ活用推進基本計画の変更について』からも……
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/it2/kettei/pdf/20190614/siryou1.pdf

とうとう“大阪トラック”という単語は、6/28の復活まで、表舞台から完全に消え失せてしまっていたのです。

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……さすがに、ここまで地固めされてしまっていては、安倍首相側も今更話をひっくり返すことは出来ません。
6/28のデジタル経済に関する首脳特別イベントは、6/8貿易・デジタル経済大臣会合で形作られた経産省主導のストーリーに従い、1/25の『WTOの非公式閣僚会合の共同声明』への賛同をG20参加者に促すという形になりました。
G20開催直前の貴重な時間を対イラン外交に割かれ十分な根回しが出来ない状況下では、“大阪トラック”という言葉だけでも復活させることが限界だったのではないでしょうか。


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4. そして貿易・デジタル経済大臣合同でのDFFT


“大阪トラック”というプロセスを通じて構築するもの、と定義されていた“Data Free Flow with Trust”についてですが
こちらは一応貿易・デジタル経済大臣会合での主要議題の一つに位置付けられていたものの、極めて具体性を欠く形で俎上に上げられたようです。

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6/8の共同声明によると、


〉データ、情報、アイデア及び知識の越境流通は、生産性の向上、イノベーションの増大、より良い持続的発展をもたらす。

〉同時に、我々は、データの自由な流通が一定の課題を提起することを認識する。プライバシー、データ保護、知的財産権、セキュリティに関する課題に引き続き対処することにより、さらにデータの自由な流通を促進し、消費者及びビジネスの信頼を強化することができる。

〉信頼を構築し、データの自由な流通を促進するためには、国内的及び国際的な法的枠組みの双方が尊重されることが必要である。

〉このようなデータフリーフローウィズトラスト(信頼性のある自由なデータ流通)は、デジタル経済の機会を活かすものである。

〉我々は、異なる枠組みの相互運用性を促進するために協力するとともに、開発に果たすデータの役割を確認する。

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……この共同声明を読んで一言。
『具体的にはDFFTでどのように話を進めるの?』

※インド商工大臣からも
電子商取引に関する世界的な規則が制定される前に、DFFTに関する議論でプライバシーとセキュリティーの問題を十分に検討する必要がある

と、突っ込まれています。
https://m.economictimes.com/tech/internet/piyush-goyal-pushes-for-nations-sovereign-right-to-use-data-for-social-welfare/articleshow/69718455.cms

残念ながらDFFT自体には具体性は全く盛り込まれず、会合ではSociety5.0やAIなどの「デジタル経済を活用した具体的な理想像」のみがクローズアップされました。
その理想像に邁進するため、WTOでの電子商取引ルールに向けた共同声明を6/8の会合の場で出す……というのが経産省の計算だったようですが失敗、6/28のサイドイベントに引き継ぐことになったのです。


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……なお、G20つくばで開催されたバイ対談の結果を読む限り、今会合で提唱されたDFFTに対して前向きな態度を示したのは、何と本番の6/28にインド・南アフリカと共に共同声明への署名を避けたインドネシア一国のみだったようです。
http://www.soumu.go.jp/main_content/000625718.pdf(総務省HPより)

※このインドネシアの賛同すらも、実は
https://m.kontan.co.id/news/india-china-dan-prancis-dukung-counter-proposal-indonesia-terkait-dfft-di-g20?
『インド、中国、フランスは、G20でのDFFTに関連したインドネシアの反対提案を支持する』
Kontan紙(2019/06/24)によると、個人情報の人口割財産権の尊重と、DFFTと国内政策との摺り合わせ・知的財産権の尊重・セキュリティなどへの見直しを求めた上でのものであり、手放しの賛同ではなかったようです。


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以上が、当初G20大阪サミットでの主要議題と見なされていた、DFFTのプロセスとしての“大阪トラック”が一部省庁、とりあえず経産省主導で定義を変更され、主要議題から外されるに至った経緯です。
(もう一人の立役者、外務省の動きについては後日)

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ここに至り“大阪トラック”という言葉は以前の定義で考える事が困難となってしまいました。
今後はもう一つのポイント、DFFT自体を通じて
『“DFFTのプロセス”は具体性を持たされず、G20の場ではどうしてWTO電子商取引ルールの話に取って代わられたのか』の考察を行う事にしましょう。

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……なお、これからの注意点ですが
ここ以降“DFFT”として述べるものは、特別な言及が無い限り、“首相が1/23にダボス会議で提唱した大阪トラック”の中のDFFTではなく、あくまで“経産省などが提唱したDFFT”及びその派生の事だとお考え下さい。

データ流通/デジタル経済と、電子商取引/デジタル貿易を意図的に混同させた人たちのDFFTです。


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『大阪トラックの路線変更(3)』
に続きます。
https://tenttytt.hatenablog.com/entry/2019/06/29/205138

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