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『首相欧州訪問と欧州議会選挙』のおまけとして。
なお、本論に当たる『首相欧州訪問と欧州議会選挙』については、下記URLにある目次をご覧頂ければ幸いです。
https://tenttytt.hatenablog.com/entry/2019/05/23/194237
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この文章と関連して、大阪トラックについても一連の文章を作成いたしました。
https://tenttytt.hatenablog.com/entry/2019/06/29/223127
目次はこちらのURLまでお願い致します。
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前回の『首相欧州訪問と欧州議会選挙(5)』で
〉“大阪トラック”声明の成否は、ファーウェイへの禁輸措置の末、主導権をアメリカに握られてしまいました
と書きました。
一般的には“大阪トラック”とファーウェイ制裁が無関係と考えられているようですので、その理由について。
- 1.『大阪トラック』の一般的予想
- 2. 新ガバナンスでも個人情報の完全保護でもなく
- 3. 自民党政務調査会の『第一次提言』から見る大阪トラック
- 4. ロードマップとしての“大阪トラック”と、ファーウェイ制裁
- 5. おわりに:
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1.『大阪トラック』の一般的予想
現在、デジタル関係の専門家やこの方面に強みを持つ政治家により伝えられる『大阪トラック』の予想についてをまとめると、
1) 新たなデータガバナンス構築という考え方
……ダボス会議での首相による
〉データ・ガバナンスに焦点を当てて議論するトラック、大阪トラックとでも名付けて、この話合いを、WTO(世界貿易機関)の屋根の下、始めようではありませんか。
(中略)
〉そこで、私たちがつくり上げるべき体制は、DFFT(データ・フリー・フロー・ウィズ・トラスト)のためのものです
という一連の発言のうち特に“ウィズ・トラスト”の部分、即ちデータガバナンスの枠組みを重要視し、
◎現行のデータガバナンス・ポリシーの3つの主流、
- (国内外を問わず)収集した個人情報を自らが独占管理し、それらのビッグデータを国内企業により積極活用させる一方で、国外との情報共有を拒否する中国
- 個人情報について、個人それぞれが使用可否を判断した上で活用出来るよう、収集活用する側に対して特に厳しいルールを設定するEU
これらに対抗する新たなデータガバナンスを立ち上げ、ASEANなどで運用すること。
2) データの種類による流通基準の設定
特に機密・知産・個人情報保護の取決め
ダボス会議での
〉一方では、我々自身の個人的データですとか、知的財産を体現したり、国家安全保障上の機密を含んでいたりするデータですとかは、慎重な保護の下に置かれるべきです。
〉しかしその一方、医療や産業、交通やその他最も有益な、非個人的で匿名のデータは、自由に行き来させ、国境をまたげるように、繰り返しましょう、国境など意識しないように、させなくてはなりません。
〉そこで、私たちがつくり上げるべき体制は、DFFT(データ・フリー・フロー・ウィズ・トラスト)のためのものです。非個人的データについて言っているのは申し上げるまでもありません。
という首相発言をそのまま受け止め、
◎国際的なデータ流通社会を前提として、そのうち『個人・知的財産・機密情報』を区分けして完全に保護するルールを提言すること。
……とりあえずこの1) 2)の二つが一般的となっているようです。
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※更にダボス会議の丁度前日(2019/01/22)に経団連が発表した
『新たな時代の通商政策の実現を求める
―世界貿易機関(WTO)の改革を中心に―』
http://www.keidanren.or.jp/policy/2019/004.html
こちらに引きずられる形で、
◎以前から提唱されている電子商取引の円滑化・自由化、信頼性構築など現実に則した形に、WTOの電子商取引ルール改定を呼びかける事
を“大阪トラック”に含める方もいるようですが、こちらはさすがに無視します。
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※2019/06/16追加:
なんと、この文章作成時には無視していた
“大阪トラック=WTOの電子商取引ルール作り”という解釈が、6/8のG20貿易・デジタル経済大臣会合の場以降主流となってしまいました。
https://tenttytt.hatenablog.com/entry/2019/06/16/114924
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この1) の捉え方では、
中国メーカーの締め出し、あるいは中国による機密情報収集の恐れの側面から論じられるファーウェイ制裁と“大阪トラック”に関係はあまり見られませんし、
2) では『機密・知産・個人情報の完全保護』という“大阪トラック”とファーウェイ制裁は全く同じ方向を向いている、と言えるでしょう。
そのため、ファーウェイ制裁がG20での“大阪トラック”議案を牽制している、という発想がなかったのではないか、と思われます。
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2. 新ガバナンスでも個人情報の完全保護でもなく
しかし1) 新ガバナンス構築という捉え方の問題点は
他国による既存のデータガバナンスに対抗するような提案は、ダボス会議やG20サミットの目玉としては相応しくない、という事です。
前回のサミットでは米中貿易の対立ゆえに採択されなかった
『全ての不公正な貿易慣行を含む保護主義と闘う』
という言葉にこだわり続け、今年に入ってのイギリス・スペイン訪問の際にも共同声明に盛り続けた、国際協調重視の立場の首相が、
データガバナンスシステムを他国に対抗して構築、とりあえず既にシステム確立した国に干渉しない場所で施行する事を、新たなG20サミットの目玉として提唱するとは考えがたい、と思われます。
また、2) 機密・知産・個人情報の完全保護ルールという捉え方については、実は発言内で
〉医療や産業、交通やその他最も有益な、非個人的で匿名のデータは、自由に行き来させ、国境をまたげるように
と語っております。
実は非個人的処置を施した個人情報は「最も有益な非個人データ」であり、国際的に収集・活用される対象としていることに注目すると、
実は“大阪トラック”では発言の印象とは裏腹に、個人情報がデータとして収集されるべきであり、活用の際に非個人的処置を施せば良い、という考え方が前提にあるのです。
……それ故に、私は“大阪トラック”とは
現在別個の主流システムでデータガバナンスを行う各国のポリシーを尊重しながら、全ての収集データの自由な流通を段階的に推進するため、
WTOの屋根の下で「データ収集ルール」「収集後のデータ取扱いルール」の両者のガイドライン、更に各国の取組進捗に合わせて前者→後者に向かうためロードマップまで視野に入れた提言を行うものではなかったか、と考えています。
※後者の「データ収集後の処理」状況が他国のデータガバナンス・ポリシーに抵触しないものとなれば、前者の「収集に関する制限」は必要性を減らせ、より多くのデータ収集・活用が可能になる訳です。
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3. 自民党政務調査会の『第一次提言』から見る大阪トラック
ここで、自民党政務調査会が2019/04/23に作成した
デジタル・プラットフォーマー(Google・Amazonなど)を取り巻く課題と対応策についてまとめられたレポート、
『デジタル経済における公平・公正なルールづくりに向けて(第一次提言)』(以下『第一次提言』)
自民党HPより
https://www.jimin.jp/s/news/policy/139477.html
こちらをご覧下さい。
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〉……デジタル・プラットフォーマーは、21 世紀型デジタル資本主義を象徴する存在となっている。プラットフォーマーを通じて、消費者は飛躍的な利便性の向上を享受でき、事業者は海外を含む大きな市場にアクセスできる。
〉他方で、プラットフォーマーは、独占化しやすく、その独占的な地位が濫用されれば、消費者や事業者に悪影響を及ぼすとの懸念が国際的にも指摘されており、世界的にも公平・公正なルールづくりが進められている。
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デジタル・プラットフォーマーとはまさに電子情報を収集・活用している自国内集団であり、彼らに対するそれぞれの国家の対応こそデータガバナンスの土台である訳ですが、
今回のレポートの主旨は、新しい日本のデータガバナンス体制について
- 事業者に対する独占優位・消費者に対する個人情報の透明性確保などに対する、公正取引委員会主導の対応策
- 公正取引委員会の活動を補完する法整備
- 国外との諸制度を調整し、異なる所属国家による競争環境の違いを削減するための専門機関設置
などを提案しています。
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そして、「5. イノベーション促進」の章を見てみると、興味深い記載があります。
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〉21 世紀型のデジタル資本主義において、幅広い国民が成長の果実を受けるためには、何よりも我が国が世界に先駆けてイノベーションを生み出すことが重要である。
〉上記のデジタル・プラットフォーマーに関するルール整備も、あくまでデジタル経済におけるプラットフォーマーの取引の公正性・透明性を確保することで、競争を促すためのものであり、GAFA など特定のプラットフォーマーを規制することを目的とすべきではない。
〉また、経済社会のデジタル化が、世界を便利で革新的なサービスが溢れ、イノベーションが次々生み出される「ユートピア」とするのか、国家が全面に出て監視社会を強く意識する「ディストピア」となるのか、世界的に大きな岐路に立っており、その意味でも、安倍総理がダボス会議で表明された通り、我が国として DFFT(データ・フリー・フロー・ウィズ・トラスト)をリードしていくことが重要である。
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この『第一次提言』で主題となったプラットフォーマーへの取組も、これらの地ならしの末生まれるデータガバナンスも、共に日本国内のための整備に過ぎず、
安倍首相が“大阪トラック”と呼んだ「WTOの屋根の下でのDFFTの枠組み」自体とは別のものである事がここでも明示されています。
更にこの『第一次提言』から読み取れる事として、
- “大阪トラック”では個人情報も経済社会のデジタル化に際して「国際的に活用されるべき」対象であること
- “大阪トラック”の目的の一つが、国家による個人情報監視社会の蔓延防止であること
- 日本国内のデータガバナンスの整備には、プラットフォーマーへの組織整備・法整備が必須であるが、そこでは国外との制度調整が重要視されていること。つまり日本国内の新しいデータガバナンスは米中EUの先行するガバナンス・ポリシーに対抗するものではないこと
があります。
……この『第一次提言』からも、“大阪トラック”がデータガバナンス自体を再構築したり、単に機密・知産・個人情報保護の国際流通基準を作ることに留まるものではなく、
国家により異なるデータガバナンス、特にアメリカ・中国・EUという3つの主要ガバナンス・ポリシーを尊重する前提で、
あらゆる国際データ流通の開放を段階的に拡充させるため、WTOの定める基準あるいはロードマップの下、各国家に対してデータガバナンスの修正制度を設ける事を指していたのではないか、と考えられるわけです。
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※あくまで『第一次提言』自体は自民党政務調査会の私見であり、首相の提唱する“大阪トラック”とは異なる立場から考え出された内容ではあります。
ただし、日本の国内政策…“Society5.0”…こちらについては、後日別の形で文章にしようと思っています…を推進する立場から考え出された試案ですら、上記のように国際的な摺り合わせという視点を持っており、そこからもG20で首相が提言する内容との接点は十分だと考えられます。
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4. ロードマップとしての“大阪トラック”と、ファーウェイ制裁
そして、『第一次提言』で具体的に言及されていること(それ自体は日本版データガバナンスについての事ですから)の裏にある考え方、例えば
- 現行法制度の不備を突くプラットフォーマーの暴走に対する懸念
- 個人による情報保護能力の限界に対する懸念
- そして何より、他国がプラットフォーマーを介して自国の情報保護を阻害した上、国権によりその行為を正当化する懸念
これらのような、自国ガバナンスポリシーに抵触する他国の独自政策への懸念を払拭する方法として、
国家間の打ち消し合いではなく、WTOという国際機関の下で調整・すり合わせを行い合う仕組み作りこそ“大阪トラック”のひとつの狙いだったではないか、と考えています。
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そして非個人化処理を行う前提で、個人情報が積極的に収集されることを拒否しない以上、
“大阪トラック”で摺り合わせなければいけない各国のガバナンスポリシーには、当然他国情報を無秩序に収集するバックドアに関するものも含まれるわけで、
当初の“大阪トラック”ではこのファーウェイを含めたバックドアを単に否定するのではなく、入手したデータの段階的活用まで含めて透明化・国際化ルールの俎上に上げる予定『だった』のではないか、と考えられるのです。
そしてアメリカによるファーウェイ制裁は、
アメリカが自国のガバナンスポリシー維持のために独自政策を打ち立て、他国に強要するという、“大阪トラック”の根幹を否定するやり方であり
トランプの真意や“大阪トラック”に対する感想はともかく、G20サミットでの主要議題採択に対する強力な牽制となっていた訳です。
……出来れば、G20の場で“大阪トラック”共同声明に誘導するため放った、中国向け牽制球であれば良いのですが……
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5. おわりに:
『首相欧州訪問と欧州議会選挙』からひと月ほど更新しない予定だったのですが、先週は情報待ちという事情があり、その間にひと文章書くこととしました。
本来ならばPV目当てに欧州議会選挙の結果でも書くべきなのでしょうが、選挙結果は本来の主題ではないですし、
欧州議会主流二派の大幅低下(54%→43%。但しマクロン所属政党が所属するALDEが加われば過半数だ、という向きもあるようです)やイタリア・フランスのポピュリスト右派躍進、ドイツがヘンテコリンな流れになるのは下馬評通り、という事で。
V4諸国ではポーランド与党PiSが踏ん張ったこと、スロバキアで新大統領チャプトバ(6月就任予定)を擁するEU寄りの野党PS-SPOLUが与党SMER-SDを上回ったこと位でしょうか。
『首相欧州訪問と欧州議会選挙』の流れとしては、
むしろ本日(2019/05/27)の日米首脳会談(特に冒頭共同記者会見で首相が述べ、トランプが触れなかったG20について)や、トランプ訪日が偶然欧州議会選挙の時期と重なっていたことに言及したいところですが……
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……いや、本当であれば5/22.23に行われたOECD閣僚理事会について調べるべきでした。
https://www.mofa.go.jp/mofaj/ecm/oecd/page4_004992.html
デジタル関連やWTOの話、更にスロバキアのペレグリニ首相が今年の議長だった事など色々盛り込まれてますね。沖縄・太平洋方面の情報収集に明け暮れて、すっかり見逃しておりました。
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