外交青書2019: 補足…日米安全保障協議(2019/04/19))

外交青書2019の要旨』
https://tenttytt.hatenablog.com/entry/2019/04/24/231915
の補足として作られた、2019/04/19に行われた日米安全保障協議委員会(外相+防衛相)共同発表の内容を、前回(2017/08/17)のものと比較しながら検討するための文章になります。

外交青書2019では対北朝鮮・対中国の融和姿勢が見られる旨の報道が散見されましたが、
実際の防衛・安全保障を最大相手国であるアメリカと確約するべく行われたこちらの会合では、表現等の変更はあれ、そのような実際の流れは認められません


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日米安全保障協議委員会共同発表
(2019/04/19)
https://www.mofa.go.jp/mofaj/na/st/page4_004913.html

〉2019年4月19日,日米安全保障協議委員会(SCC)は,河野外務大臣,岩屋防衛大臣,ポンペオ国務長官,シャナハン国防長官代行の出席を得て、ワシントンDCで開催された。


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1.「自由で開かれたインド太平洋」を共通ビジョン化


※前回では日本のイニシアティブとして留意するに留めていた「自由で開かれたインド太平洋戦略」だが、今回は「自由で開かれたインド大平洋」を共通ビジョンとして認識

※2019/06/17訂正。訂正前は

前回では日本のイニシアティブとして留意するに留めていた「自由で開かれたインド大平洋戦略」を、
今回は共通ビジョンとして認識

と書いていましたが、これでは今回「戦略」を認識した用に誤解を受けるため訂正しました。


〉会合において,閣僚は,全ての国が主権を有し,強固で,かつ繁栄する地域のための「自由で開かれたインド太平洋」という共通のビジョンを実現するという力強いコミットメントを確認した。

日米安全保障条約が署名されてから数十年の後,日米同盟は,インド太平洋地域の平和,安全及び繁栄の礎であるとともに,一層複雑さを増す安全保障環境の中,盤石であり続ける。

〉日米同盟は,ルールに基づく国際秩序を堅持し,日米両国民の共通の価値を促進するために不可欠な役割を果たし続ける。
(中略)

〉閣僚は,国際的なルール,規範及び制度を損なおうとする地政学的競争及び威圧的試みが,日米同盟及び自由で開かれたインド太平洋という共通のビジョンに対する挑戦であるとの共通の懸念を認識した。
(中略)

〉閣僚は,日本の安全及びインド太平洋地域の平和と安定を確保するに当たって米国の拡大抑止が果たす不可欠な役割を認識した。
(中略)

………………………

参考:前回の共同発表(2017/08/17)

https://www.mofa.go.jp/mofaj/na/st/page4_003204.html

〉閣僚は,地域における他のパートナー,特に,韓国,オーストラリア,インド及び東南アジア諸国との間で,三か国及び多数国間の安全保障及び防衛協力を進めるために同盟が現在行っている取組を強調した。

〉閣僚は,地域における力強いプレゼンスを維持することに対する米国の継続的なコミットメント及び「自由で開かれたインド太平洋戦略」によって示された日本のイニシアティブに留意しつつ,ルールに基づく国際秩序を促進するために協力することの重要性を強調した。

〉閣僚は,韓国との協力に関し,ミサイル警戒並びに対潜作戦及び海上阻止作戦訓練を含む三か国間の訓練を拡大すること及び情報共有を強化することの必要性を強調した。




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2.北朝鮮への対応


※「最も強い表現で非難」「圧力」という過激な発言は無くなっていますが、実際行動の変更は見られず。

ただし「組織的な人権侵害」の一節もこの日米協議で省かれた事は、大量破壊兵器等破棄などの北朝鮮政権の行動(政権体制の変化を伴わなくとも良い)が、日米による制裁解除に直結することを“前回よりも強調した”ということでもあり、注意を引きます。

最も、外交青書2019要旨(2019/04/24公表)では
北朝鮮による拉致問題は、日本の主権と国民の
生命・安全に関わる重大な問題であると同時に基本的人権の侵害という国際社会全体の普遍的な問題である」と銘記していますので、この会談でのみ日米の歩調を合わせるため、あえて一節を外した疑いがあります。


〉閣僚は,関連する国連安保理決議に従った,完全な,検証可能な,かつ不可逆的な方法での北朝鮮の全ての大量破壊兵器弾道ミサイル並びに関連計画及び施設の放棄の実現に向けた国際社会による現在進行中のコミットメントの重要性を改めて表明した。

〉閣僚は,米朝首脳会談を通じたものを含む,朝鮮半島の最終的かつ完全に検証された非核化を達成するための米国の外交努力を歓迎した。

〉閣僚は,特に,違法な「瀬取り」への対処における,国連安保理決議の履行に係る国際的な取組を主導することへのコミットメントを確認するとともに,国連安保理決議の履行に参加する他のパートナー国との協力を強化し,向上させることにコミットした。

〉閣僚はまた,北朝鮮において拘束された米国民を帰還させるための成功した取組を認識するとともに,北朝鮮に対し,日本人拉致問題を即時に解決するよう求めた。

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参考:2017年共同発表

〉閣僚は,北朝鮮による度重なる挑発並びに核及び弾道ミサイル能力の開発を最も強い表現で非難した。

〉これらは,新たな段階に入っており,地域及び国際の平和と安定に対する増大する脅威となっている。閣僚は,これらの脅威を抑止し,対処するため,同盟の能力を強化することにコミットした。

〉閣僚はまた,北朝鮮に対し,核及び弾道ミサイル計画を終了し,完全な,検証可能な,かつ,不可逆的な朝鮮半島の非核化を実現するための具体的な行動を北朝鮮にとらせるべく,他国と協力して,北朝鮮に対する圧力をかけ続けることで一致した。

〉閣僚は,国際社会に対し,新たに採択された決議第2371号を含む国際連合安全保障理事会決議を包括的かつ完全に履行するよう求めた。

〉閣僚は,中国に対し,北朝鮮に一連の行動を改めさせるよう断固とした措置をとることを強く促した。

〉閣僚は,北朝鮮に対し,組織的な人権侵害を止めるとともに,日本の拉致被害者及び米国市民を含む北朝鮮に拘束されている全ての外国人を即時に解放するよう求めた。




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3. 東・南シナ海における中国牽制


※「中国」の記載は省かれましたが、内容はほぼ2017年同様。むしろインフラ投資など、軍事に囚われない対抗政策への言及も行われています。
なお2017年における国際法云々については、今回は「ファクトシート III」に別途記載した形になっています。

〉閣僚は,東シナ海及び南シナ海における現状を変更しようとする威圧的な一方的試みに関し,深刻な懸念及び強い反対の意を表明した。

〉閣僚は,東シナ海の平和と安定を確保するために協働する決意を新たにするとともに,日米安全保障条約第5条が尖閣諸島に適用されること及び両国が同諸島に対する日本の施政を損なおうとするいかなる一方的な行動にも反対することを再確認した。

〉閣僚は,地域のパートナー国との共同演習及び寄港,海洋状況把握及び法執行といった分野における能力構築,並びに質の高いインフラを通じた持続可能な経済開発及び連結性の促進を通じたものを含め,自由で開かれたインド太平洋の実現のために二国間及び多国間で協働することへのコミットメントを新たにした。
(中略)

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参考: 2017年共同発表

〉閣僚は,東シナ海における安全保障環境に関し,継続的な懸念を表明した。

〉閣僚はまた,2016年8月初旬の状況を想起した。閣僚は,東シナ海の平和と安定を確保するために協働することの重要性を再確認するとともに,日米安全保障条約第5条が尖閣諸島に適用されること,また,日米両国は,同諸島に対する日本の施政を損なおうとするいかなる一方的な行動にも反対することを再確認した。

〉閣僚は,南シナ海における状況について深刻な懸念を表明し,埋立て及び係争ある地形の軍事化を含め,現状を変更し緊張を高める,関係当事者による威圧的な一方的行動への反対を再確認した。

〉閣僚は,仲裁を含む法的及び外交的プロセスの完全な尊重を通じた海洋紛争の平和的な解決,並びに,航行及び上空飛行の自由その他の適法な海洋の利用の尊重を含め,海洋法に関する国際連合条約に反映されている海洋に関する国際法の遵守の重要性を改めて表明した。

〉この関連で,閣僚は,2016年7月12日付けの仲裁裁判所の判断を想起した。閣僚は,南シナ海における行動規範(COC)の枠組みに関する承認を認識し,有意義で実効的で法的拘束力がある行動規範の妥結を期待する。
(中略)

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参考 2019年ファクトシート

〉日米同盟の深さと幅広さを認識し,閣僚は,追加的な二国間の協力の分野を詳述するファクトシートを発出することに合意した。
(中略)

ファクトシート III
自由で開かれたインド太平洋のためのパートナー国との協働

〉閣僚は,ASEANの中心性・一体性への支持,共同訓練・演習,能力構築,防衛装備・技術協力等を通じたものを含む東南アジアにおける多国間協力へのコミットメント及び東アジア首脳会議,ASEAN地域フォーラム及び拡大ASEAN防相会議を含むASEAN関連の枠組みへの支持を改めて表明した。
メコン地域の国の自律的かつ持続的な開発を支援するために,閣僚は,国境を越える犯罪及び取引を含む国境を越える共通の課題,地域の連結性,エネルギー安全保障,及びエネルギーシステムの更なる統合に対処するべく,地域の国々を支援するために,緊密に連携することにコミットした。
〉閣僚は,日米豪閣僚級戦略対話を通じたものを含む日米豪三か国間の継続的な協力及びハイレベル協議を歓迎するとともに,東南アジア及び太平洋島嶼
国での三か国共同演習及び能力構築の重要性に留意した。閣僚はまた,2018年の初めてとなる日米印首脳会合に満足の意をもって留意するとともに,マラバール2018やコープインディア2018等の重要な共同演習を強調した。こうした様々な三か国間の取組を踏まえ,閣僚は,日米豪印の四か国間の取組の定期化を歓迎した。閣僚はまた,英国及びフランスの地域におけるプレゼンスの向上を歓迎するとともに,航行の自由を支持する活動,寄港及び違法な「瀬取り」への対策を含む分野における一層の協力を要請した。
〉閣僚は,航行及び上空飛行の自由その他の適法な海洋の利用の完全な尊重を要請するとともに,これらの原則を支える活動の重要性を改めて表明した。

〉閣僚は,全ての当事者に対し,南シナ海における係争ある地形の非軍事化を追求すること,武力による威嚇又は武力の行使によらずあらゆる海洋紛争を平和的に解決すること,1982年の国連海洋法条約に反映された国際海洋法に基づき海洋に係る主張を明確にすること並びに法的及び外交的プロセスを完全に尊重することを要請した。
閣僚は,2016年7月の比中仲裁裁判の判断の両当事者にとっての重要性を強調した。閣僚はまた,国際法に完全に従うものであって,ASEAN
国が炭化水素資源開発及び軍事演習等に関し,自ら選択する国及び外国機関との間で協力する権利を堅持する南シナ海における行動規範の重要性を強調した。




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4: 浮いた一節に見られる韓国


〉閣僚はまた,日本,米国及び韓国の間での協力の重要性を強調するとともに,三か国間の安全保障協力及び訓練を促進するために協働することにコミットした。

※上記については、北朝鮮と東・南シナ海についての文章の間に唐突に組み込まれております。
2017年には「自由で開かれたインド太平洋戦略」の重要なパートナーとしておりましたが、この位置まで落ちております。なお、外交青書2019要約(2019/04/24公表)における「自由で開かれたインド太平洋」のパートナー諸国からも韓国の名は抜けていることを銘記しておきます。



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少し和んだところで、要注意事項を一つ。


前回との大きな違いは、実は細かい表現等ではなく
「自由で開かれたインド太平洋のビジョンを日米が『共有した』」ということです。


しかし、額面通り『共有』したと受け取ってはいけません。
特に、アメリカのビジョンでは元々インドまでに留まったイニシアティブであり、アフリカ大陸までこのビジョンには加わっていない事は念頭に置かねばなりません。

アフリカ大陸については、現在アメリカは“prosper africa”という別の直接投資型アプローチを推進しています。
https://www.whitehouse.gov/briefings-statements/remarks-national-security-advisor-ambassador-john-r-bolton-trump-administrations-new-africa-strategy/

日本側も、青書2019の要旨を読む限り、自由で開かれたインド太平洋の戦略対象から、アフリカ諸国は除外されているように見えます。

「…何でアフリカ?」と思う方もいるかも知れませんが、元々『自由で開かれたインド太平洋戦略』が初めて発表されたのは、2013年第5回アフリカ開発会議(TICAD5)の首相演説だったからです。