TICADとAUと

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外相外交演説及びTICADAU関連の一連の文章になります。他文章の目次は下記のURLまで。
https://tenttytt.hatenablog.com/entry/2019/03/28/203214
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前回、特に西サハラ問題のみの側面でTICAD(アフリカ開発会議)と河野外交演説の課題に触れました
https://tenttytt.hatenablog.com/entry/2019/02/05/235935
が、今度はTICADAU(アフリカ連合)について触れてみようと思います。

1.TICADの歴史について

https://www.ide.go.jp/Japanese/Publish/Periodicals/Africa/2017_13.html
『論考:TICADの変遷と世界——アフリカ開発における日本の役割を再考する——』 高橋 基樹
『アフリカレポート』2017年 No.55、pp.47-61

https://www.google.com/url?sa=t&source=web&rct=j&url=http://open_jicareport.jica.go.jp/pdf/11852696.pdf&ved=2ahUKEwj9-qyMpbvgAhVN57wKHQVlD2gQFjABegQIBBAB&usg=AOvVaw1gfgCUV3sZdWQaFW4_py2H&cshid=1550149567776
『アフリカ地域TICADプロセスの評価に係る調査研究(プロジェクト研究)ファイナル・レポート』
独立行政法人 国際協力機構(JICA)
三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社
2007年3月

TICADの歴史ついては、上記2つが詳しく述べているので、興味を持たれた方はぜひご覧下さい。
特に後者は2007年のレポートということもあり、投資ではなく支援の立場でTICADを捉えており、2000年代のアフリカ経済発達期における日本側の戸惑いについても言下に述べられています。


……ざっとTICAD(アフリカ開発会議)とは何か、またその変遷をまとめると、

  • 1990年代初頭、冷戦終了下で先進諸国がアフリカ支援から撤退する中、日本にアフリカ諸国の要人を招請して開発支援の方向性を話し合う会議としてTICADを開催。以降5年に一度、日本主催による国際会議が行われる事に。
  • 2000年代に入り、アフリカ連合(AU)が発足。連合体としてのアフリカ発展を目標とし、「オーナーシップ(自発的発展)」に向けたTICADの「パートナーシップ(国際的協調支援まで含めた協力)」を求める。のちAUが正式にTICAD共催者となるのは2010年。
  • 2000年代中盤のアフリカ経済発展を背景に、政府の支援よりも民間投資が重要課題に。この頃には中国からの投資が活発化しており、日本の民間側がアフリカ投資に消極的な実態が問題視される。
  • 2013年、5回目のTICAD開催。以降は3年に一度、日本とアフリカで交互開催に(2016年ケニアにて開催)。内容も民間投資環境整備を重視。また多角的なパートナーシップを通じて、アフリカ自身に発展のビジョンを見せようと特徴付ける形に。

こんな所でしょうか。特に第二次安倍政権以降、中国による経済中心かつ無秩序なアフリカ進出を念頭に置いた方針を採用している、という見方が出来ます。

※実は2000年代後期~2013年のTICAD5まで、ちょっとした空白期があります。一つの理由にAUの発足当時、主導権をリビアが握っていた事もあるのですが、ここでは触れないでおきます。

2.AUの現状と、外向きのアフリカ諸国

https://www.ide.go.jp/Japanese/Publish/Periodicals/Africa/2017_17.html
『論考: アフリカにおける経済統合――制度的な制約要因――』 箭内 彰子
『アフリカレポート』2017年 No.55、pp.92-104

一方、AU(アフリカ連合)の状況については、こちらが詳しいでしょう。

AUは2002年、アフリカ諸国の政治的・経済的統合の実現と紛争の予防・解決に向けた取組強化のため、前組織のOAU(アフリカ統一機構)が発展改組されて発足したものです。
言い換えれば、アフリカ諸国に対する規制統制力が前組織の頃から弱かった、という事です。そして今も…

現在アフリカ大陸には、大きく8つに分かれた地域共同体が存在しますが、それらを統合するためのAUの規則は、地域状況を考慮した緩やかなものとなっています。

実はアフリカ諸国の特徴として、諸国の距離の割に似通った文化・経済構成を持っているというのがあります。そのため、近隣諸国間の交易は利益が薄く、必然的に視点はアフリカ内よりも大陸外の先進国に目を向けやすいのです。

確かに、先進国や中国等から流入する民間の資本は、アフリカ諸国が発展するための貴重な源泉でもあります。また中国のような一見無秩序な投資は、一部有力者に対する利潤の高さだけでなく、その意志決定の迅速さ故にアフリカ諸国に深く浸透しているのです。


……このような、海外にばかり目を向ける諸国の視点を大陸内に戻し、アフリカ大陸内部である程度補完可能な産業構造を構築し直さない限り、AUは大陸全体を自立的に発展させることが出来ませんし、統合を通じた諸国への規制統制力を強化する事も叶いません。

更に、既にAU自身が自らの統合ロードマップを提示(具体的にはアブジャ条約の再確認)しており、2010年代後半からの目標には具体性のあるものが設定されている、という事情があります。

今年は地域間関税協定を大陸全体に拡大する事になっています(一応昨年、アフリカ圏自由貿易協定AfCFTAという形で44ヶ国の調印が行われました)。
4年後には大陸全体に及ぶ共同市場設立と、政策の共通化が待っているのです。


……結果として、AUは地域共同体統合への道を各国に示しながら、大陸外からの民間投資に依存し続ける状況に甘んじ、各国や地域共同体に対して十分な規制統制力を行使出来ない状況にあります。
そして自らのロードマップに追いつくため、焦りを感じています。


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(2018/02/28追加)

アフリカが自立的に発展するには、アフリカ諸国の大陸内向け産業が発達しなければなりません。

安価な工業拠点や原料を「持たない国」の経済が発展しないだけでなく、「持つ国」の市場も大陸外製品に占められてしまうからです。

先進国等が「持つ国」に投資したのと同じ形で、「持つ国」が「持たない国」に投資し産業を育成するサイクルに至るまで、アフリカ諸国の経済構造をシフトする。
統合されたアフリカのオーナーシップとは、突き詰めればこういう事なのです。

ただし、その過程では「持つ国」の経済発展により芽生え始めた国内産業が、「持たない国」からのより安価な流入により途絶えてしまう事への危惧もあります。
統合アフリカのオーナーシップを日本が支える、ということは、犠牲になる産業の怨恨を飲み込むことではあるのです。
https://www.google.com/url?sa=t&source=web&rct=j&url=https://www.jetro.go.jp/biznews/2018/03/e82c2b8896041521.html&ved=2ahUKEwjKsMnpl8_gAhWyJaYKHfHkCcsQFjACegQIBhAB&usg=AOvVaw3guxs2pubmNmkRapkzw3sZ&cshid=1550833412553
『アフリカ大陸自由貿易圏、ナイジェリアは署名を見送り』ジェトロ短信2018年03月30日

「国内製造業や起業家を弱体化させ、ナイジェリアを完成品のごみ捨て場にするようなものには同意できない」ナイジェリア ブハリ大統領


……繋がりの悪い一節ですが、追加させて頂きます。この部分が抜けてしまうと、TICADと他国の対アフリカ戦略の違いも見えなくなるので。



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次回、『TICADAUと(2)』に続きます。
https://tenttytt.hatenablog.com/entry/2019/03/03/004405

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