第四次安倍改造内閣の回顧(4)

※※※※※※※※※※※※※※※

『第四次安倍改造内閣の回顧(3)』
https://tenttytt.hatenablog.com/entry/2019/10/10/144308
の続きとなります。


なお一連の文章の目次については、下記ページまで
https://tenttytt.hatenablog.com/entry/2019/10/10/135429


※※※※※※※※※※※※※※
……………………………………

韓国向け3品目の輸出管理厳正化について「韓国が不適切な管理を行っている」或いは「大量破壊兵器原料の危険国家への移出を止めさせたい」という国際的アピールを目的としていたなら、
安全保障に関するアナウンスを経産省主導で行ったことは失敗と言えます。

輸出管理があくまでワッセナーアレンジメント等に基づく軍事転用品の管理不備を指摘するのが目的であれば……国内政策担当の経産省のみが管轄だと勘違いされる方も多いようですが……アレンジメントに対応する三省庁、則ち経産省・外務省及び防衛省からそれぞれ指摘するべきものだからです。

特に管理品目の具体的検討・提案を行う防衛省からの「3品目は大量破壊兵器のデュアルユース品目」というアナウンスが無い状況では、韓国側から「日本独自の思惑で経済制裁をしている」と反撃されるのも当たり前でしょうし……

何より、日本政府が「韓国政府がデュアルユース品をどのように管理しているのか」自体を問い詰めたという話を耳にした事がありません。
もしそうであれば7/12、経産省における日韓官僚の面談も、韓国のキャッチオール制度の国内法・人員上……つまり文政権における政策上の欠陥を「説明」ではなく「糾弾」しなければならないものです。

ましてワッセナーアレンジメント自体は法的拘束力に基づく国際約束を伴わない紳士協定であり、
アレンジメントの枠組みの中から他国の政策不備を指摘糾弾することは可能であっても、政策不備を理由に自国の貿易政策変更まで踏み切る事は本来アレンジメントの性格を逸脱する行動です。


………………………………………

もし「基本的価値に基づく国際秩序に挑戦する文在寅政権」だけに攻撃対象を留めるのではなく、経済制裁を「韓国」に課することが目的となってしまったなら話は別ですが。


※※※※※※※※※※※※※※※

……先日発表された令和元年版防衛白書により、この岩屋氏の沈黙の理由が解明されました。
河野新防衛相のチェックが間違いなく入っている防衛白書に、今件の記載が無いのです。

つまり岩屋氏だけでなく新任の河野氏も、この件について公的なアナウンスを行わない方針であること。
韓国に対する輸出管理厳格化に最初から経済制裁を匂わせるイニシアティブが閣内で醸成されていたのです。


まさに、この時期の

・岩屋氏が発言しなかった輸出管理厳正化
・岩屋氏が強行した日韓防衛閣僚非公式会談

この双方に付随する出来事が、文在寅政権に留まらず『韓国』全体を制裁する政策へと日本をシフトさせるために利用された、ということです。


※※※※※※※※※※※※※※

『第四次安倍改造内閣の回顧(5)』に続きます。
https://tenttytt.hatenablog.com/entry/2019/10/10/151259

第四次安倍改造内閣の回顧(3)

※※※※※※※※※※※※※※※

『第四次安倍改造内閣の回顧(2)』
https://tenttytt.hatenablog.com/entry/2019/10/10/140411
の続きとなります。


なお一連の文章の目次については、下記ページまで
https://tenttytt.hatenablog.com/entry/2019/10/10/135429


※※※※※※※※※※※※※※※
………………………………………

問題は、韓国でした。


2019年5月の日韓関係といえば、いわゆる徴用工判決に関する仲裁委員会の開催要請に代表される、外交上の対立姿勢を日本側が明らかにした時期ではありました。

徴用工判決以降の韓国は、文在寅政権による「基本的価値に基づく国際秩序に対抗する秩序」が自国の司法や国民レベルまで浸透し、まさに第四次安倍改造内閣が全力で対処しなければならない状態だったと言えます。

実際には国民レベルへの反秩序の浸透は、累代政権や共同体が行ったものでしょうが、司法あるいは防衛現場への介入を通じて、いわば地獄の釜の蓋を開けたのが文政権であったのは疑いのない所でしょう。


…………………………………

一方、米韓関係については電話会談の漏洩事件などによる冷却状況下にありましたが、未だ決定的な対立は無く、特に軍事面では繰り返し日米韓の連携を提唱……というより6/1国防総省が発表した『インド太平洋戦略報告書』において、更なる連携強化を求めています。

結局国際秩序のリーダーとして不適切なトランプ政権の外交方針は、日本外交を脱却させるには役立ちましたが、一方で「韓国」と日本の連携は現状の山積する問題に関わらず維持せよ、という残念な方向性を持っていた訳です。


※※※※※※※※※※※※※

ここに至り、第四次安倍改造内閣は「対処出来るのは相手の政権まで」という限界を越え、国家を扇動した文政権だけではなく「韓国」そのものに対しても、トランプ政権の意向を問わず対抗する事を検討する段階に入ったと思われます。


……ただし、どう対抗するか。

  • あくまで従来通り国際秩序に則り、文政権の国際的信用を省庁各分野で削ぐ形をとるか。
  • 外交の更なる飛翔を図り、トランプ政権の如く積極的に「韓国」の非軍事的焦土化に向けた制裁までシフトするか。


この2019年5~6月は、閣内外においてこのような意見対立が存在したと思われます。


※※※※※※※※※※※※※※※

省庁による韓国への対抗例の一つが、7/1経産省より発表された韓国向け3品目の輸出管理厳正化政策でした。既に5月下旬には政策が決定していたと最近報道されたように、この5月の外交政策転換……外交の新たな飛翔の現れと言えるものです。


…………………………………

ところでこの輸出管理厳正化政策について、公には「安全保障の一環」と語っていますが、実際のところ韓国のみならず、第三国の識者まであっさり「輸出規制」と受け取っています。好意的な識者ですら、今までの日韓関係に言及した上で、改めて日本の輸出規制・対韓制裁の正当性についてを認めている状況です。


この理由について、韓国の抗議やマスコミによる扇動もあるのですが、根本的な日本政府側の問題点が一つ。
本来この政策についてアナウンスを行うべき防衛相が、沈黙を守ったことです。


※※※※※※※※※※※※※※

『第四次安倍改造内閣の回顧(4)』に続きます。
https://tenttytt.hatenablog.com/entry/2019/10/10/150104

第四次安倍改造内閣の回顧(2)

※※※※※※※※※※※※※※※

『第四次安倍改造内閣の回顧(1)』
https://tenttytt.hatenablog.com/entry/2019/10/10/135945
の続きとなります。


なお一連の文章の目次については、下記ページまで
https://tenttytt.hatenablog.com/entry/2019/10/10/135429


※※※※※※※※※※※※※※※
………………………………………

2019/05/02、アメリカ・ポンペオ国務長官による対イラン原油輸入制裁免除の期限失効宣言を皮切りに、トランプ大統領の意向による国際状況への揺さぶりが大きくなりました。

中国・イランに対する制裁、或いは北朝鮮の短距離ミサイルに対するコメントを通じ、同盟国側にも揺さぶりをかける……国際秩序の盟主自らG20サミットを目前に、国際秩序の基盤たる基本的価値を共有する各国家のビジョンまで不透明にする行動に出たのです。


………………………………………

トランプ政権の行動に際して、第四次安倍改造内閣外交政策は方針転換の準備に入ったようです。

自由貿易の旗手として特にアメリカと各国の調整に努め、国際秩序への挑戦に協調して応じる立場を退き、あくまでアメリカを中心とする国際秩序の余慶に与る二国間関係への方針転換。

この転換については、G20つくば貿易・デジタル経済大臣会合の議長声明やそれに先立つOECD閣僚会合での姿勢、或いはTICAD7横浜行動計画の姿勢など、転換に鋭く対応した省庁主導の政策にも現れています。


………………………………………

特にトランプ政権が外交政策を転換した国、例えば対北朝鮮・イラン・ロシアに対してこの時期に行われた、奇妙で連結性に欠ける二国間交渉も、この方針変換が根底にあったと考えないと整理がつきません。

  • 北朝鮮に対し、条件を付けない首脳会談を提唱
  • イランに対し、対米融和を求める無理目の首脳会談
  • ロシアに対し、二島返還や平和条約締結には見切り


これらの外交は長年解決の目処の立たなかった論点、あるいは自国の火種を持ち込む国家との関係をリセットし、第三者に判りにくい形で撤退あるいは他国に主導権を譲渡していくためのものと考えられるのです。

※イランについて、2019/09/25国連総会での日イラン・日米首脳会談の報道から「日本は米・イラン外交に未だ積極的」と思われる方には、国連総会ではドイツ他欧州諸国が同様の会談を行っていることを付け加えておきます。

10/1の防衛閣僚電話会談も、一見日本の積極性をアピールするように見えながら、実際の会談内容はイラン海域への自衛隊派遣に対する大義名分を得ただけ、という側面もあるのです。


対米あるいは対中国の二国間交渉については、5月以降の大きな変化は有りませんでしたが、
これは既に米中対立が深刻な状況下で、日本の政策変更がアメリカ自身を±どちらの方向にも刺激しないよう配慮した結果に過ぎないでしょう。

G20での会談を含め、渦中にある米中双方水入らずでの話し合い。それ以外のアクションを望まなかった訳です。


※※※※※※※※※※※※※※

G20大阪サミット等国際会議が終了し次第、「基本的価値に基づく国際秩序」という多国間イニシアティブを後退させ、各国個別のイニシアティブで柔軟に二国間外交を展開出来る体制への変換を図る。

多国間イニシアティブを尊重しないトランプ政権の外交に鋭く対応するためのものです。


※※※※※※※※※※※※※※※

問題は、韓国でした。


※※※※※※※※※※※※※※※

『第四次安倍改造内閣の回顧(3)』に続きます。
https://tenttytt.hatenablog.com/entry/2019/10/10/144308

第四次安倍改造内閣の回顧(1)

……2018/10/02~2019/09/11、第四次安倍改造内閣時代の外交を振り返る文章です。

この時代の外交を語る際の代表閣僚は、安倍首相でも河野前外相でもなく、あからさまに主役とは言い難い岩屋前防衛相であったと考えています。

6/1日韓防衛閣僚非公式会談を境とした岩屋氏の評価の変化は、実は安倍首相周辺における外交勢力図の変化の現れではないか、というのが私の思いだからです。


※※※※※※※※※※※※※※※

一連の文章の目次については、下記ページをご覧ください。
https://tenttytt.hatenablog.com/entry/2019/10/10/135429


※※※※※※※※※※※※※※※
※※※※※※※※※※※※※※※

この第四次安倍改造内閣の発足した時期は、G20大阪サミットやTICAD7といった日本が主催する国際会議が複数控えていました。
それに伴う……かは判りませんが、「自由で開かれたインド太平洋『戦略』」から『戦略』の文字が消えました。

日本外交の仮想敵も、中国あるいは北朝鮮という具体的な国家から「基本的価値に基づく国際秩序に対抗する秩序による挑戦」という概念的なものへと変化しました。


………………………………………

第四次安倍改造内閣期の外交は

  • 国際秩序への支援を前提とし、それに反する新たな秩序を作り出し挑戦する者…テロリズム・不寛容主義から海賊行為、債務の罠で相手を破綻させる者まで様々…に国際的に協力して対処する

という、G20サミット主催国に相応しい厳格さと寛容を併せ持つものでした。

これまで国際秩序を無視してきた中国や、中国を見習う新興諸国に対し、更なる圧力と協力を通して秩序側への回帰を一歩ずつ促そうとした訳です。

実際中国政府はこの流れに便乗し、隣国干渉に対する非難を無視しながら、途上国への一部債務放棄や保護貿易反対など、国際秩序への回帰をアピールする格好の機会を得ることが出来ました。

あくまでトランプ政権が対中圧力を強化した結果可能となった外交戦略であり、
かつ安倍首相とトランプ大統領の信頼関係のもと、その力が国際秩序という枠の中で制御出来る限りのものではありましたが。


……………………………………

※観艦式旭日旗問題に際しての、第四次安倍改造内閣発足前後の対応の違いは、この時期の方針転換の代表例と言えるでしょう。

防衛相退任直前の小野寺氏が、国際法規上の正当性を基にあくまで掲揚参加に固執していたのに対し、交代直後の岩屋氏が即座に観艦式不参加を表明したのは、

  • 旭日旗問題が未だ「国際秩序に対抗する秩序『による挑戦』」とは見なし難いため
  • 「自由で開かれたインド太平洋」構想上、海域安全保障に形なりとも賛同する韓国海軍との対立を避けるため


ではないか、と考えられます。

恐らくは岩屋氏自身の発案というより、改造内閣に対する首相の意向を汲んだ小野寺氏の引継オプションでしょうが、どちらにせよ第四次安倍改造内閣発足による外交方針転換を振り返る一つの材料ではあります。


※※※※※※※※※※※※※※

さて、この時期の防衛省の対応は、特にレーダー照射問題への言及を続けながら、一方で韓国国防部との対話や海自セミナーに韓国軍人を参加させる等、他省庁と比較した岩屋氏の融和性が特徴でしたが、

実はそこには北・中・露への睨みの問題以上に、この時期特有の外交方針が関わっています。


………………………………………

過去6年間韓国と接した内閣・官邸古参の本音はやはり、諸政権を通して「基本的価値に基づく国際秩序に対抗する秩序」が国民レベルまで醸成された韓国そのものへの制裁だったのでしょう。

しかし「国際秩序に対抗する秩序からの挑戦」は東アジアに留まらぬ世界的な状況であり、G20主催国として彼らへのスタンダードな対応と、アメリカを中心とする基本的価値を共有した諸国間の連携を、世界に示す必要があったのです。

それ故に、文在寅体制終了後を視野に入れた軍事面での日米韓再連携は、当時としては最も現実的なビジョンでした。

中国政府以上に国際秩序への回帰が困難な文政権に対し、他省庁が対立的交渉を行う一方、文政権と切り離すことが望ましい軍部に対して回帰へ向けた交渉を継続することは、「国際秩序に対抗する秩序からの挑戦」への一つの理想的対応です。

※もちろん現場としてはたまったものではないですが、それ故に現場での突発事故……レーダー照射がエスカレートする事態まで憂慮したのが、自衛官支援議員連盟会長であった岩屋氏の本音だったと思われます。
建前の日米韓同盟以上に重視したこの姿勢は、7/16ペルシャ湾派兵依頼に際しても繰り返されています。


…………………………………

それ故に岩屋氏の対応は、「自由で開かれたインド太平洋」構想や「国際秩序に対抗する秩序からの挑戦」、更にG20での国際連携アピールという第四次安倍改造内閣の方針に則ったものであり、
米国側の防衛構想などとは別個の日本独自の原則として、脆弱な部分を担う岩屋氏が展開した融和的対応を追認するが如く、首相自ら日米韓の軍事面での連携を提唱し続けたわけです。


この状況が変わったのは、2019年5月でした。


※※※※※※※※※※※※※※※
………………………………………

『第四次安倍改造内閣の回顧(2)』に続きます。
https://tenttytt.hatenablog.com/entry/2019/10/10/140411

第四次安倍改造内閣の回顧~目次とあとがき

2018/10/1~2019/09/11に組閣された、第四次安倍改造内閣を振り返る一連の文章の目次とあとがきにになります。


※※※※※※※※※※※※※※※

第四次安倍改造内閣の回顧(1)

https://tenttytt.hatenablog.com/entry/2019/10/10/135945

  • G20大阪サミット等国際会議を控えた、同内閣の外交面の特徴について


………………………………………

第四次安倍改造内閣の回顧(2)

https://tenttytt.hatenablog.com/entry/2019/10/10/140411

  • 2019年5月以降のトランプ外交の強硬路線と、それに伴う日本外交の方針転換(国際協調→二国間交渉重視)準備について


………………………………………

第四次安倍改造内閣の回顧(3)

https://tenttytt.hatenablog.com/entry/2019/10/10/144308

  • 日本外交の2019年5月以降の方針転換について、特に顕著でありかつ特殊な意味を持つ対韓政策にスポットを当てて


………………………………………

第四次安倍改造内閣の回顧(4)

https://tenttytt.hatenablog.com/entry/2019/10/10/150104

  • 日本対韓政策の転換について、3品目輸出管理厳正化のアナウンス方法にスポットを当てて


………………………………………

第四次安倍改造内閣の回顧(5)

https://tenttytt.hatenablog.com/entry/2019/10/10/151259

  • 輸出管理厳正化に並ぶポイントとして、6/1に行われた日韓防衛閣僚非公式会談への対応にスポットを当てて


………………………………………

第四次安倍改造内閣の回顧(6: 完結)

https://tenttytt.hatenablog.com/entry/2019/10/10/152921

  • 輸出管理厳正化・日韓防衛閣僚非公式会談を通じて転換準備が完了した日本外交と、その現出たる第四次安倍再改造内閣、更に第200回国会における首相所信表明から垣間見る新たな日本外交の特徴について

※※※※※※※※※※※※※※※
※※※※※※※※※※※※※※※

あとがき


今回は思う所があり、引用を控えて自分の考えを中心に記すこととしました。

ご覧になった方々には日本の外交や対韓関係には知識があり、今回改めて引用する必要を感じなかった事、
また既に固められたご自身の考えと照らし合わせるのに、無駄にエビデンスを並び立てるのは邪魔になると考えたからです。

……シンプルさを求めたため、第四次安倍改造内閣以前の特徴についての記述を省略しましたが、ここは書き込んだ方が良かったでしょうか。


……………………………………

別に私は、国益重視の二国間交渉を正面に押し出す今の外交が悪いと言いたい訳でもなく、第四次安倍改造内閣の国際秩序重視の外交が良かったと主張する訳でもありません。

そもそも政策に良し悪しなど無く、あるとすれば提唱された政策に合わない言動が為された場合の不協和音、それを調べてみるだけ……というのが私の考え方です。


ただ言いたいことは、第四次安倍改造内閣の外交方針が2019年5~6月の間に路線変更され、再改造内閣での外交方針のベースとなったであろう事、
岩屋氏による日韓防衛閣僚非公式会談はそのスケープゴートに使われ、また輸出管理厳正化に制裁的色彩を加えるためにも利用された可能性が高い事、それだけです。


………………………………………

……とはいえ、良し悪しの話を抜きにして、私はやはり第四次安倍改造内閣時代の外交が好きだったのだろうと思います。TICAD7、首相欧州訪問、G20と今まで記した文章は、全てこの第四次安倍改造内閣の真意・真価を問うためのものだったのですから。

だから、今の内閣による外交について記すことは、暫くお休みを頂くことになるかも知れません。

第四次安倍再改造内閣を語るときは、やはり過去は過去として、現行政策の真意・真価を改めて前向きに考えて行きたいと考えています。しかしそのためには、少し時間が必要なようです。

第二次コンテ内閣

ご無沙汰しています。

……というか、実はここしばらく別の文章を書いていたのですが、思うことあって一旦塩漬けにした所でして。とりあえず今回は軽めの話で。


※※※※※※※※※※※※※※※

もうひと月前の話ですが、イタリア・コンテ内閣が一旦解散、新たな基盤政党のもと再度内閣組成しました。
https://www.jetro.go.jp/biznews/2019/09/196c39eaf79c08e2.html
『第2次コンテ内閣発足に向け閣僚人事が出そろう』
JETROホームページ 2019/09/10

元々はサルヴィーニ氏率いる極右政党“リーガ”と、ディマイオ氏の極左政党“五つ星運動”の連立政権であり、双方が容認した傀儡首相がコンテ氏……という構造だったのですが、
8月末のサルヴィーニ氏政権離脱に伴い、残ったディマイオ氏の“五つ星運動”とかつての政権与党“民主党”による連立政権を再度組成した事で、以前とは全く異なる性格の政権となりました。

特に所信演説でEU(のルール)の枠内でイタリア人の利益を追求する」と述べた通り、サルヴィーニ氏主導による反EU的立場からの変更が目立ちます。
https://r.nikkei.com/article/DGXMZO49601850Z00C19A9FF2000?s=1
“「EUと融和」イタリアのコンテ首相が所信表明”
日本経済新聞 2019/09/09


………………………………………

今回の第二次内閣については、サルヴィーニ氏の盟友であったハンガリー首相オルバン氏も早々に支持を表明しており、
https://hungarytoday.hu/orban-conte-hungary-cooperation-italy/
“Orbán to Conte: Hungary Ready to Continue Cooperation with Italy”
Hungary Today紙 2019/09/09

その後移民政策を通じてコンテ内閣と対立した際も、サルヴィーニ時代の反移民政策を称えつつ、彼を過去の人として評価する面が見られます。

〉(コンテ首相が提唱する)再分配の割り当てはノーと言いましょう。しかし、国境を守り、移民を本国に送還するのを支援する準備ができています。
〉しかし-彼(ハンガリー:オルバン首相)は付け加えます-私たちはイタリアが私たちのクラブで私たちに戻ってくるのを待っています

http://www.rainews.it/dl/rainews/articoli/Premier-ungherese-Orban-Atreju-In-Italia-il-governo-separato-dal-popolo-5c973bfd-df88-4024-b5eb-ea395622d99e.html
“Il premier ungherese Orban ad Atreju: "In Italia il governo si è separato dal popolo" ”
Rainews紙 2019/09/21 (イタリア語)


※※※※※※※※※※※※※※※

実際のところ、前政権では目立った動きのなかった(というか副首相が暴れまくって目立たなかった)コンテ首相及び新たに外相に就任した“五つ星運動”ディマイオ氏とも、大きな失言は見られない……どころか、かなり積極的な交渉を行い国益保持に努めている様子が見られます。


移民政策などでEU・反移民派と時に過激なやり取りを通じて新たなスキームを持ち込もうとするコンテ氏はもちろん、
https://r.nikkei.com/article/DGXMZO49962340Z10C19A9000000
EUの移民政策の改革で一致、仏大統領と伊首相』
日本経済新聞 2019/09/19

ディマイオ氏はインド・中国外相と会談を繰り広げる一方、
https://www.onuitalia.com/2019/09/25/india-e-cina-alte-in-agenda-di-maio-allonu-bilaterali-puntano-a-rafforzamento-rapporti/
“India e Cina alte in agenda Di Maio all’Onu; bilaterali puntano a rafforzamento rapporti”
OnuItalia紙 2019/09/25 (イタリア語)

かつてイタリアの一帯一路参加を強行したディマイオ氏のお手並み拝見とばかりに、エアバス社への補助金制裁を引っ提げてアメリカの対中懸案を受け入れさせようと乗り込んだポンペオ氏に対し
https://www.vox.com/2019/10/3/20896811/trump-tariffs-wto-airbus-european-union-wine-cheese
“French wine and Italian cheese prices could rise with new US tariffs on EU
Vox紙 2019/10/03

「国家としての私たちの主権を傷つける可能性のある貿易協定に参加するつもりはありません」と中国への深入りを否定しながら、
5Gへの規制については自国の“Golden Power”法の下で行いアメリカの干渉を受け付けない態度を示すなど、米国の怒りを買わないギリギリの形で硬軟織り交ぜた交渉
を行っています。
https://www.japantimes.co.jp/news/2019/10/02/asia-pacific/politics-diplomacy-asia-pacific/u-s-warns-italy-china-5g/#.XZbjzVNcU0N
“U.S. warns Italy over China and 5G”
Japantimes紙 2019/10/03

※なお、“Golden Power”については
https://www.google.com/amp/s/jp.mobile.reuters.com/article/amp/idJPKCN1VQ2MJ
『イタリア、5G巡りファーウェイ規制強化 特別権行使を了承』Reuter紙2019/09/05をご覧ください。


※※※※※※※※※※※※※※

……勿論、政権としては連立ゆえの脆弱さは問題であり、当初“五つ星運動”との連立に反対していた“民主党”党首レンツィ氏が離党したり、
https://jp.reuters.com/article/italy-politics-renzi-idJPKBN1W21ZE
「イタリア元首相、連立与党を離党『コンテ政権は今後も支持』」
Reuter紙 2019/09/19

民主党から入閣したガルティエリ経済・財務相が予算案に苦慮した上、コンテ政権に対するEUの好感触を糧に何とか妥協点を導き出したり、
https://jp.reuters.com/article/italy-budget-idJPKBN1WF28B
『イタリア財政赤字目標、小幅な引き上げに EUとの対話重視』
Reuter紙 2019/10/01

色々問題は抱えていますが、前政権と異なり首相がリーダーシップを発揮する、好調なスタートと言えるでしょう。


ディマイオ氏の外交にしても、国際政治研究所(ISPI)の助言に従った形でしょうが、それを実体化させるだけの外交手腕はあると見て良いと思われます。
https://www.ispionline.it/it/pubblicazione/memo-il-nuovo-ministro-degli-esteri-23844
“Memo per il nuovo Ministro degli Esteri”
ISPIホームページ 2019/09/05 (イタリア語)

当初の下馬評、
〉大学中退で言語に不慣れ、政治的キャリアの間に国際問題にほとんど関心を示さなかった33歳。
〉黄色いベストの友人、外交事件の建築家、言語的および地理的な偽物のランダムジェネレーター。
は、現状ある程度覆すものではないかと。
https://www.corriere.it/politica/19_settembre_05/di-maio-si-insedia-esteri-dubbi-nuova-cina-scelta-insolita-36a6d054-cfed-11e9-b1b2-ea5000c0ac17.shtml
corriere紙 2019/09/05


※※※※※※※※※※※※※※※

むしろ個人的に心配しているのは、このイタリア新内閣に対して、安倍内閣が長期間コンタクトを取っていない点です。
 
新内閣で退任したモアヴェロ前外相と、安倍首相及び河野前外相が会談を行ったのが6/4。
https://www.mofa.go.jp/mofaj/press/release/press6_000597.html外務省HP
https://www.mofa.go.jp/mofaj/erp/we/it/page4_005037.html外務省HP

現政権に残ったコンテ首相と、安倍首相の会談を行ったのが4/24にまで遡ってしまいます。
https://www.mofa.go.jp/mofaj/erp/ep/page23_002942.html#section2外務省HP

その後G20やG7、国連総会などコンテ氏及びディマイオ氏と、安倍首相や内閣閣僚とが同席する会議があったにも関わらずイタリアとの閣僚会談は行われておらず、
https://www.mofa.go.jp/mofaj/ecm/ec/page22_003217.html外務省:G20大阪サミット
https://www.mofa.go.jp/mofaj/ecm/ec/page23_002901.html外務省:G7ビアリッツサミット
https://www.mofa.go.jp/mofaj/fp/unp/page3_002871.html外務省:国連総会首脳会談
https://www.mofa.go.jp/mofaj/fp/unp/page4_005323.html外務省:国連総会外相会談

8月の河野前外相外遊の際も会談は当初から組み込まれず、
https://www.mofa.go.jp/mofaj/press/release/press4_007696.html外務省HP

ディマイオ氏に至っては9月の国連総会はもちろん、6月のG20つくば貿易・デジタル経済閣僚会合に参加したにも関わらず、主催国日本との会談はジェラーチ政務次官に割り振った上で
https://www.meti.go.jp/press/2019/06/20190610010/20190610010.html経産省HP

自らはインドネシア等との会談に臨んでいたり、
https://www.opengovasia.com/indonesia-to-boost-digital-economy-by-cooperating-with-italy/
“Indonesia to boost digital economy by cooperation with Italy”
OpenGov紙 2019/06/11

完全に没交渉の状態が続いています。


※※※※※※※※※※※※※※

内閣を再編し、全く新しいポリシーを採択したコンテ政権に対して、変革前後にコンタクトが無かった事は問題でしょう。

一帯一路のヨーロッパ側の終着点として知られた国であり、現在は中国に対して多少なりとも懐疑的な立場であったサルヴィーニ氏が失脚した事で、中国への傾倒に歯止めが効かない状態にあります。
https://www.euronews.com/2019/03/24/china-and-italy-sign-silk-road-project
“China's Belt and Road plan: Why did Italy sign it and why is Brussels worried? | Euronews answers”
Euronews紙 2019/09/04

中国との関係強化を、自国への干渉を拒否し国益保持に務める国家が行うこと、そしてそのような国家に対してEUが「放蕩息子の帰還」とばかりに甘めの対応を行う状況は、日本政府が早急に対処しなければならない外交懸案のはずです。


でなければ、イタリアは日EU間が結んだ「持続可能な連結性及び質の高いインフラに関する日EUパートナーシップ」や「開発分野における日EU協力」の要諦を脅かす存在となり、
https://www.mofa.go.jp/mofaj/erp/ep/page4_005320.html
安倍総理の『欧州連結性フォーラム』出席」
外務省HP 2019/09/27


また今政権で注力するアフリカを第三国市場とした関係強化を通じて、欧州・アフリカのみならず、表向きだけでも透明性を重視する「質の高いインフラ」を自ら標榜し始めた中国をも逆進させてしまう可能性すら、新しくかつ国益以外の指標を示さないコンテ政権にはあるのですから。
https://www.jiji.com/sp/article?k=2019053001198&g=eco
『中国、自主点検提出見送りへ=途上国向け融資状況-G20で包囲網』
時事通信紙 2019/05/31


※※※※※※※※※※※※※※※

例えばEU諸国であれば、親EUの意向を示しかつ安定した政治能力を持つ政権を築き上げたコンテ首相に安心すれば良いでしょうが、
自由貿易の旗手として、自由で公正なルールに基づく経済圏」を築くと所信表明で宣言した安倍首相の立場としては、コンテ政権がEU主要国として

  • 「自由、民主主義、基本的人権、法の支配、国際法の尊重といった基本的価値に基づいた国際秩序」に協力していくのか、
  • 或いはEUWTO・国連などの国際権威に頼りつつ、米中に潜む「国際秩序に挑戦する秩序」の伸長に大義名分を与えようとする存在となるのか、

直接コンタクトを取り、その腹の内を探る必要があるのではないか、と思います。


※※※※※※※※※※※※※※※

……茂木外相。恐らくコンタクトを拒否しているのはイタリア側でしょうが、兵隊が苦慮した状況を打開するのも外相の役目ですよ。
せっかくG7外相会合では、隣で写真撮ってるんですから。

TICAD7関連: NHK記事より対アフリカ投資実績(2016~2018))

2019/09/30、NHKの元記事が削除されたため、コピーを掲載いたします。

※※※※※※※※※※※※

2016~2018年における対アフリカ官・民投資実績についての外務省発表を、2019/08/31時点でこのNHK記事でしか確認出来ませんでした。

NHK記事は一定期間を過ぎると削除される事が多いので、他ソースで確認出来るまで一旦こちらに記事コピーを貼る事にいたします。


※※※※※※※※※※※※※※

「『最後の巨大市場』アフリカへの投資総額356億ドル 外務省」
NHK News Web 2019/08/24
https://www.google.com/amp/s/www3.nhk.or.jp/news/html/20190824/amp/k10012047081000.html

「最後の巨大市場」として注目されるアフリカに対し、外務省は、去年までの3年間で官民の投資総額が350億ドル余りと、政府が掲げた目標に達したとする集計をまとめたことがわかりました。ただ民間企業の投資はほぼ横ばいで、来週、横浜で開かれるTICAD=アフリカ開発会議では民間投資の拡大の方策が話し合われることになっています。
アフリカへの投資をめぐって政府は、2016年にケニアで開かれたTICADで3年間で官民合わせて300億ドル規模の投資をするとした目標を掲げていました。

これについて外務省はこのほど集計をまとめ、2016年からの3年間で、ODA=政府開発援助が100億ドル、民間企業による直接投資などが256億ドルと、官民合わせて356億ドルとなり目標に達したとしています。

目標の達成状況をめぐって政府は、去年9月の時点でおよそ半分の160億ドルにとどまるとしていました。

しかしこの数値に対しては「実際の投資額を反映していない」との指摘が相次いだことから計算方法を見直したとしています。

政府は、人口が急増し経済成長の潜在力が高いアフリカへの民間投資の拡大を後押しする方針ですが、民間の投資残高はこの10年ほぼ横ばいで、中国や欧米に大きく遅れをとっていると指摘されています。

このため、来週から横浜市で開かれるTICADでは、投資の拡大を主要なテーマに、企業の進出しやすい環境の整備などについてアフリカ各国の首脳と議論が交わされる見通しです。


「葬儀保険」アフリカで商機

損害保険大手「東京海上ホールディングス」は去年9月、南アフリカの大手保険会社「ホラード」におよそ400億円を出資し、大型の投資として注目されています。

「ホラード」は南アフリカをはじめアフリカ各地で保険ビジネスを展開しています。

東京海上は社員1人をホラードに出向させて現地の人々の生活に根ざした保険商品の販売にも参加させ、中でもユニークなのが「葬儀保険」です。

伝統的に家族や地域社会のつながりが強いアフリカでは、葬式や埋葬には多くの参列者が訪れ、喪主は食事を提供するのが習わしです。

食事の材料費に加えて、料理をする人や送迎用のバスなどを確保するため葬式の費用が日本円100万円と、一般市民の月収の5倍や10倍になることも珍しくありません。

このため、突然の出費に備えて、毎月少しずつ保険料を払い、葬式を出すときにまとまった保険金を受け取ることができる商品が広く普及しています。

東京海上はこうした販売活動を通して現地でのビジネスのノウハウを吸収するとともに、日本企業の進出を保険面で後押ししていきたいとしています。

東京海上日動」から出向している眞弓匡文さんは、「アフリカと日本の違いを楽しみながら、それを融合して作り上げるのがだいご味です。この市場は非常に成長への期待が高く、日本企業ができることはたくさんあります」と話しています。