首相欧州訪問(2019/04)と欧州議会選挙(1)

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旬の時期を完全に逃したお話ですが、
先月末の安倍首相の欧米訪問(4/22~/29)について、今月末予定の欧州議会選挙(5/23~/26)との関係を含めてまとめた文章です。

なお、一連の文章の目次については
https://tenttytt.hatenablog.com/entry/2019/05/23/194237
こちらのURLへお願いいたします。

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1. 安倍首相の欧州訪問……前書きとして

https://www.mofa.go.jp/mofaj/erp/ep/page23_002942.html
4/22~/29の間、安倍首相がフランス・イタリア・スロバキア・ベルギー・アメリカ・カナダを訪問されました。

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フランスではマクロン大統領と会談

(一帯一路フォーラムにはドリアン外相が参加か)
https://www.mofa.go.jp/mofaj/erp/we/fr/page4_004924.html


イタリアではコンテ首相と会談、

(コンテ首相は会談後に、一帯一路フォーラム参加)
https://www.mofa.go.jp/mofaj/erp/we/it/page1_000783.html

マッタレッラ大統領への表敬訪問と、
(イタリアの制度上、大統領は儀礼的な側面が強い)
https://www.mofa.go.jp/mofaj/erp/we/it/page1_000782.html

サルヴィーニ副首相による表敬訪問(?)。

https://www.mofa.go.jp/mofaj/erp/we/it/page1_000781.html


スロバキアでは同国ペレグリニ首相、

(キスカ大統領は当日消息不明。6月政権交代予定。
一帯一路フォーラムへはライザック外相が参加)
https://www.mofa.go.jp/mofaj/erp/c_see/sk/page1_000785.html

チェコのバビシュ首相、

(ゼーマン大統領は一帯一路フォーラム参加)
https://www.mofa.go.jp/mofaj/erp/c_see/pl/page6_000296.html

ポーランドのモラヴィエツキ首相と会談、

(ドゥダ大統領は自国内出張…
ポーランドの一帯一路フォーラム参加は無し?)
https://www.mofa.go.jp/mofaj/erp/c_see/pl/page6_000296.html

更に上記3国及びハンガリー・ヴァルガ副首相
(首相及び外相は一帯一路フォーラム参加)ら
V(ヴィシェグラード)4国首脳+1会合に臨み、

https://www.mofa.go.jp/mofaj/erp/c_see/page1_000786.html


ブリュッセルではトゥスク欧州理事会会長及び
ユンカー欧州委員会会長との会談の後、

https://www.mofa.go.jp/mofaj/erp/ep/page1_000788.html

共同声明の発表に至っています。
https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000472826.pdf


特にこのブリュッセルでの共同声明を受けて、
politico紙は2019/04/26に


EU’s best Western ally is now in the East”

という表題の記事を掲載しており、今回の首相外遊を高く評価しているようです。
https://www.politico.eu/article/eus-best-western-ally-is-now-in-the-east/

……でも、
〉安倍首相はまた、日本が中国、特に「ベルト・アンド・ロード」構想に関するEUの懸念と目標を共有すると宣言
(以下略)

……共同声明でも外務省の会談要約でも、東・南シナ海の話はともかく、一帯一路そのものの話は出ていなかったような。


………………………………………

これら欧州歴訪の後、そのままアメリカ・カナダの会談に向かった訳ですが…今回の話題からは一旦外します。
https://www.mofa.go.jp/mofaj/na/na1/us/page4_004940.html


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次回『首相欧州訪問と欧州議会選挙(2)』に続きます。

https://tenttytt.hatenablog.com/entry/2019/05/05/212131

外交青書2019の要旨(2019/05/04内容変更)

2019/04/24、2019年度版外交青書の要旨と目次が外務省HPにて公開されました。

https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000471203.pdf
2019要旨
https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000471202.pdf
2019目次
https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/bluebook/2018/html/index.html
参考:外交青書2018

なお、外務省HPによると
https://www.mofa.go.jp/mofaj/fp/pp/page23_002506.html

〉6月以降、令和元年版として販売を予定しています。
〉また、外務省ホームページへの全文(日本語・英語)掲載は秋頃を予定しています。

……との事ですので、2019青書の具体的な特徴を考えるのは、もう少し時間を置いてからにしようと思います。


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  • 「自由で開かれたインド太平洋『戦略』」
  • 「対韓外交から『未来志向』」


削除の件が昨日から騒がれていましたが、北方四島の件以外は既に、それまでの

日米安全保障協議(2+2)

https://www.mofa.go.jp/mofaj/na/st/page4_004913.html
※日米安全保障協議(2+2)については、別途内容を補足する文章を作りました。
https://tenttytt.hatenablog.com/entry/2019/04/24/231422

第198回国会での外交演説

https://www.mofa.go.jp/mofaj/fp/pp/page3_002672.html

「安倍首相が封印した『戦略』の二文字--訪中前に中国への刺激避ける?」

BusinessInsider紙 (2018/10/26)
https://www.google.com/amp/s/www.businessinsider.jp/amp/post-178169

の内容に触れていれば自ずと予想できた事です。


外相記者会見(2019/04/23)での
河野外相と東亜日報・金記者の会話

https://www.mofa.go.jp/mofaj/press/kaiken/kaiken4_000823.html

東亜日報 金記者】外交青書に戻りますけど,日韓関係の部分について,「未来志向」という表現が消えましたけれども,この部分について説明していただければ幸いです。

【河野外務大臣】「未来志向」が消えた?(以下略)

このわざとらしいやりとりには
「実際の外交内容より、言葉尻捉える方が大事か」という外相の思いを感じ取る事が出来るでしょう。


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2019/05/04補足:

4/23~/29の安倍首相欧米訪問を元に、改めて外交青書2019を振り返ると、


〉今世紀に入り、国際社会において、かつてないほどパワーバランスが変化しており、国際政治の力学にも大きな影響を与えている。

〉そして、国際社会においては、国家間の相互依存関係が一層拡大・深化する一方、中国等の更なる国力の伸張等によるパワーバランスの変化が加速化・複雑化し、既存の秩序をめぐる不確実性が増している。

〉こうした中、自らに有利な国際秩序・地域秩序の形成や影響力の拡大を目指した、政治・経済・軍事にわたる国家間の競争が顕在化している。

この部分の変更が浮き彫りになります。


因みに2018年度版では

〉21世紀に入り、中国やインドを始めとするいわゆる新興国の台頭や世界経済の重心の大西洋から太平洋へのシフトが指摘されてきた。

新興国の台頭は、世界経済の推進力となってきた一方、パワーバランスの変化をもたらしている。

……日本外交の脅威の対象が、自らの力で世界のパワーバランスを変えた中国ほか新興国から、
変化するパワーバランスを利用して既存秩序を崩壊させる国家へと変更されたわけです。

今回欧州で会談を行ったフランス・イタリア・V4諸国(ハンガリーポーランドチェコ・スロバキア)のうち、フランス以外はまさに

『パワーバランスの変化を利用して、自らに有利な国際・地域秩序の形成や影響力の拡大を目指す』

EU懐疑派の代表国家であり、G20直前のこの時期にあえて会談を行ったのも(会談の結果があえてこの時期に行う必要のあるものではなかった事も含めて)、外交青書の内容変更に象徴される新しい外交視点の現れだったのではないか、と考えています。


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今回取り上げた安倍首相の外遊については、別途文章を作成中です。もう少々お待ち下さい。

外交青書2019: 補足…日米安全保障協議(2019/04/19))

外交青書2019の要旨』
https://tenttytt.hatenablog.com/entry/2019/04/24/231915
の補足として作られた、2019/04/19に行われた日米安全保障協議委員会(外相+防衛相)共同発表の内容を、前回(2017/08/17)のものと比較しながら検討するための文章になります。

外交青書2019では対北朝鮮・対中国の融和姿勢が見られる旨の報道が散見されましたが、
実際の防衛・安全保障を最大相手国であるアメリカと確約するべく行われたこちらの会合では、表現等の変更はあれ、そのような実際の流れは認められません


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日米安全保障協議委員会共同発表
(2019/04/19)
https://www.mofa.go.jp/mofaj/na/st/page4_004913.html

〉2019年4月19日,日米安全保障協議委員会(SCC)は,河野外務大臣,岩屋防衛大臣,ポンペオ国務長官,シャナハン国防長官代行の出席を得て、ワシントンDCで開催された。


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1.「自由で開かれたインド太平洋」を共通ビジョン化


※前回では日本のイニシアティブとして留意するに留めていた「自由で開かれたインド太平洋戦略」だが、今回は「自由で開かれたインド大平洋」を共通ビジョンとして認識

※2019/06/17訂正。訂正前は

前回では日本のイニシアティブとして留意するに留めていた「自由で開かれたインド大平洋戦略」を、
今回は共通ビジョンとして認識

と書いていましたが、これでは今回「戦略」を認識した用に誤解を受けるため訂正しました。


〉会合において,閣僚は,全ての国が主権を有し,強固で,かつ繁栄する地域のための「自由で開かれたインド太平洋」という共通のビジョンを実現するという力強いコミットメントを確認した。

日米安全保障条約が署名されてから数十年の後,日米同盟は,インド太平洋地域の平和,安全及び繁栄の礎であるとともに,一層複雑さを増す安全保障環境の中,盤石であり続ける。

〉日米同盟は,ルールに基づく国際秩序を堅持し,日米両国民の共通の価値を促進するために不可欠な役割を果たし続ける。
(中略)

〉閣僚は,国際的なルール,規範及び制度を損なおうとする地政学的競争及び威圧的試みが,日米同盟及び自由で開かれたインド太平洋という共通のビジョンに対する挑戦であるとの共通の懸念を認識した。
(中略)

〉閣僚は,日本の安全及びインド太平洋地域の平和と安定を確保するに当たって米国の拡大抑止が果たす不可欠な役割を認識した。
(中略)

………………………

参考:前回の共同発表(2017/08/17)

https://www.mofa.go.jp/mofaj/na/st/page4_003204.html

〉閣僚は,地域における他のパートナー,特に,韓国,オーストラリア,インド及び東南アジア諸国との間で,三か国及び多数国間の安全保障及び防衛協力を進めるために同盟が現在行っている取組を強調した。

〉閣僚は,地域における力強いプレゼンスを維持することに対する米国の継続的なコミットメント及び「自由で開かれたインド太平洋戦略」によって示された日本のイニシアティブに留意しつつ,ルールに基づく国際秩序を促進するために協力することの重要性を強調した。

〉閣僚は,韓国との協力に関し,ミサイル警戒並びに対潜作戦及び海上阻止作戦訓練を含む三か国間の訓練を拡大すること及び情報共有を強化することの必要性を強調した。




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2.北朝鮮への対応


※「最も強い表現で非難」「圧力」という過激な発言は無くなっていますが、実際行動の変更は見られず。

ただし「組織的な人権侵害」の一節もこの日米協議で省かれた事は、大量破壊兵器等破棄などの北朝鮮政権の行動(政権体制の変化を伴わなくとも良い)が、日米による制裁解除に直結することを“前回よりも強調した”ということでもあり、注意を引きます。

最も、外交青書2019要旨(2019/04/24公表)では
北朝鮮による拉致問題は、日本の主権と国民の
生命・安全に関わる重大な問題であると同時に基本的人権の侵害という国際社会全体の普遍的な問題である」と銘記していますので、この会談でのみ日米の歩調を合わせるため、あえて一節を外した疑いがあります。


〉閣僚は,関連する国連安保理決議に従った,完全な,検証可能な,かつ不可逆的な方法での北朝鮮の全ての大量破壊兵器弾道ミサイル並びに関連計画及び施設の放棄の実現に向けた国際社会による現在進行中のコミットメントの重要性を改めて表明した。

〉閣僚は,米朝首脳会談を通じたものを含む,朝鮮半島の最終的かつ完全に検証された非核化を達成するための米国の外交努力を歓迎した。

〉閣僚は,特に,違法な「瀬取り」への対処における,国連安保理決議の履行に係る国際的な取組を主導することへのコミットメントを確認するとともに,国連安保理決議の履行に参加する他のパートナー国との協力を強化し,向上させることにコミットした。

〉閣僚はまた,北朝鮮において拘束された米国民を帰還させるための成功した取組を認識するとともに,北朝鮮に対し,日本人拉致問題を即時に解決するよう求めた。

………………………………………

参考:2017年共同発表

〉閣僚は,北朝鮮による度重なる挑発並びに核及び弾道ミサイル能力の開発を最も強い表現で非難した。

〉これらは,新たな段階に入っており,地域及び国際の平和と安定に対する増大する脅威となっている。閣僚は,これらの脅威を抑止し,対処するため,同盟の能力を強化することにコミットした。

〉閣僚はまた,北朝鮮に対し,核及び弾道ミサイル計画を終了し,完全な,検証可能な,かつ,不可逆的な朝鮮半島の非核化を実現するための具体的な行動を北朝鮮にとらせるべく,他国と協力して,北朝鮮に対する圧力をかけ続けることで一致した。

〉閣僚は,国際社会に対し,新たに採択された決議第2371号を含む国際連合安全保障理事会決議を包括的かつ完全に履行するよう求めた。

〉閣僚は,中国に対し,北朝鮮に一連の行動を改めさせるよう断固とした措置をとることを強く促した。

〉閣僚は,北朝鮮に対し,組織的な人権侵害を止めるとともに,日本の拉致被害者及び米国市民を含む北朝鮮に拘束されている全ての外国人を即時に解放するよう求めた。




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3. 東・南シナ海における中国牽制


※「中国」の記載は省かれましたが、内容はほぼ2017年同様。むしろインフラ投資など、軍事に囚われない対抗政策への言及も行われています。
なお2017年における国際法云々については、今回は「ファクトシート III」に別途記載した形になっています。

〉閣僚は,東シナ海及び南シナ海における現状を変更しようとする威圧的な一方的試みに関し,深刻な懸念及び強い反対の意を表明した。

〉閣僚は,東シナ海の平和と安定を確保するために協働する決意を新たにするとともに,日米安全保障条約第5条が尖閣諸島に適用されること及び両国が同諸島に対する日本の施政を損なおうとするいかなる一方的な行動にも反対することを再確認した。

〉閣僚は,地域のパートナー国との共同演習及び寄港,海洋状況把握及び法執行といった分野における能力構築,並びに質の高いインフラを通じた持続可能な経済開発及び連結性の促進を通じたものを含め,自由で開かれたインド太平洋の実現のために二国間及び多国間で協働することへのコミットメントを新たにした。
(中略)

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参考: 2017年共同発表

〉閣僚は,東シナ海における安全保障環境に関し,継続的な懸念を表明した。

〉閣僚はまた,2016年8月初旬の状況を想起した。閣僚は,東シナ海の平和と安定を確保するために協働することの重要性を再確認するとともに,日米安全保障条約第5条が尖閣諸島に適用されること,また,日米両国は,同諸島に対する日本の施政を損なおうとするいかなる一方的な行動にも反対することを再確認した。

〉閣僚は,南シナ海における状況について深刻な懸念を表明し,埋立て及び係争ある地形の軍事化を含め,現状を変更し緊張を高める,関係当事者による威圧的な一方的行動への反対を再確認した。

〉閣僚は,仲裁を含む法的及び外交的プロセスの完全な尊重を通じた海洋紛争の平和的な解決,並びに,航行及び上空飛行の自由その他の適法な海洋の利用の尊重を含め,海洋法に関する国際連合条約に反映されている海洋に関する国際法の遵守の重要性を改めて表明した。

〉この関連で,閣僚は,2016年7月12日付けの仲裁裁判所の判断を想起した。閣僚は,南シナ海における行動規範(COC)の枠組みに関する承認を認識し,有意義で実効的で法的拘束力がある行動規範の妥結を期待する。
(中略)

………………………………………

参考 2019年ファクトシート

〉日米同盟の深さと幅広さを認識し,閣僚は,追加的な二国間の協力の分野を詳述するファクトシートを発出することに合意した。
(中略)

ファクトシート III
自由で開かれたインド太平洋のためのパートナー国との協働

〉閣僚は,ASEANの中心性・一体性への支持,共同訓練・演習,能力構築,防衛装備・技術協力等を通じたものを含む東南アジアにおける多国間協力へのコミットメント及び東アジア首脳会議,ASEAN地域フォーラム及び拡大ASEAN防相会議を含むASEAN関連の枠組みへの支持を改めて表明した。
メコン地域の国の自律的かつ持続的な開発を支援するために,閣僚は,国境を越える犯罪及び取引を含む国境を越える共通の課題,地域の連結性,エネルギー安全保障,及びエネルギーシステムの更なる統合に対処するべく,地域の国々を支援するために,緊密に連携することにコミットした。
〉閣僚は,日米豪閣僚級戦略対話を通じたものを含む日米豪三か国間の継続的な協力及びハイレベル協議を歓迎するとともに,東南アジア及び太平洋島嶼
国での三か国共同演習及び能力構築の重要性に留意した。閣僚はまた,2018年の初めてとなる日米印首脳会合に満足の意をもって留意するとともに,マラバール2018やコープインディア2018等の重要な共同演習を強調した。こうした様々な三か国間の取組を踏まえ,閣僚は,日米豪印の四か国間の取組の定期化を歓迎した。閣僚はまた,英国及びフランスの地域におけるプレゼンスの向上を歓迎するとともに,航行の自由を支持する活動,寄港及び違法な「瀬取り」への対策を含む分野における一層の協力を要請した。
〉閣僚は,航行及び上空飛行の自由その他の適法な海洋の利用の完全な尊重を要請するとともに,これらの原則を支える活動の重要性を改めて表明した。

〉閣僚は,全ての当事者に対し,南シナ海における係争ある地形の非軍事化を追求すること,武力による威嚇又は武力の行使によらずあらゆる海洋紛争を平和的に解決すること,1982年の国連海洋法条約に反映された国際海洋法に基づき海洋に係る主張を明確にすること並びに法的及び外交的プロセスを完全に尊重することを要請した。
閣僚は,2016年7月の比中仲裁裁判の判断の両当事者にとっての重要性を強調した。閣僚はまた,国際法に完全に従うものであって,ASEAN
国が炭化水素資源開発及び軍事演習等に関し,自ら選択する国及び外国機関との間で協力する権利を堅持する南シナ海における行動規範の重要性を強調した。




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4: 浮いた一節に見られる韓国


〉閣僚はまた,日本,米国及び韓国の間での協力の重要性を強調するとともに,三か国間の安全保障協力及び訓練を促進するために協働することにコミットした。

※上記については、北朝鮮と東・南シナ海についての文章の間に唐突に組み込まれております。
2017年には「自由で開かれたインド太平洋戦略」の重要なパートナーとしておりましたが、この位置まで落ちております。なお、外交青書2019要約(2019/04/24公表)における「自由で開かれたインド太平洋」のパートナー諸国からも韓国の名は抜けていることを銘記しておきます。



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少し和んだところで、要注意事項を一つ。


前回との大きな違いは、実は細かい表現等ではなく
「自由で開かれたインド太平洋のビジョンを日米が『共有した』」ということです。


しかし、額面通り『共有』したと受け取ってはいけません。
特に、アメリカのビジョンでは元々インドまでに留まったイニシアティブであり、アフリカ大陸までこのビジョンには加わっていない事は念頭に置かねばなりません。

アフリカ大陸については、現在アメリカは“prosper africa”という別の直接投資型アプローチを推進しています。
https://www.whitehouse.gov/briefings-statements/remarks-national-security-advisor-ambassador-john-r-bolton-trump-administrations-new-africa-strategy/

日本側も、青書2019の要旨を読む限り、自由で開かれたインド太平洋の戦略対象から、アフリカ諸国は除外されているように見えます。

「…何でアフリカ?」と思う方もいるかも知れませんが、元々『自由で開かれたインド太平洋戦略』が初めて発表されたのは、2013年第5回アフリカ開発会議(TICAD5)2016年第6回アフリカ開発会議(TICAD6)の首相演説だったからです。


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2019/09/09訂正:

『自由で開かれたインド太平洋戦略』は
TICAD5→TICAD6の間違いでした。謹んで訂正いたします。

MRTジャカルタの風刺漫画

2021/01/23追加

『日本協力の在来線高速化事業に対する中国介入の件』を末尾に追加しました。
NRTジャカルタとはあまり関係ありませんが、引き続き対インドネシア事業で発生している事象と、日本メディアによる伝え方のサンプルとして追加致しました。


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ジャカルタMRT債務に関する日本の風刺漫画への回答
 kompus紙 2019/04/09(インドネシア語)
https://megapolitan.kompas.com/read/2019/04/09/06560061/menjawab-sindiran-komikus-jepang-soal-utang-mrt-jakarta

その昔、インドネシア高速鉄道の受注合戦を風刺してネットで話題になった漫画家が、今度はジャカルタMRTの工賃支払遅延問題を風刺する漫画を作成したそうです。

このkompus紙の記事でMRTジャカルタ側からの支払承認についての最新のコメントが発表されたので、改めて遅延問題そのものの経緯と合わせてまとめる事といたしました。


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日本企業に不満も=『支払い滞り赤字』-インドネシア地下鉄
時事通信紙 2019/03/24
https://www.jiji.com/sp/article?k=2019032400312&g=int

〉受注した日本企業からは「支払いが滞り、赤字になった」との悲鳴が漏れる。
〉大量高速鉄道(MRT)は円借款の事業で、受注企業への工事費は国際協力機構(JICA)が支払う。ただ、支払いには事業主「MRTジャカルタ」の許可が必要で、複数の関係者によると、「不合理な払い渋り」が相次いだ。

このような記事が掲載されました。


……この記事による“悲鳴を漏ら”した、“「不合理な払い渋り」が相次いだ”のが具体的にどの企業なのかは判りませんが、支払いの遅延については、現地紙の記事にも複数記載されていました。


https://idnews.co.id/pembayaran-upah-kontraktor-mrt-lamban/
PT-MRTジャカルタ、業者に支払遅延
idnews紙 2018/02/24 (インドネシア語記事)


〉サンディアガ・ウノ副首相、アリフィン・タスリフ駐日大使は中根一幸外務副大臣と会談
(2018/02/02)

〉しかし、日本はプロジェクトの支払いを請求します。「さらに、日本政府はジャカルタ州政府にMRTプロジェクトのための即時支払いを要請しています。これはかなり長い間延期されています。」
(2018/02/13サンディアガ副首相の発言)

〉「PT-MRTジャカルタが日本からの請負業者への支払いに遅れていたことを遺憾に思います。事実、中根一幸外務副大臣は、サンディアガ・ウノ副首相を通じ、ジャカルタ州政府からの支援を求めなければなりませんでした。」
(2018/02/23 ジャカルタ公共サービス事務総長発言)

〉一方、PT MRTジャカルタの社長に確認した際、請負業者への支払いの遅延を否定
「意味するのは請負業者への支払いであり、我々は加速するが、それはコーポレートガバナンスに従って慎重に行われる」
〉「すべての請負業者の要求を満たすことができるわけではない。追加作業の評価を行う必要がある。我々はコンサルタントとBPKP(財政開発監督庁)を巻き込む。それで我々は注意を優先している」
(2018/02/25 MRTジャカルタ社長W.Sabandar発言)

※BPKP(財政開発監督庁)とは、政府機関や国有企業の内部監査を行う大統領府直属機関。


なお、支払遅延についてのMRTジャカルタの返答は2017/09/11には同社財務ディレクターTuhiyat氏が

〉“Yes, the full payment to the contractors should be made by December 2017. Now (it is) in verification process by the team,” said PT MRT Jakarta Financial Director, Tuhiyat, when contacted on Thursday
(9/11).
「2017年中には払う」と語っていますが、同年11月には

〉“We will try (so it can be completed) by December. But it will depend on how quickly the contractors can deliver the invoice,” Tuhiyat clarified.
「業者がインボイスを送ってこないからだ」と、後のW.Sabandar氏とは異なる弁解を行っており、両者の発言の誠意は疑わしい
ものがあります。

※なおBPKPの審査については、既に2017年11月にはインドネシア運輸省財務省の圧力の元2017年中に審査を通すよう要請、この時点で既にBPKPで審査中の状況だった旨報道されていました。
Korea ready to fund Jakarta LRT phase 2 of US$ 550 million” PwC紙 2017/11/10
https://www.pwc.com/id/en/media-centre/infrastructure-news/infrastructure-news---archive/november-2017/korea-ready-to-fund-jakarta-lrt-phase-2-of-us--550-million.html


………………………………………

以上の話から、今回のあらましをまとめると、

A: MRT建設費の“払い渋り”(正確にはMRTジャカルタが支払承認さえすれば、JICAから業者に直接支払が行われるのに、MRTジャカルタがその承認自体を引き延ばした)に対して
日本政府は奈良平国土交通審議官、中根外務副大臣が各ルートを使い、インドネシアの政府省庁からジャカルタ州政府を通じて支払承認を要請した。

B: 日本・インドネシア両国省庁からの圧力にもかかわらず、 2018年2月の時点までMRTジャカルタは支払承認遅延を正当化した。結果として、承認遅延期間分の利子は日本企業側の損失となっている。

C
: MRTジャカルタが弁解したように、インドネシアの業務ではBPKP(財政開発監督庁)による監査のため、ひとつの仕様変更に煩雑な承認プロセスを伴う問題があり、現地企業の悩みの種となっている。

D: 支払承認拒否の現地メディア報道は2018年2月以降途絶えており、2019年3月現在も継続した問題かは確認できない(時事通信社自身も「継続している」とは書いてない)。

E
:日本企業が保険などで損害を補填出来たかどうかは不明時事通信社記事では「支払いが滞り、赤字になった」と悲鳴を上げる担当者がいたとのこと。

………………………………………

A: については、インドネシアODAで発生した問題を日本政府が遅ればせながら対応した、という流れで考えて良いと思います。

C: については、インドネシア産業界における一つの宿痾と考えられるでしょう。自国の法的透明性を推し進めるために設立したBPKPという機関が、政府にすら束縛されないその権力ゆえに、内部監査を通じて政府機関や国営企業の活動を抑制し、仕様変更ひとつに二の足を踏む状況になっている訳です。逆に言えばODAを通じて、日本・インドネシア両政府がインドネシア産業のボトルネックをあぶり出した訳で、今後前向きに対処し得る問題とすら考えられます。

D
: については……マスコミらしい文章の書き方、としか言いようがありません。各種まとめを読む限り「金払え」と時事通信社の記事に釣られたコメントが多かったようです。

E: も、本当にこのような場合に適用される保険が無いのかは解りません。無ければ今後公的に作って欲しい、とは思いますが、リスクの適用ルールなど難しいでしょう。


………………………………………

問題は、B: です。
工賃の支払いがJICAによる直接支払のため、例え支払承認を延期したとしても自らの利益になる訳でもないのに、
更に日本・インドネシア省庁・ジャカルタ州政府等
多くの政治的圧力や根回し(MRT側が弁解の根拠とした監査機関BPKPすら、上述のように対応済)にもかかわらず、
MRTジャカルタは支払承認を拒否し続け、自らの立場を正当化しようと弁解を続けたのです。

………………………………………

極端な言い方ですが、このインタビューでMRTジャカルタが日本企業に対して一言お詫びのコメントを入れていたなら、
(勿論メディアのインタビューですから、MRTジャカルタ側からの謝罪部分は記事からカットされた可能性はあります)
今後の工事から手を引く旨の発言をする日本企業担当者は減ったと思います。

今回の件は、


この二つの面で、日本企業はODA事業に不信感を抱いた訳で、外務・国土交通省は今後の民間投資そのものに対して深い禍根を残した訳です。

……その後、外務省・国土交通省共にインドネシア要人との交渉の場はあったようですが、少なくとも両省庁のHPを見る限り、MRTジャカルタに対して再度の圧力を加えた様子は見られませんでした。

この件に対して両省庁はMRTジャカルタに再度圧力をかけ、支払承認履行までの公的な報告と今までの経緯への謝罪を求めるべく、なりふり構わず対応すべきでした。
それは今回被害を被った日本企業へのアピールだけでなく、今件が
「政府の圧力さえ凌げれば、日本からのODAは現地の一企業ですら支配出来る」
という日本政府のODA施策の弱点を突く問題だからです。日本政府、というより省庁が原則的に可能な圧力には限界があり、今後この弱点を突く者達の出現を防ぐ必要があったからです。


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……さて、この支払承認遅延問題を再度蒸し返す動きがSNS界隈から発生し、MRTジャカルタが再度コメントを行う事態になった旨、現地メディアが報道しました。

ジャカルタMRT債務に関する日本の漫画風刺への回答kompus紙 2019/04/09
https://megapolitan.kompas.com/read/2019/04/09/06560061/menjawab-sindiran-komikus-jepang-soal-utang-mrt-jakarta


〉この風刺は、MRT開発の借金について、日本の漫画家、Onan Hiroshiによって漫画の形で作られました。

〉onanhiroshi.comウェブサイトにアップロードされた漫画で、Onanはすぐに借金を返済するようインドネシア政府に求めました。

〉Onan氏は、「インドネシア政府、親愛なる皆さん、お支払いください!日本のご褒美のために」という見積もりも掲載しました。

〉この漫画は、国際協力機構(JICA)の2人の日本人が、ジャカルタのMRTから借金を回収するための黄色のプロジェクトジャケットとヘルメットを着用している様子を示してい ます。しかし、ジャカルタのMRTと政府は支払いに消極的です。

〉漫画はまたMRTを構築する上で彼の成果について称賛されたジョコ大統領の姿を示しています。

〉PT MRTは遅延支払いがないと主張している

〉MRTジャカルタムハンマド・カマルディン事務局長は、支払いの問題はインドネシア政府と日本政府の間で調整されていると述べた。

〉「誰かがそのような漫画を作れば残念なことでしょう。しかし、それは実際にはすでに行われています。そして実際には遅延(支払い)はありません」と2019/04/08にコメントした 。

〉「そしてこれはソーシャルメディアだけである、それで私たちはそれが個人的なメディアだけにあるので私たちが返事の権利を伝えるのでなければ公式のコメントをしない。重要なことはすべてが融資プロセスと規則と請負業者との契約に従うということだ」と彼は言った。

………………………………………

因みにこのonan氏の風刺漫画では、工賃の支払いは
インドネシア政府からMRTジャカルタを通じて行われる形になっていますが、
実際には前述の通りJICAから直接支払われるため、MRTジャカルタが怠ったのは支払の承認作業であり、この点は誤解しているようです。

※もっと酷いのは掲載したkompus紙で、上記引用の後に日本政府からの円借款を引用し、
『40年以内に支払われます』という小題の文章を掲載しています…

とはいえ、MRTジャカルタからの再コメントを引き出す事に成功したのは、この漫画の大きな功績だと思うのです。
この支払承認作業の進捗について、一年以上公表を避けてきたMRTジャカルタに、承認がついに終了した旨を公表させる事が出来たのですから。

この漫画そのものの評価は行いませんが、結果として日本政府も時事通信社も行い得なかった実績を残したこと自体は、十分評価に値するものではないでしょうか?


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今回の文章は、一応
TICADAUと補項(3)…SGR:ナイロビ高速鉄道
https://tenttytt.hatenablog.com/entry/2019/04/09/232614
の更なる補項になります。

SGR(モンバサ=ナイロビ高速鉄道)について一連の文章を作成していた先月頃、上記インドネシアジャカルタのMRT(高速大量輸送鉄道)事業での工賃支払遅延が話題になりました。
その際にここの文章もある程度作成していたのですが、微妙に時期が過ぎてしまったこともあり、一旦塩漬けにしていました。
04/09のkompus記事を見かけなかったら、そのまま塩漬けにしていたと思います。

TICADAUと』の頃の延長になりますが、主題の問題から基本スタンスが「外務省の対応の問題点」に変化してしまいました。ご了承願います。


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2021/01/23追加

“日本協力の在来線高速化事業に対する中国介入”の件


……取り敢えず、一つ分の記事にする気も無かったのでこちらに追記で。

jbpress.ismedia.jp

インドネシアでは現在、中国企業との合弁会社が、首都ジャカルタと大都市バンドンとを結ぶ全長約140キロの「高速鉄道計画」が進んでいる。日本と中国が受注を競い、不可解な経緯で中国が落札した事業だ。

〉これとは別に、日本の協力の下、ジャカルタインドネシア第2の都市スラバヤを結ぶ在来鉄道(約720キロ)の「高速化計画」も進んでいる(中略)

〉ところがそこに、インドネシアが突如として「中国の参加」を求めていることが明らかになった。

ジャカルタ〜バンドン高速鉄道に引き続き、ジャカルタ〜スラバヤの既存鉄道高速化事業も中国の手に……と誤解を受けかねない記事ですが、実際には


https://progres.id/bisnis/proyek-kereta-cepat-ke-surabaya-tetap-berjalan-meski-jepang-tolak-gabung.htmlインドネシア語

こちらの第18パラグラフにあるように、中国用の計画はタジクマラヤ・プルウォケルトジョグジャカルタ・ソロ(JBPress紙記事冒頭の地図だとマランの位置)を経由する南ルートで、日本が2019年から調査しているチルボン・スマラン経由の北ルートとは異なります。

昨年日本がインドネシア側からの要請を却下した、バンドン〜チルボン経由の相互乗り入れ路線とは全く別のものです。

勿論南ルートは当初計画に過ぎませんし、仮にジャワ島南北でルートが出来たとしても中国側が南ルートへの我田引水を謀る可能性はあるでしょう。

しかし巷で囁かれているような「また騙された・横取りされた」という嘆き、或いは「日本の土地調査結果を横取りされる」「鉄道技術まで横取りされる」という懸念は、今の時点では考え難いものです。

備忘録:アルジェリア・スーダン政変(2019/04)

アフリカ大陸の2国家、アルジェリアスーダンで近日立て続けの政変が発生しました……ので、遅ればせながら新聞記事中心に動きを追ってみました。
不完全燃焼ですみません。


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アルジェリアは2010年代中盤の資源価格下落を起因とした景気低迷・財政及び失業率悪化を背景とし、
https://www.aljazeera.com/programmes/countingthecost/2019/03/algeria-economy-money-190323072227306.html

(なお、報道が強調する景気低迷・失業率悪化の報道については、あくまで「2010年代としては」悪化した、それなり程度のものであるようです)
https://www.google.com/amp/s/www.ceicdata.com/ja/indicator/algeria/unemployment-rate/amp
https://m.coface.com/Economic-Studies-and-Country-Risks/Algeria

長年大統領職を継続したBouteflika氏による5選目出馬表明を契機に発生したデモが紛糾。結局出馬は取り消したものの、軍部等の支持基盤を失い大統領選挙前に失脚。
https://www.bbc.com/japanese/47796417

結局参議院議長が暫定大統領を引継(軍部が背後にいる、とは言われています)、90日後に改めて大統領選挙を行う旨宣言しています。
https://www.afpbb.com/articles/-/3220251?act=all&cx_part=carousel&cx_position=1&pid=21158661
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20190411/amp/k10011880261000.html

…………………………………

一方スーダンは数年前の経済制裁解除を契機に、逆に経済指標が悪化(この辺は、現在経済制裁継続中の国家に対する良いサンプルとなるかもしれません)。
https://www.google.com/amp/s/www.bbc.com/news/amp/world-africa-44711355
https://m.coface.com/Economic-Studies-and-Country-Risks/Sudan

経済混乱のもと、
https://www.reuters.com/article/us-sudan-economy/cash-runs-out-in-khartoum-as-sudan-tries-to-halt-economic-crisis-idUSKCN1NH1N4

小麦粉への補助金削減
https://www.google.com/amp/s/mobile.reuters.com/article/amp/idUSKBN15E1IK

を端緒とするデモが大統領府まで波及した末、国防相が大統領の身柄を拘束、大統領選挙実施までの今後2年の間、政情安定のため軍事移行評議会による自治を宣言するに至っています。
https://www.jiji.com/sp/article?k=2019041100910&g=int
(なお国防相は2019/04/13、軍事移行評議会の会長を辞任しました)

………………………………………

……ざっくりと調べたところ、このような状況になっているようです。
一見「経済情勢の悪化がデモを起こし、大統領の辞任を促した」点で同じように見える二つの政変が、実は経済背景も政変後の流れも(更にスーダン側の軍事移行評議会にのみ反対するアフリカ連合側の声明も)異なっているのがわかります。
https://au.int/en/pressreleases/20190411/statement-chairperson-commission-situation-sudan

………………………………………

なお、スーダン政変の引金となった輸入小麦粉の補助金制度(為替レートで1/4程度仕入値削減)
https://egyptssp.ifpri.info/2016/06/23/wheat-imports-subsidy-in-the-sudan-a-waste-of-state-funds-an-oligopoly-or-a-food-security-mechanism/

への依存体質については、1970年代からのアメリカからの有償補助制度“PL480”が絡んでいるようです…が、そちらは期間やら総量が分からないこともあり、あまり触れない事とします。
http://www.ifpri.org/cdmref/p15738coll2/id/126593/filename/126804.pdf

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すみません。上記記事は元々、『新宿会計士の政治経済評論』記事https://shinjukuacc.com/20190412-01/に、一読者としてのコメントを補う添付文章として作ったものでした……が、時期を外したうえ、自分でも未消化な部分が多く、一旦備忘録替わりの個人記事として公開いたします。

TICADとAUと(補項3)…SGR:ナイロビ高速鉄道

TICADAUと(5)で触れた、TICAD6の投資進捗悪化に関しての補項になります。

本論ではあえてTICAD6の投資進捗について触れましたが、その報道内容についての問題点まで細かく採り上げるのはあまりにも論旨から逸脱しているため、別文章とさせて頂きました。

本編の目次は下記URLまでお願い致します
https://tenttytt.hatenablog.com/entry/2019/03/28/203214

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『日本が整備のケニア港、中国の担保に? 現地で懸念の声』
 朝日新聞 2019/02/05(有料記事)
https://www.asahi.com/sp/articles/ASM1S01D4M1RUHBI03L.html

日本政府の途上国援助(ODA)で拡張工事が進むアフリカ・ケニア南東部のモンバサ港について、複数の地元紙が「中国からの債務の担保とされている可能性がある」と報じた。日本政府も情報収集に乗り出した。現地では中国による融資の拡大や不透明な債務状況に懸念の声が上がっている。

今年2月、中国による『債務者の罠』がしばしば伝えられる時期に、朝日新聞に上記の記事が掲載されました。
本論で取り上げた『日本のアフリカ投資、停滞 300億ドル「約束」、140億ドル未達 首相表明も民間投資低調』(朝日新聞2018/12/20 有料記事)からひと月半後の事です。

ケニアのDailyNation紙が特集を組んで以来、
https://www.nation.co.ke/news/Chinese-may-take-Mombasa-Port--Ouko/1056-4902162-xfphu7z/index.html
“China may take Mombasa port over Sh227bn SGR debt: Ouko”
DailyNation 2018/12/20

当時既にナイロビ-モンバサ間の高速鉄道(SGR)の債務についてはいくつかのメディアで話題にあがっておりましたが、

  • SGRの債務が滞った場合、モンバサ港の運営権を含む国内インフラを担保にするという趣旨の契約を結んでいた事
  • そのモンバサ港では日本のODAで大規模改修が進んでいる事


この二つを結び付け、記事の冒頭で報じたのは朝日新聞くらい
だったと思います。
このように関連付けされた記事を読めば

  • ODAで創られたインフラが中国に盗られる』
  • 『今後日本のODA選考は慎重になるべき』


自然とこう考えてしまうのではないでしょうか。


………………………………………

では、TICAD6閣僚会合での外相発言を思い出して下さい。

〉いくつかの被供与国において債務持続性の問題が発生しなければ,より多くの円借款案件を実施しえた。


そして、12/20の朝日新聞記事をもう一度。

〉首相が2年前に約束したアフリカへの300億ドル規模(約3・4兆円)の投資実現に黄信号がともっている。想定した民間投資が伸びず、今年9月で達成できたのは160億ドル。現地の日本企業からは見通しの甘さを指摘(筆者注:TICAD6で首相は民間投資の比率など公言していません)


これらを継ぎ合せると、朝日記事の言いたい事は

・中国に盗られるから、日本はODA見直せ。

→アフリカを高率債務漬けにして、
 日本からのODAを更に締め出せ。

→安倍政権が国際公約を果たせなかった。

こういうことになりませんか?


………………………………………

さて、朝日新聞の提案するように、仮に日本が開発から手を引いたら

  • 将来の市場を滅びるままに放置する日本。
  • 利益を生まないインフラと負債を抱えるケニア
  • そして借金のカタに「白い象」を得る中国。


どこも得をしません。

もしモンバサ港の利用量が上昇しなかったら、

SGR(ナイロビ高速鉄道)貨物利用者のパイは大きくならず、継続可能な利益を見込むことは困難になります。
逆に現状のように運賃値上げを図ったり、
https://www.google.com/amp/s/www.businessdailyafrica.com/economy/SGR-cargo-fees-up-79pc-on-China-pay/3946234-4864552-view-asAMP-8dxor2/index.html
“SGR cargo fees up 79pc on China pay”
DailyBusinessAfrica 掲載日不明

結局パイを小さくする策しか出て来ず、
https://kenyan-digest.com/why-higher-sgr-tariffs-could-hit-chinese-loan-repayments/
“Why higher SGR tariffs could hit Chinese loan repayments”
KenyanDigest 2019/01/24

最終的にはどこかの資本家に叩き売り、金融商品にでも組み込むしかありません。
https://www.nation.co.ke/news/world/China-plans-to-sell-off-its-African-infrastructure-debt/1068-4837516-g5f4j3/index.html
“China may take Mombasa port over Sh227bn SGR debt: Ouko”
DailyNation 2018/12/20


………………………………………

中国側に条件融和の圧力をかけ

(Business Daily Africa紙によると、負債総額48億ドル以上、年利12.5%かつ中国企業紐付き。因みに日本のモンバサ港開発借款は年利1.21%かつ競争入札です)
https://www.businessdailyafrica.com/analysis/columnists/Why-Chinese-loans-are-painful/4259356-4904282-jhugyl/index.html

一方でモンバサ港の開発継続による利便性向上を通じ、港の利用量を上げた上で、ケニア国内の貨物利用者そのものを増大させる。

この日本政府の対応は、ケニア・中国・日本共に利益をもたらし得る、落としどころだと思います。

勿論、SGRに対して不急の投資(国際コンテナデポの拡張など)抑制や、運賃値上げに頼らない利益率改善提案など、国際社会からの監視を併用することが望ましいですが。


………………………………………

※最初から採算性の悪いSGRなんて後回しにすれば良かった、といえばそれまでです。

貨物輸送に36時間かかりましたが、SGRに並行する狭軌鉄道は存在したのですから、当面はそちらを改修する方が効率的だった訳です。

河野外相の「債権国・債務国の両者が,債務が返済可能で,透明性があり,財政健全性を悪化させないことを確保することが重要」という言葉は、その辺についてケニアの計画、更には持続性より自らのロードマップやイデオロギーを重視しかねないAU(アフリカ連合)に釘を刺す意図もあったのではないか、と思います。

もう少し言えば、アフリカ諸国のみならずAUそのものの開発計画であるアジェンダ2063に対してすら、

「何か開発計画が偏ってませんかね?」
「まさか植民地時代の鉄道地図を塗り替えたいってだけの理由で、無理な計画を打ち出してませんか?」

位の皮肉は言いたかったのかも知れません。

※この辺は『補項:アジェンダ2063とTICAD6の乖離』でも触れています。
https://tenttytt.hatenablog.com/entry/2019/04/08/212649

補項:アジェンダ2063とTICAD6の乖離

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TICADAUと』などの補項として、
AU(アフリカ連合)の開発戦略として採択された「アジェンダ2063」の概略、及び2016年TICAD6当時の日本政府が持っていたアフリカ開発思想との乖離の試論になります。

アフリカ連合HPでの記載内容が先日(2019/04/07)大幅に変更されました。2016年当時の状況確認という主旨から、変更前のHP記載事項、及び添付資料(“First ten years' implement plan”等)を前提とした文章となっております。リンク先にある現行のHP内容と異なる部分がありますのでご容赦願います。

本編の目次は下記URLまでお願い致します
https://tenttytt.hatenablog.com/entry/2019/03/28/203214


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アジェンダ2063は

今後50年間にわたる大陸の社会経済的変革のための戦略的枠組みとして、2015年にAU(アフリカ連合)首脳会合で採択されました。
https://au.int/agenda2063/overview

………………………………………

それまでのアフリカ開発計画、すなわち

ラゴス行動計画(Lagos action plan)

アフリカ低開発の根本原因を新植民地主義的支配に求め、その脱却と自立的発展のため、地域共同体を通じた経済統合を2000年までに目指したもの…らしいです。全文が見つからないので…

アブジャ条約(The Abuja Treaty)或いはAEC(African Economic Community)設立条約

1994年発効された、地域共同体設立から大陸内自由貿易協定・関税同盟、共同市場、共通貨幣などの経済統合に向けた、6段階の時限式ロードマップを中心とした条約。

最小統合プログラム(Minimum Integration Programme)

発展スピード等の異なる地域共同体に対し、統合に相応しい共同体のビジョンを提示する形で、そこまでに必要な政策を採択させるプログラム。プログラムには経済的自由流通のほか、農業・産業・医療アクセス・教育・ジェンダー等多岐のビジョンが示されている。

アフリカのインフラ開発プログラム(PIDA)

大陸規模の輸送・エネルギー・横断水利・ITの4つの柱を中心とするインフラ戦略プログラム

包括的なアフリカ農業開発プログラム(CAADP)

農業生産・利益率向上・農業雇用、最終的には地域間の農業関連利害の調整機能確保などに向けたプログラム。アフリカ諸国に対して改善提案や、農業セクターへの公的支出確保の提案を行う。

新アフリカ開発パートナーシップ(NEPAD)

AU(アフリカ連合)におけるインフラ・農業・環境・人材開発・文化・科学技術及び大陸内市場アクセス分野など多岐にわたる開発プログラムを統合する機関。(上記PIDA及びCAADPもNEPADの開発プログラムの一部)

地域・国内計画

の統合体となります。


アジェンダ2063作成にあたり基礎

となったのが下記の1~6、すなわち

1.アフリカ連合の構成法

安全・平和・人権についての主文、Assembly・Exclusive Councilなど構成体の役割等について記されたもの。アジェンダ2063の基礎となるのは主文あたりだと思われます。

2.アフリカ連合の指針となるビジョン

「市民によって推進され国際的分野で活動力を示す、統合され、繁栄した、平和なアフリカ」


3.AU50周年記念宣言で採択された8つの優先分野

アイデンティティルネッサンス
 (氾アフリカ主義の確立と歴史文化教育)
・反植民地主義と自己決定権の完全化
・統合アジェンダ
 (アブジャ条約・AECの目的遂行)
・社会経済発展アジェンダ
 (教育・保健・インフラetcの持続的発展)
・平和と安全
 (戦争・紛争及び権利違反の排除)
・民主的な政府
・アフリカの自己決定
 (オーナーシップ発揮による社会資源活用と発展)
・世界の中のアフリカ
 (国連内の発言力向上も視野に入れた大陸発展)

4.2063年のアフリカの抱負

  • 包括的な成長と持続可能な開発に基づく豊かなアフリカ
  • 汎アフリカ主義の理想とルネサンス的ビジョンに基づく、政治的に統合された大陸
  • 優れた統治、民主主義、人権の尊重、正義、そして法の支配の元にあるアフリカ
  • 平和で安全なアフリカ
  • 女性や若者の力、また子供達をケアする環境に支えられて発展するアフリカ
  • 強く、団結し、回復力があり、影響力のある世界的なプレーヤーおよびパートナーとしてのアフリカ


※この7つの抱負のもと、20の目標と優先分野が、抽象的な言葉
(例えば「A High Standard of Living, Quality of Life and Well Being for All Citizens」「Incomes, Jobs and decent work」など)で設定されています。
https://au.int/agenda2063/goals

5.地域および大陸の枠組み

6.加盟国の国家計画

※以上の要約はAUホームページ“agenda2063-about”に記載されておりましたが、当該ページは2019/04/08時点で削除されたようです。
採択当時のアジェンダ2063の考え方を提示するため、掲載当時の内容を記しました。


……………………………………

そして、アジェンダ発行後10年間の実施計画として

まず12の旗艦プロジェクト

  • バーチャル大学・E大学
  • アフリカ製商品の価値形成
  • 政治・民間・学術等の定期的フォーラム
  • 大陸内パスポートフリー化
  • 電力供給のためのINGAダム計画の実施
  • 大陸内Eネットワーク構築
  • 宇宙進出計画
  • 航空市場の単一化
  • 大陸内国家間金融機関の設立

※2019/04/07以降、
 ・サイバーセキュリテイ
 ・アフリカ美術館プロジェクト
 の二つが追加され、14ヶとなっています。


そして上記「2063年アフリカの抱負」とリンクし、

期間と目標数値が設定されております。

https://au.int/agenda2063/outcomes


……上記アジェンダ2063を優先順位的に要約すると

1. アフリカの統合(経済だけでなく文化・アイデンティティ的な統合も含む)
2. 経済的統合のための期間指定計画
3. 持続的発展のための産業インフラ拡充
4. アフリカ内の平和
5. 人権、女性・子供の権利に対する支援
6. 保健・教育、etc…

このようになるかと思います。


………………………………………

さて、これからのアフリカの目標として採択された上記アジェンダ2063』と、翌2016年のTICAD6で日本政府からのアフリカパートナーシップの方針として発表された『ナイロビ宣言』ですが、これが微妙に噛み合っていません

以下、『TICADAUと(2)』で示したナイロビ宣言の箇条書きを再掲すると、

(1)経済の多角化、産業化
 …農業・畜産・鉱業・海洋、中小含む
  アフリカIT、観光支援。エネルギー
  都市問題へ の言及。バリュチェーン
  構築と付加価値向上
・質の高いインフラ
・民間セクター開発
 …雇用に向けた貿易投資促進、
  民間セクターの役割強化
  アフリカ内企業へインセンティブ
・人材育成(教育・技術・職業訓練全般)

(2)保健システムの強化
・公衆衛生上の危機への対応
・UHC(ユニバーサルヘルス・カバレッジ)

(3)社会安定化及び平和構築
 …教育・訓練・雇用面での社会安定化
・テロ及び暴力的過激主義への対応
 …テロ対策のため国際協調を呼びかけ
・地球規模の問題及び課題
 …環境・貧困等への対処と協定締結促進
・海洋安全保障
 …国際法に基づく海洋秩序

(4)21世紀における国連
 …安保理改革への決意を改めて強調

これらには、アジェンダ2063が最も強調する「アフリカの統合」に向けた協力姿勢はありません
ナイロビ宣言の(1)に見られる経済協力やインフラ支援は、あくまでアフリカの持続的発展に向けたものです。
一方、ナイロビ宣言の(2)(3)で見られる保健システムの強化や(闘争以外の)社会安定化は、アジェンダ2063ではあまり言及されていません


………………………………………

この差違について考えると、恐らくTICAD6時点での日本のアフリカ開発計画は、SDGs(Sustainable Development Goals 持続可能な開発目標)を元に作られたものだったからではないか、と思います。

SDGsとは、2015年国連サミットにおいて新たな国際社会全体の目標として採択された、17のゴールと169のターゲットにより構成される「誰も置き去りにしない」持続可能な開発計画です。
https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/sdgs/about/index.html(外務省HPより)

ナイロビ宣言における(4)国連に関するもの以外の各項目は、SDGsの複数のゴールやターゲットに跨がる、アフリカの持続的発展に必要な施策ではあるのです。

一方、アジェンダ2063とSDGsの連関は
https://au.int/en/agenda2063/sdgs
のように、アジェンダ2063の20項目の目標のうち5つ、特にアフリカ統合などの重要な目標は、SDGsのゴールと結びついていないのです。


……因みに、このSDGsにリンクしないアジェンダ2063の目標については、奇しくも2018年のFOCAC(中国アフリカ協力フォーラム)が拾っています。
歴史的アイデンティティの部分すら、「人的交流イニシアティブ」の一つに採用しているのです。
もちろんアジェンダ2063の最優先目標であるアフリカの「内向きな」統合そのものには触れず、具体的かつ自国との関係強化色彩の強い提案に収束するのですが。


この辺りの差が、TICAD6開催(2016年)時点でのアジェンダ2063、ひいてはアフリカ統合に対する日本の認識を浮き彫りにしているのではないか、と思います。
AU(アフリカ連合)の存在価値はともかく、彼らの掲げるアフリカ統合よりも、大陸の持続的発展の方が優先事項ではないのか?」


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端的な話ですが、アジェンダ2063に則れば
インフラ開発一つでも、そのインフラが持続的に自らの発展に寄与するかどうか、という視点が軽視されうる問題があります。

統合ロードマップや統合に向けた諸国発展などの名目で、採算の取れないインフラ開発を強行し、結果「債務者の罠」に陥っている節がある訳です。

“Their infrastructure systems, like their borders, are reflections of the continent’s colonial past, with roads, ports, and railroads built for resource extraction and political control, rather than to bind territories together economically or socially.”

〉経済的または社会的に領土を結び付けるためではなく、(領主国が)資源を抽出したり、政治的に統制するために作られた道路、港、鉄道と同じように
〉彼ら(アフリカ諸国)の国境のようなインフラシステムは大陸の植民地時代の歴史を反映したものなのです。

“Program Infrastructure Development for Africa (PIDA)”
AUホームページより

……植民地時代のインフラは優先して刷新する。

例えばSGR(モンバサ=ナイロビ高速鉄道)における「債務者の罠」の背景には、債権国家の思惑や政治家の利権以前に、アフリカ統合イデオロギーの負の部分があり、
2016年時点の日本政府はそこを危惧(あるいは忌避)したのかもしれません。


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2019/04/14以降、私の通信環境からAUのホームページに繋がらなくなってしまいました。
(アクセス権が無い、との表示が出ます。何でしょう)